
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
「メロディーライフ」「ヘルスギア」「フューチャーラボ」を含めた全案件の審議が開始された。増井たちのプレゼンテーションが、会場に巻き起こした感動と興奮の渦で、審査会は熱を帯びたが、石井事務局長は冷静だった。
(荒川君たちのプレゼンは、素晴らしかった。しかし、何かが引っかかる。)
石井は、荒川の言葉、表情、そして、その奥に隠された感情を注意深く観察していた。荒川は、プレゼンテーション中、何度か視線を泳がせ、言葉に詰まる場面があった。それは、まるで何かを隠しているかのような不自然な様子に石井には見えた。
(彼は、何か、隠し事をしているのか?)
また、石井は、「メロディーライフ」にも懸念を感じていた。
(増井君たちのプレゼンも素晴らしかった。しかし、事業化段階に進めて本当に大丈夫なのだろうか?)
石井は、増井の父親の事件、そして黒田と飯島の陰謀について想いを巡らせていた。彼は、増井が何らかの形でその事件に巻き込まれているのではないかと疑っていたからだ。
一方、審査員席では、社長が興奮冷めやらぬ様子で他の審査員たちに語りかけていた。
「素晴らしい! 増井君たちのチームは、本当に素晴らしい! あの技術は、世界を変える可能性を秘めている! 我々は、彼らを全力で支援するべきだ!」
社長の言葉に、他の審査員たちも賛同の声を上げた。
「社長のおっしゃる通りです! あの技術は、医療分野、産業分野、様々な分野に応用できます!」
「しかも、グローバルコネクトとの提携も決まっている。これは、大きなビジネスチャンスです!」
審査員たちは、メロディーアシストの可能性に、興奮を隠せない様子だった。しかし、石井は、冷静さを失っていなかった。
(確かに、彼らの技術は素晴らしい。しかし…)
審査会議は、その後も続いた。各チームのプレゼンテーション内容、事業計画、そして、市場性などが、審査員たちによって詳細に検討された。そしてついに、最終審査の結果が発表される時が来た。
「それでは、新規事業コンテスト、最終審査の結果を発表します!」
司会者の声が、静まり返った会場に響き渡った。