
──日本をアップデートするのは、企業の中から生まれる新規事業だ。 近年、伝統的な日本企業の中から事業が続々と生まれ、自社のアセットを最大限に活用し、一気に社会実装を進める。そんなダイナミックな変革が起きつつある。 新規事業と社内起業家(イントラプレナー)を表彰する「日本新規事業大賞」が、2026年に第3回を迎えた。本連載では、最終審査のピッチの模様を集中連載で届ける。 今回紹介するのは、2社がグロース部門の最終ピッチへと進出したソフトバンクのグループから、バーティカルAI事業を展開するGen-AX(ジェナックス)株式会社 代表取締役社長CEO・砂金信一郎氏のプレゼンテーションだ。 「生成AI技術活用の羅針盤として、業務をAI時代にFine-tuningしていく」を掲げ、自律型AIオペレーター「X-Ghost(クロスゴースト)」でコールセンターの変革に挑む。ソフトバンクのAI戦略において、最初に市場を変える"一番槍"の事業を届ける。
ソフトバンクのAI投資を、市場価値に変える
Gen-AXはソフトバンクの100%出資子会社だ。国産大規模言語モデルの研究開発を担うSB Intuitions株式会社とも連携し、ソフトバンクのグループ総力を社会実装へと結びつけていく。ミッションは明快だ。
「データセンターや国産LLMなど、ソフトバンクはこれまでにも、AIに対して多くの領域に投資をしてきました。いずれも技術や基盤です。その成果を市場に導入して、価値に変えて、収益事業を創る。その最初の役割を我々が果たします」
ホリゾンタルなアプローチが多い中、Gen-AXが選んだのはバーティカル。コールセンターという特定領域への深い参入だ。

なぜ、コールセンターが最初の戦場なのか?
Gen-AXが選んだ市場は、コールセンター。その理由は明確だと砂金氏は言う。
通信事業会社であるソフトバンクにとって、コールセンターはシナジーが生まれやすい。電話回線、ネットワーク、周辺企業群がすでにある。さらに大規模なコールセンターを自社で運営しており、運営ノウハウと強力なセールスチームも備わっている。
さらに、国内にある売上高1,000億円以上の上場企業のうち、ソフトバンクは約9割と取引関係がある。同社の圧倒的な営業ネットワークが、普及速度の源泉となる。つまり、成功確率が非常に高い領域といえる。
そこに投入するサービスが、自律型AIオペレーター「X-Ghost(クロスゴースト)」だ。

音声から音声を直接生成するSpeech-to-Speechモデルを活用し、人間らしい自然な対話を実現する。単にAIが流暢に話すだけでなく、お客様に誤った情報を伝えないためのガードレール機能も完備。現場で使えるクオリティへの徹底したこだわりが、競合との差異化を生む。
なお、2026年3月にはAIエージェント基盤技術において特許を2件取得。技術的な優位性にも裏打ちされている。
コールセンター業務は、すでに自動化できている
2025年11月の正式リリースから約半年で、大手金融機関を中心に受注内諾26件。PoC、MVP、本番構築と、同時進行で一気に市場展開が進んでいる。
事例のひとつが、三井住友カード。2025年12月から24時間365日AIオペレーターが稼働中だという。
さらにピッチ当日の朝9時、砂金氏へサプライズの一報が入った。
「本日朝9時から新たに、JALカードの方で応対が始まりました。本番開始です。拍手お願いします」
JALカードでは9割を超えるAI完結の正答率を実現。すでに“使えるレベル”は証明されている。

泥臭いことを、逃げずにやる
それでも砂金氏は慎重だ。現場にDay1から「全部AI化」を押しつけない。整理されていない業務課題が山積しているからだ。経験豊富なコンサルタントが伴走し、現場のナレッジを蓄積していく。かつては属人的な暗黙知だったものが、今はプロンプトになり、ナレッジグラフになり、横展開できるライブラリになる。
「立ち上げだけでなく、人間がやっていた改善のオペレーションもAI時代にアップデートさせます。これができて初めて我々の提供価値になる」
国内コールセンター市場は約2兆円。大手で磨いたプロセスを中堅・中小へ展開し、さらには多言語対応で東アジア圏への輸出産業化も視野に入れる。「日本のおもてなしの品質を、世界に届ける」——その覚悟がピッチ全体に漲っていた。
POCや性能比較をしている場合じゃない。もう使える
自立に自律を融合し、次の"流れ"を生成する——。それが、マイクロソフト、LINE(現:LINEヤフー)と数多くのAIプロジェクトを経験してきた砂金氏が行き着いた結論だ。
「POCとか性能比較とかそういうことをやっている場合じゃないです。もう使える状態にある。活用から、次のステップに進めたいと考えています」
審査員との質疑応答
Q:スタートアップが低価格で攻勢をかけてくる競合環境を、どう捉えているか。
A:「相手が国内スタートアップであれば、買収やM&Aも含めて包括的に考えます。競合するだけが作戦ではない。仲間を広げてエコシステムを作っていく。また、ここ勝負どころだという時、ソフトバンクの経営陣は大きく張ります。物量では勝てる自信があります」
Q:対話AIの競争力と、グローバル展開の具体的な戦略は。
A:「チームはソフトバンク出向者だけではありません。私を含め、LINE(現:LINEヤフー)のスマートスピーカー「CLOVA」の音声系を作ったAIエンジニアたちが集まっています。グローバル展開は東アジア圏の親日国から。日本のおもてなし文化に共鳴するお客様の海外拠点から仲間を増やしていく、それが我々の武器になると考えています」
photographs by Kohta Nunokawa
