
──日本をアップデートするのは、企業の中から生まれる新規事業だ。 近年、伝統的な日本企業の中から事業が続々と生まれ、自社のアセットを最大限に活用し、一気に社会実装を進める。そんなダイナミックな変革が起きつつある。 新規事業と社内起業家(イントラプレナー)を表彰する「日本新規事業大賞」が、2026年に第3回を迎えた。本連載では、最終審査のピッチの模様を集中連載で届ける。 今回紹介するのは、「グロース部門」にエントリーした、三菱UFJフィナンシャル・グループのアコム株式会社発のスタートアップ、GeNiE株式会社代表取締役社長・齊藤雄一郎氏のプレゼンだ。 消費者金融の審査に通らなかった7割の人たちを救いたい。その思いから生まれた日本初のレンディングに特化した エンベデッド・ファイナンスサービス「マネーのランプ」。大企業の中から飛び出した叩き上げ起業家が挑む、新たな信用のデザインとは。
「借金=悪」じゃない──。7割が弾かれる業界を、内側から変える
齊藤氏のピッチは、問いかけから始まった。
「皆さん、お金を借りるということのイメージ、どのように思われているでしょうか」
借金=悪という印象は根強い。しかし齊藤氏はそう考えない。借り入れは人生の選択肢を増やす投資であり、手段だというのが彼の信念だ。現在、消費者金融を利用している人は10人に1人。決して少数ではない。しかし業界には2つの構造的な課題がある。
一つは、約9割の人が消費者金融の利用に抵抗感を抱いていること。もう一つは、審査通過率がわずか3割という事実。つまり、7割の人が弾かれている。
「その7割の方を何とか救いたい。金融機関は現状、お客様を表面的なデータでしか分析できていません。その方を細かく知ることができて審査に活かせれば、お金を理由に夢や目標を諦めなくて済む人が増えるかもしれない」
齊藤氏はアコムに新卒で入社した、叩き上げの人間だ。アコムの原点は90年前、1軒の呉服屋から始まった。お金のない若いお客様を信じて商品を貸し出した経験から、「人を信じる信用」を軸にビジネスを展開してきた会社だ。その精神を受け継ぎ、約4年前にGeNiEを起業した(2022年4月)。

APIをつなぐだけで、どんな企業でも金融サービスが始められる
課題を解決する手段として齊藤氏が着目したのが、エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)だ。ユーザーが普段使っているアプリの中で、自然にお金を借りることができる、新しい金融サービスの形である。
LINEやメルカリといったテック企業がすでに金融事業に参入している。しかし多くの企業にとって、金融サービスの提供は資金、オペレーション、ライセンスなど高いハードルが立ちはだかる。
「全ての企業が手軽に金融サービスを始められる。それが我々の提供する日本初のエンベデッド・レンディングサービス、マネーのランプです」
マネーのランプはBtoBtoCのモデルだ。金融業務はすべてGeNiEが担う。事業会社はAPIをつなぐだけで金融サービスを始めることができる。
事業会社は自らリスクを抱えずに新規の金融事業を立ち上げることができ、レベニューシェアによる新たな収益も生まれる。事業会社のブランドや世界観を生かした形で提供することで、ユーザーの心理的ハードルを下げ、データ連携によって一人ひとりに合った与信を実現する。導入は最短2週間、コスト0円だ。

イノベーションのジレンマを超えて、業界トップ自らが業界を変える
なぜアコムグループからこの事業が生まれたのか。齊藤氏はその理由を率直に語った。
「アコムにとって本事業は、短期的には競合を生み出すイノベーションのジレンマです。それでも業界全体の発展を考えて、乗り出すことを決めました。業界のリーダーこそが、自らの業界を変革する必要があると考えたからです」
業界トップのアコムグループとの事業シナジー、そして信用データの蓄積がGeNiEの最大の強みだ。サービスの提携社数は29社、累計申込者数は40万人に達している。累計貸出は100億円を突破。すでに日本を代表する企業との共創が始まっており、イベントなどでも高い評価を得ている。
5年後には提携社数100社超を見込む。言い換えれば、GeNiE を通して100の新規金融事業が誕生することになる。さらに並行してプロダクト開発、海外展開、プラットフォーム化も視野に入れている。

努力は夢中に勝てない。大企業の中から、一人でも多くの起業家を
齊藤氏はピッチをこう締めくくった。
「日本には素晴らしい企業がたくさんあります。大企業だからこその技術力、資金力、専門性、人材。これらを持つ大企業こそ、夢中になって新たな事業を生み出すべきです。努力は夢中に勝てない。大企業の中から一人でも多くの起業家が生まれることを、心から願っています」
社名の「GeNiE」は、アラジンと魔法のランプに登場するランプの精(Genie)から取った。人々の夢や願いを叶える存在になりたいという思いが込められている。エンベデッド・ファイナンスを通じて新たな信用の形をデザインする、という宣言に会場から大きな拍手が送られた。
審査員との質疑応答
Q:BtoCのサブスクサービスを提供している事業者が、過去の支払い実績をもとに信用判断して貸し付けるイメージでしょうか。また、大企業であれば自社でできてしまう部分もあるように思いますが、事業側の課題感はどうお考えですか。
A:サブスクに限らず、アプリでエンドユーザーをお持ちの企業が対象です。エクセレントカンパニーと呼ばれる大企業は垂直統合で事業を立ち上げることが可能ですが、中堅・中小企業はリソースも資金もない。その層が主なターゲットになります」
Q:現在の申込者40万人内訳を教えてください。従来のアコムのユーザーが移行したのか、それとも新しいユーザーが生まれているのか、いかがでしょうか。
A:二極化しています。これまでローンを借りたくないという方を発掘するという新規層と、アコムからルートを変えている方の両方がいます。
マーケティング調査では、アコムやその同業他社と迷って選んでいるのではなく、LINEやメルカリなどのローンサービスと比較しているお客様が多い。つまり競合セグメントが違う。新規層は現在会員数の2〜3割ほどですが、業界が広がるにつれて徐々に増えていくと考えています」
photographs by Kohta Nunokawa
