
2026年5月、Ambitionsでは次世代地方創生マガジンとして『Ambitions REGION』を創刊。その刊行イベントが6月29日にLINEヤフーコミュニケーションズで開催された。 Ambitions REGION の誌面では、全国に輸出する官民連携の代表例として福岡を特集。「福岡モデル」とは何か、どう構造を理解し、因数分解し、波及するか──。 イベントでは、その福岡モデルをさらに深掘りすべく、特別セッション「福岡モデルを輸出せよ〜奇跡の官民連携都市、そのすごみをメタ化する〜」を開催。本記事ではセッションで語られた内容をお届けする。
Speaker
福岡地域戦略推進協議会(FDC) 事務局長 石丸修平氏
※FDCとは、福岡都市圏エリアの全セクター(産学官民)が参画し、地域経済の戦略策定から実行までを独立性と自立性を持って推進する「Think & Doタンク」。福岡市のマスタープランとFDCの地域戦略が連動して機能しているが、行政機能を持たない独立組織として存在。
LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長CEO 鈴木優輔氏
※同社は2016年から福岡市との連携を開始し、民間企業との協業を含め、10年間で120以上のプロジェクトを実装。行政と一緒に市民の生活をアップデートすべく、市民目線で小さな不便を解決し続けた、官民連携のトップランナー。
Moderator Ambitions 編集長 大久保敬太
(以下、敬称略)
メンタリティや信用、コミットメント──。官民連携の福岡モデルはソフト面が鍵
──まず、FDCとLINEヤフーコミュニケーションズ(以下、LYComm)の関係性について教えてください。
鈴木 FDCとは約8年前からお付き合いがあり、最初は全国の市区町村でも先駆けたキャッシュレス化の推進(当時LINE Pay、現在PayPay)を、FDCの実証実験フルサポートを活用して行ってきました。その後も福岡市とLYCommはFDCのいろんな仕組みを使わせてもらって、数多くの取り組みを実現させてきました。

石丸 そうですね。これまでFDCは行政課題を解決していくための仕組みや、民間や大学の先端技術をインストールしていくための仕掛けを作り、最大限活用いただいてきました。LINEは今まさに福岡のインフラになっていますよね。最近では福岡市のデータ連携基盤を活用いただいて、LINEの「屋台情報の発信サービス(屋台DX)」プロジェクトをご一緒させてもらいました。

──福岡は官民連携が活発で、全国からの視察も多いと思います。実際、福岡でどのような官民連携のモデルを作っているのか、それぞれの視点から教えてください。
鈴木 個人的には、仕組みよりも福岡のメンタリティが福岡モデルに寄与しているのではないかと思っています。
私が東京で働いていた頃、東京から新幹線で行ける名古屋や仙台への出張は日帰りになりがちでしたが、福岡出張は一泊を要する絶妙な距離感であることを実感していました。
この物理的な距離感が、東京の人にとっては「いつもと違うことをやってみたい」という期待になり、福岡の人にとっては「新しいことに挑戦しよう」というモチベーションにつながっていると思うんです。これが福岡の自立性や独立性というメンタリティになり、官民連携の新しい仕組みや座組み、発想が生まれやすい要素になっているのではないかと思っています。

石丸 FDCでは福岡都市圏の戦略として、福岡から東京を目指してその先に海外を見据えるのではなく、初めから福岡起点で世界的な視座を持つことをまちづくりのど真ん中に据え、さまざまなセクターの人たちと共有してきました。最近はスタートアップや学生などがそう語ることも多く、それが現在の福岡の強みにつながっていると思います。
加えて、福岡のキーパーソンたちが主体的に事業や地域にコミットして動く環境があるのも、福岡の官民連携が活発だと言われるベースになっていると思うんです。密接すぎないけれど関係性が近く、地域にちゃんとコミットして活動する方がとても多い。これも政策との連動につながっています。
高島(宗一郎)福岡市長もおっしゃるのですが、官民連携は誰とでもできるものではありません。
ある程度顔が見えて、信頼とコミットメントがあり、一緒に地域の政策課題に向き合えると思えなければ、行政は組めません。それらがしっかりと見える関係性と距離感があるのが、福岡の良さだと思います。

