
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
華やかなパーティー会場の喧騒から少し離れた、静かなバルコニー。夜空の下で輝く東京のネオンを見わたしながら、本条真琴はワイングラスを静かに傾けていた。深い藍色のドレスを身に纏い、いつも以上に凛とした美しさを放つ彼女は、どこか遠くを見つめるような眼差しをしていた。
「本条さん、お疲れ様です。外で涼んでいたんですね。」
森本樹理が、そっと本条に近づき声をかけた。柔らかなピンクのドレスをまとった彼女はいつも通りの笑顔を見せているが、その瞳にはどこか緊張の色が浮かんでいた。
「ええ。少し、外の空気を吸いたくてね。」
本条は、森本に気づくと優しく微笑み返した。
「今日は、本当に素晴らしいパーティーでしたね。メロディーアシストの製品化、そしてメロディーライフの設立。まるで夢みたい…」
森本は、感慨深げにそう言った。彼女は、このプロジェクトがここまで大きな成功を収めるとは、想像もしていなかった。

「ええ。みんな、本当によく頑張ったわ。」
本条は、静かにそう言った。彼女の言葉には、増井たちへの深い愛情と、そしてこのプロジェクトに対する強い誇りが込められていた。
「本条さん、あなたはどうしてメロディーライフに?」
森本は、少し躊躇しながらそう尋ねた。彼女は、本条がなぜシンギュラリティ・エレクトロニクスからの好条件のオファーを断りメロディーライフの取締役に就任したのか、ずっと疑問に思っていた。
「私は、長い間ビジネスの世界で生きてきました。数々のプロジェクトを成功させてきた。でも、どこかで空虚な気持ちを抱えていたんです。」
本条は、遠くを見つめるような眼差しでそう言った。
「本当に、自分の人生を賭けられるチームに出会ったことがなかったから。」
彼女の言葉は、静かだが力強かった。
「でも、みんなと出会って、みんなも変わったけど、私も変わったの。みんなの熱い情熱、そして純粋な想いに私は心を動かされたのよ。」
本条は、森本に視線を向けると優しく微笑んだ。
「森本さん、あなたも同じ気持ちでしょ?」
彼女の言葉は、森本の心に深く響いた。
「はい。私も、増井さんたちと一緒にメロディーアシストを完成させたい。そして、世界中の人々に届けたいです!」
森本は、力強くそう言った。彼女の瞳には熱い炎が燃えていた。
「必ず成功させましょう。一緒に。」
本条は森本の手を握りしめ、そう言った。二人の女性は静かに見つめ合った。そこに言葉はもう必要なかった。彼らの間には強い信頼と、そして言葉にできない深い絆が生まれていた。
その頃、パーティー会場の中央では、有田が招待客に向かってスピーチを行っていた。華やかな赤いドレスを身に纏った彼女は、スポットライトを浴び輝いていた。
「本日は、誠に、ありがとうございます!」
有田は少し緊張した様子でそう言った。彼女はかつて増井と共に新規事業コンテストに挑戦した時とはまるで別人のように見えた。

「私たちは、今日ここに新しい会社を設立することができました。それは、私たちにとって大きな喜びであり、そして新たな挑戦の始まりでもあります。」
有田の言葉は力強く、そして未来への希望に満ちていた。
「私たちは、メロディーアシストを世界中の人々に届けたい。そして、音楽の力で世界をもっと優しく温かい場所にしたい。」
有田の言葉は、会場に集まった人々の心を強く揺さぶった。それは、単なるビジネスの成功を目指すスピーチではなく、世界を変える可能性を秘めた情熱的なメッセージだった。
パーティーも終盤に差し掛かり、招待客がまばらになった頃、森本は増井に話しかけた。
「増井さん、本当におめでとうございます。社長としてこれから大変だと思いますが、頑張ってください。」
「ありがとう、森本。君がいなければメロディーアシストは完成しなかった。感謝しているよ。」
「あの、増井さん。私、これからも増井さんのことを、ずっと応援しています。そして、メロディーライフで一緒に働きたいです!」
森本は、少し恥ずかしそうにそう言った。彼女の瞳は、増井への強い想いで輝いていた。

「森本。ありがとう。」
増井は、森本の言葉に胸がいっぱいになった。彼は、森本の気持ちを受け止め彼女の手をそっと握りしめた。
「一緒に頑張ろう、森本。」
増井の言葉は、静かだが力強かった。それは、森本への愛情と、そしてメロディーアシストの未来に対する強い決意の表れだった。

二人は、静かに見つめ合った。そこに言葉はもう必要なかった。彼らの間には、強い信頼と、そして言葉にできない深い絆が生まれていた。
メロディーライフの船は、今、希望のメロディーを奏でながら、新たな航海へと出発しようとしていた。それは、指の不自由な人々に音楽を奏でる喜びを届ける、愛と希望の物語の新たな章の始まりだった。