【ANA発】社内の人財が持つ能力を、社会に還元するスキルシェア「ANA Study Fly」

Ambitions編集部

──日本をアップデートするのは、スタートアップだけじゃない。 スタートアップシーンが活況な中、特に2020年代から盛り上がりを見せているのが、企業内の「新規事業」だ。伝統的な日本企業の中から事業が続々と生まれ、自社のアセットを最大限に活用し、一気に社会実装を進める。そんなダイナミックな変革が起きつつあるのだ。 新規事業と社内起業家(イントラプレナー)を表彰するために誕生したイベントが、「日本新規事業大賞」だ。2025年5月8日「Startup JAPAN」の中で開催された第二回イベント最終審査7事業のピッチの模様を、集中連載で届ける。 シリーズ第五弾は、主にオンライン講座によって自らの技術や強みをシェアするサービス「ANA Study Fly」を展開するANAホールディングスの渡海朝子氏のピッチを紹介する。“ANAのホスポタリティ”という、まさに大企業のアセットを有効に活用した新規事業とは。

危機感を抱いた元客室乗務員が手がけるスキルシェアサービス

「みなさまは何かを変えたいと強く思ったことはありますか? 私は20年間客室乗務員をしてきて、子育てをしながら日々の仕事に追われ、一度もそう思ったことはありませんでした。そんな私が、何か変えなければと初めて感じたのが、2020年に起きたパンデミックです。

1億人以上の旅行客がいなくなり、空港からお客様の笑顔が消えました。そして、ほとんどのANA関係者が活躍の場を失いました。

そんなときに私が感じたのが、“何かを変えなければいけない”ということ。ANAが70年の歴史で培ってきたDNAには、飛行機が飛ばなくても人を幸せにできることがあるはず。そう強く思うようになりました。

そこで、ホスピタリティを備えたANA社員のスキルをお客様に届けるスキルシェアサービスならできるのではないか、と考えたのが『ANA Study Fly』です」

パンデミックでANAが直面した未曾有の事態を乗り越え、エッセンシャルワーカーが専門職の域を超えて価値を生み出す事業として始動した「ANA Study Fly」。

渡海氏は志を同じくするメンバーに声をかけ、社内の事業提案制度に挑戦。提案期間中に独自のスキルを持った15名の講師を集め、21のオンライン講座を開いた。

結果として、これらの講座では255名の受講者を集めて利益を出した。また、講師のメンバーは「空でしか役立たないと思っていたスキルで受講者に喜んでもらえて嬉しかった」など、自らのスキルに自信を持つことにも繋がった。

同時に、渡海氏は、世界が認めるホスピタリティを備えたANAの人財には大きな価値があり、“空を飛ぶこと”以外でも、多くの人の役に立つパワーがあることを確信できたという。

ANAホールディングス

幅広いビジネスパーソンのニーズに応えるANAの“人財”が持つスキル

21講座からはじまった「ANA Study Fly」は、2025年には約190講座まで拡大。内容は、客室乗務員の強みである「語学」「マナー」「コニュニケーション術」から、世界中を訪れるANAらしい「世界遺産」「料理」「ワイン」、さらには「ヨガ」「コーチング」「資産運用」などまで多岐にわたる。

ANAホールディングス

事業の開始直後は、受講者はコンシューマーが中心だったが、2024年以降はビジネス向け講座が増加。特にサービスを提供する業種からの要望が強く、新たな事業内容では外国の大使館から相談を受ける機会もあった。多くの顧客から「価値観が変わった」「行動変容が起きた」「理解が深まった」という声が寄せられている。

売上の面では、当初は数十万円という規模だったものの、現在はその40倍を超え、今年の4月にはすでに昨年度の50%以上の成約を実現。

今後、15兆円にもなると言われているインバウンド市場のなかで、渡海氏はANAだからこそ提供できるホスピタリティのスキルはさらに重要性が高まると考えており、人材不足が叫ばれる観光業界への貢献も視野に入れる。

ANAホールディングス

「『ANA Study Fly』の運営はたった2人で行なっているので、まだ大変なことも多いのが実情です。しかし企業内の新規事業ですので、グループ会社のアセットもどんどん巻き込み、1人が1.5倍、2倍の力を発揮して、日本全体の活力になれればと考えています」

審査員との質疑応答

Q:契約される企業の規模感や部署を教えてください。また、企業はどのような名目の予算で契約されることが多いんですか?

A:かなり幅広いジャンルの講座があるので、内容によって規模や予算は大きく異なります。例えば、「企業の会員様のコミュニティを活性化」を目指す企業であれば、営業部の費用ですし、「CSマインドの向上」を目的としている場合は、人材開発部の費用だと思います。

#新規事業

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