都市戦略の立案・実行組織と、民間企業のチャレンジを行政が許容
──メンタルや信頼、コミットメントというソフト面のお話が出ましたが、具体的に福岡流の官民連携のポイントはどう見ていますか?
石丸 行政が自分たちだけではできないことがたくさんあるという前提で、さまざまな担い手と向き合うスタンスを持っていることです。一般的に行政は、行政が考えた計画の中で官民連携をオペレーションしてほしい、行政に管理された状態で民間と向き合いたいという気持ちにどうしてもなりがちです。
その点、福岡では産学官民が一体となって官民連携が進んでいく。そもの役割をFDCが担ってきました。これはとても重要な要素だと思います。
──FDCという機能を行政が許容しているからこそ、産学官民連携がさまざまな形で進んでいくということですね。

石丸 まさにその通りで、高島市長や福岡市がFDCを許容して、しっかり向き合っているんです。
なかなか難しいことですよね。通常、FDCのような組織を作ろうとしたら、行政は自分たちのガバナンス内に組織を置き、自分たちの指示系統の中で動かすと思います。でもFDCは独立性と自立性を持ちながら、行政との絶妙なバランスの中で存在している。
もちろん、行政だけでなく、財界も大学も同様にFDCと向き合っているからこそ、我々は主体性を持って活動できています。
──鈴木さんは官民連携の先駆者として、福岡でその道を切り開いてきました。なぜ福岡で実現できたと思いますか?
鈴木 福岡には実証実験の仕組みをはじめ、何度もチャレンジできて、失敗しても許容される座組みがあるからです。
何度もチャレンジできる環境に必要なのは、信用と信頼です。行政からの信用がない状態で民間がチャレンジして失敗すると、行政はカバーできないから何もやらない方がいいという話になってしまいますよね。だけど福岡は街がコンパクトですぐに会いに行ける距離感だから、人との信頼関係を築きやすいんです。
こうした基盤の上にFDCや福岡市が民間のチャレンジの場を作ってくれていることが福岡の強みですし、我々が官民連携の道を切り開けてきた理由だと思っています。

福岡モデルを構築した戦略設計やチーム組成の思想
──次に官民連携のデザインを伺います。FDCはどのような思想で戦略を設計しているのか、LYCommはどのような構造なら行政と連携しやすいのかをそれぞれの視点から教えてください。
石丸 FDCは福岡都市圏を「東アジアのビジネスハブへ」という大きな戦略を掲げて2011年にスタートしました。ただ設立当時は、支店経済の街にもかかわらず支店が減り始めるなど、地域経済のリスクが顕在化していたんです。その環境の中でより自立的な担い手を増やし、東アジアのハブとして国際競争力を高めていくために、最初の10年間で経済規模の拡大と人口増加に向き合いました。
主に携わったのは、都市ブランドと国際認知を高めるためのMICEの誘致や、スタートアップ都市ふくおか宣言による新しい担い手を増やす取り組み、大規模な都市再開発プロジェクトの天神ビッグバンなどが挙げられます。
再開発に当たっては、福岡市とFDCの共同提案で「グローバル創業・雇用創出特区」を獲得し、航空法などの規制緩和を可能にしました。こうして大枠の都市戦略を可視化して、担い手になる人たちとのコミュニケーションを重ねることで、民間側の利益と官側の利益を創出させてきました。

