トヨタ自動車発。素材開発のデータ活用を支援するクラウドサービス【日本新規事業大賞 #04】

Ambitions編集部

スタートアップ産業が活発化し、新たなビジネスが続々と生まれている日本。しかし、イノベーションを創出するのは、スタートアップだけではない。歴史ある大企業・中小企業からも、革新的なアイデアと起業家精神を備え、社会課題を解決する挑戦者たちが活躍している。 未来を変える可能性を秘める彼らの活動と、優れた新規事業にスポットライトをあてるのが、「日本新規事業大賞」だ。 2024年5月15日、スタートアップ業界の展示イベント「Startup JAPAN」の中で、「日本新規事業大賞」のピッチコンテストが開催された。本シリーズでは最終審査に勝ち残った5つの企業内新規事業を、連載形式で紹介する。 第4弾は、トヨタ自動車から生まれた「WAVEBASE」。素材開発の現場で、難易度の高いデータ活用を実現するクラウドサービスだ。同社新事業企画部・山口剛生氏のピッチを紹介する。

自動車開発で培ったノウハウを、幅広い素材産業に応用する

金属や樹脂、セラミックスなど素材産業は、さまざまな分野で生活者を支えている。輸出総額は22.2%(※)を占めており、日本の基幹産業といってもいい。

一方で、近年は中国を中心に価格競争を重視した製品の供給能力が拡張したことで、グローバルの競争が激化。素材産業の競争力を底上げすることは、日本の経済・産業全体の課題となっている。この素材産業の領域にプローチしたのが、トヨタ自動車だ。

(※)財務省「貿易統計(概況品)」より

トヨタ自動車は材料領域のR&D部門を設置しており、他社の材料メーカーと共同で研究開発を推進している。世の中に存在しない材料の創出を目指した研究などを通じて、長年技術を蓄積してきた。

こうしたノウハウを生かすべく、トヨタ自動車の専門家たちが立ち上げたのが、材料解析に特化したクラウドサービス「WAVEBASE」である。

素材開発は、実験、計測、解析を繰り返し、量産のための技術を確立しなければならない。そのために膨大な時間と人員を要することが課題だ。 

データの取得に時間がかかること、データが多種多様であるゆえに統計的に扱いづらいなど素材開発特有の課題は、技術者の時間を消耗し、製品化のスピードを落とす原因にもなっていた。

データを取得しやすくし、扱いやすくする。素材開発におけるニーズに応えるべく誕生したのが「WAVEBASE」である。データが揃わず統計的な処理ができないが、データ活用の実績がなく投資ができない。こうした開発現場の負のループを解消すべく、飛躍的な効率化を実現するサービスとして、トヨタの新事業が始まった。

実験の解析を自動化し、素材性能向上のプロセスを加速させる

「WAVEBASE」は実験データの取得から次の実験へ至るサイクルを自動化することで、現場課題の解決を実現する。

ポイントは大きく2つある。

1つ目は、データの特徴を定量的な数値で可視化できる点。統計的な手法を用いた特徴量抽出による自動解析機能が構築されており、多種多様なデータであっても「意味のある情報を含んだ数値データ」へと変換できる。

2つ目は、次にすべき実験が提案される点。「WAVEBASE」は解析された数値データが届けるだけでなく、性能向上において重要となる要素を予測モデルに基づき解釈しながら、次にすべき実験を提案する。

「直感的なインターフェースにより、クリックするだけで簡単に解析が行えるのが『WAVEBASE』の強みです。専門知識がない方でも簡単に動かせ、DXを実現できます」

「WAVEBASE」のビジネスモデルは、アカウント数と期間に応じた利用料がベースとなる。システムの導入にとどまらず、サポートとコンサルティングを通じて顧客企業に寄り添うことも、提供価値の一つだ。

「これからも改良を重ねながら事業を拡大していきます」と言葉に熱を込める山口氏。今後、グローバル展開でさらなる販路拡大を期待できるという。

「WAVEBASE」で培われたデータ解析技術は、トヨタ自動車社内の現場でも活用されている。また「WAVEBASE」はトヨタ自動車が展開する新規事業の中でも先進的であることから、事業創出ノウハウなどを社内にフィードバックして、社内事業創出制度の設計にも貢献している。

「私たちは素材産業の発展が世の中を変えると信じています。『WAVEBASE』     により素材メーカーさまの課題を解決し、新たな素材を世に送り出すことで、日本のグローバル競争力向上を牽引していきます」

自分自身がトヨタの材料R&D部門に所属し、「素材開発の難しさを痛感してきた」という山口氏。その経験が「WAVEBASE」の誕生につながった

審査員との質疑応答

Q:マテリアルズ・インフォマティクスはさまざまな企業が取り組んでいますが、素材メーカーがトヨタのソリューションを選ぶ必然性を教えてください。

A:当社自体が計測データを扱うことの難しさを経験し、特徴量の抽出など具体的な現場課題にフォーカスしている点です。

Q:国立研究開発法人物質・材料研究機構でもさまざまなデータ分析が進んでいるので、ぜひ連携を進めてほしいです。蓄積されたノウハウは、トヨタグループで囲い込むのでしょうか。あるいは自動車業界のコンペティターにも提供されるのでしょうか。

A:広く素材産業の発展に寄与したいと考えております。ご希望するお客さまに広く提供していければと思っていますので、自動車業界のコンペティターにもサービスを提供してよいというのが、トヨタの方針です。

Q:素材開発メーカーに意思決定を促すため、どのようなプレゼンテーションを行ってきたのでしょうか。

A:最初からシステムを導入していただくのではなく、お客様の課題を伺い、WAVEBASEを活用した解決策を提示すると共に、トライアルで解析をさせて頂いた上で、ご検討いただいています。

text by Yuta Aizawa / photographs by kota Nunokawa / edit by Yoko Sueyoshi

#イノベーション#新規事業

最新号

Ambitions Vol.4

発売

ビジネス「以外」の話をしよう。

生成AIの著しい進化を目の当たりにした2023年を経て、2024年。ビジネスの新境地を切り拓くヒントと原動力は、実はビジネス「以外」にあるのではないでしょうか──。すべてのビジネスパーソンに捧げる、「越境」のススメ。