石丸 現在は都市開発も進み、10年前の目標は達成しました。次のフェーズは単なる拡大ではなく質の向上を目指しています。住みやすさや持続可能な成長、生産性の向上や経済環境の質を追求していく。これらの戦略を産学官民が一体となって描き、必要な政策は行政が立案し、民間の事業活動ができる環境を用意する。全てが統合的に進んでいくことに引き続き取り組んでいきます。
──Ambitions REGIONの本誌の中で、高島市長は「天神ビッグバンは2015年のタイミングで始めなければ、人材面や物資高騰などさまざまな要因から実現は難しかっただろう」と話されていました。スタートアップ都市ふくおか宣言にしても、2012年当時はスタートアップという言葉すら浸透していなかった時代です。とても先見の明があると感じるのですが、どのようなロジックで見出してきたのでしょうか?
石丸 支店経済から脱却するために、福岡市は知識創造型産業の創出を経済戦略として掲げたんですね。この着想の発端はシアトルへの視察でした。高島市長がシアトルの方々から、自然が豊かで食事が美味しいなど街の説明を聞いていたら、まるで福岡のことを話しているようだねと(笑)。
一方で、シアトルはグローバル企業が集積していて経済的にインパクトがあり、東海岸と西海岸のグラデーションもあります。
そこで改めて福岡という都市のあり方や、東京との距離感を考えたときに、福岡市はスタートアップの環境に適したチャレンジする街になるのではないかとの発想に至ったわけです。

──その戦略でのプレイヤーの筆頭が、2013年に創立された当時のLINE Fukuokaだと思います。経営者としてどのようなチャレンジの仕組みを設計されましたか?
鈴木 これは個人的なリーダー論ですが、成功しそうなオーラがない人には誰もついてきません。この人は運が良さそうだ、この人と一緒にいたら楽しそうだと思ってもらいながら、大きな失敗をしないチームづくりを心がけてきました。
──大きな失敗をしない。
鈴木 チャレンジは何回でもしていいけれど、失敗は小さなものにとどめるのがポイントです。プロジェクトでも何でも、勝つときに必要なのは、勝つ要素を揃えることではなく、負ける要素を全て潰すことです。つまり、勝とうとするのではなく、絶対に負けないようにする。
たとえば官民連携でも「これをしたら行政や市民が嫌がるかもしれない」と少しでも思うならば潰していく。
誰も嫌がらないけれど、誰かにとっては得だよね、こういうのを市民や行政は求めているよねという案を作るのが重要だと思って実行してきました。
負ける要素を潰していくときのポイントは、徹底した現地・現物主義です。現地に何度も足を運び、福岡市の皆さんと何度も会話する。さらに自分たちが市民・県民として暮らす中で「こんなのがあったらいいな」を蓄積していく。これらの情報がチーム内に集まってくると大きな失敗は繰り返しません。

──何かエポックメイキングな事例を教えてください。
鈴木 最初に作った福岡市のLINE公式アカウントですね。他の行政も含めてLINEが多くは活用されていなかった9年前に、福岡市の職員と一緒に「ゴミ出し通知」が届く公式アカウントを始めました。
自分の住む地域のゴミ出しの日だけ通知がくるのは迷惑にならないですし、誰かにとっては必要なもの。そこから始めた小さな成功体験が後のプロジェクトにつながっています。
福岡は“副首都”になるか。新たなフェーズへの期待
鈴木 石丸さんの立場から、福岡のキーパーソンに今後期待していることがあれば教えて欲しいです。
石丸 大規模災害時の首都機能バックアップや東京一極集中の是正を目指した「副首都構想」に、福岡市や福岡県は有力候補地として名乗りを上げています。もし実現したら、明らかにこれまでのフェーズとは違うオポチュニティになりますよね。
今までにないビジネスチャンスも出てくるでしょうし、多様な機会を捉えて今までできなかった官民連携の発想も生まれてくるはず。だから、どんな挑戦をしていくのか、どんな連携を実現させるのかはみんなで考えたいですし、いろんな声を聞きたいと思っています。
鈴木 副首都になるのは素晴らしいけれど、福岡の良さをなくしてしまう方向には進みたくないですね。自分たちの自立性を大事にしながら副首都という名前がついたとき、どうすれば東京ではできないことができるのかというメンタリティで臨みたいと思っています。
石丸 福岡が大好きな人たちが作ってきた福岡の街ですからね。その延長線上で捉えていくことは大切です。
一方で、副首都という機会は福岡をより良くしていくためにも活用可能であることは事実。福岡の良さを高めながら、いかにこの機会を使っていくのかという議論は皆さんでたくさんしたいと思っています。
※イベント後には懇親会を開催。写真で様子をお伝えします。







photographs by Shogo Higashino
