【KEYes野寄朋彦】南京錠から鍵穴と物理鍵をなくす。スマート南京錠で鍵のあり方に変革を

田村朋美

飛躍するスタートアップに共通することはなんだろうか? 福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」事務局長の池田貴信氏は、重要なポイントとして「人」を挙げる。 シリーズ「飛躍するスタートアップ」では、福岡に生まれ、飛躍するスタートアップのファウンダー、その「人」に迫る。 第○回は、「世界中の鍵をスマートに」を掲げ、鍵のDX化を推進しているKEYes株式会社の野寄朋彦氏だ。野寄氏は、企業や工場、施設などあらゆる場所で使われている南京錠の課題に着目。南京錠から鍵穴と物理鍵をなくし、スマホアプリで解錠作業を行えるスマート南京錠を開発した。そもそも南京錠にはどのような課題があるのだろうか。話を伺った。

High Growth Program

Fukuoka Growth Networkに加入するスタートアップのなかから、さらなる成長が見込まれるスタートアップを選抜し、定期的なコミュニケーションを通じて、必要な支援内容をカスタマイズして提供する選抜型プログラムだ。

2025年度High Growth Program採択企業

BoutiqueResidence&Co.株式会社 OYASAI株式会社 コースタルリンク株式会社 BeeInventor株式会社 KKEYes株式会社 株式会社トイポ 株式会社OneAI カプセルジャパン株式会社

野寄朋彦

KEYes株式会社 代表取締役

「世界中の鍵をスマートに」をスローガンに、スマホで解錠するスマートロック・キーズロックサービスを開発・製造・販売するKEYes株式会社を2018年に創業。固定電話の多くがスマートフォンに置き換わったように、鍵もその形や役割が変わると考え、まずは南京錠の鍵穴をなくすことで鍵のDXを推進中。

社会で見逃されていた、南京錠と物理鍵問題

外部の人が勝手に開け閉めできない扉には必ずついている「鍵」。家や車はもちろん、学校の教室や施設、薬品庫、自治体が運営する各種施設、会社や工場など、管理運用されている鍵の数は数えられないほどある。

その鍵穴に差し込む物理的な鍵(以下、物理鍵)には、紛失のリスクや、悪意のある第三者に複製されるリスクなどがあるものの、この仕組みは長らく変わっていない。人が多く出入りする場所であればあるほど鍵の数は多くなり、その管理が煩雑になってしまうにも関わらずだ。鍵の管理ボックス内で物理鍵が大量に保管・管理されている様子は、誰もが目にしたことはあるだろう。

近年、スマートロックや指紋もしくは顔認証で解錠する鍵も増えているが、それはメインエントランスが主流で、南京錠レベルの施錠で良い鍵は昔から進化していない。

そんなアナログな鍵に目をつけたのが、KKEYes代表の野寄氏だ。FGNに入居しながら、2018年にKKEYesを創業。当初は不動産賃貸管理業界が抱える課題を解決すべく、現在の事業を構想し始めた。

不動産賃貸管理業界の課題とは、賃貸物件の空室管理に使用している南京錠と物理鍵の管理がアナログかつ煩雑であること。物理鍵ではなくスマホアプリで物件の扉を開けられる仕組みを作れたら、誰がいつ、どの物件の扉を開け閉めしたのかがわかるためセキュリティも向上する。しかし、なかなか成約に結び付かなかったという。

「ターゲット業界を変えた方がよいのではと考えていたとき、九州電力との実証実験の機会を得ました。そこで物理鍵問題は不動産業界だけでなく、電力会社や大規模な工場を持つ企業なども抱えていることを知ったんです。物理鍵の管理はとても重要だけど、簡単に複製できるし、退職者から返却されていない、リアルタイムで誰が所持しているかわからないといった問題がありました」

しかし、南京錠の物理鍵に変わる製品はほとんど存在しない。そこで野寄氏は、鍵のアクセスコントロールがデジタルで簡単にでき、あらゆる業界で汎用的に使える仕組みを構築すべく、社名をKEYes株式会社に変更してプロダクトの改良を重ねることになる。

工事不要ですぐに設置できるスマート南京錠を開発

多様な業界でニーズを聞けば聞くほど、物理鍵が抱えている課題は多くあることに気づいた野寄氏。たとえば自動車工場では、製造ラインで働く従業員全員が物理鍵を所持している。何か不具合があってラインを止めた際に、誰かが間違って運転ボタンを押さないよう南京錠で運転ボタンにロックをかけて作業するそうだが、全員が鍵を持つことでその管理は煩雑になっているという。

また、大学等の薬品庫では劇薬や毒薬が厳重に管理されているが、扉についている物理鍵は簡単に複製できてしまうため、卒業生や関係者が薬品を盗み出すという事件が起きている。

「きちんと管理しないといけない物理鍵ほど、人の管理に頼り切っているケースがほとんどです。だけど、物理鍵の実数は把握できません。複製できないダイヤル式の鍵だったとしても、簡単な暗証番号を変更することなく使い続けているケースが多いため、これでは外部の人でも痕跡を残すことなく開けることができてしまうんです」

こうした物理鍵の課題を解決するために開発したのが、スマホで解錠操作ができるKEYes製のスマート南京錠とスマホアプリ、管理システムだ。スマート南京錠は消耗品として販売し、アカウント数に応じたシステム管理費用を月額で支払う仕組みになっている。

特徴は、今まで使っていた南京錠を鍵穴のないKEYesのスマート南京錠に置き換えるだけでよく、工事が不要であること。スマホアプリで解錠操作ができる上に、鍵の権限付与や削除もシステムで一元管理でき、誰がいつどこの鍵を開け閉めしたのかのログも残る。KEYesを導入すれば煩雑だった鍵のアクセスコントロールが効率的になり、かつセキュリティを担保できるようになるのだ。

「権限を持たない人は絶対に開けられないですし、何か不正をしようと思ったらスマート南京錠を壊すしかありません。従来の物理鍵もそれは同じですが、鍵を適切かつ厳密に管理できるのが大きな違いです」

外部の業者に鍵を渡して作業してもらう際も、スマート南京錠を導入すれば業者にアプリを入れてもらうだけで鍵の受け渡し作業が不要となる。管理画面上で必要な日時だけ鍵を解錠できる権限を付与し、業者はアプリを使って鍵を開ける。その後、時間内に作業を終わらせてアプリで施錠すれば、そのログも全て残るのだ。社内の部署異動があった際も鍵の返却作業や新しい鍵の受け取り作業などが不要となる。

サブスク南京錠に待ち構えていた導入の壁

現在、大手からのニーズが多いというスマート南京錠だが、プロダクトを展開する上でぶつかった壁はなかったのだろうか。

「大手からのお問い合わせが多く契約につながっていますが、通常の南京錠とは価格帯が大きく異なりますし、月額料金が必要なサービスなので、最初は導入に至るまでに壁がありました。100円ショップで買えてしまう南京錠に、なぜそんなに料金が発生するのか、と。だけど、南京錠を使った入退室管理や、物理鍵のアクセスコントロールができる仕組みであることを丁寧に伝えたことで、それなら安いねと評価されるようになりました」

管理者のリソースやセキュリティを考えたら、工事不要ですぐに取り付けられるスマート南京錠は、大手企業こそ全体のコストを下げられるプロダクトになる。現在は展示会やイベントなどで出会った企業からの引き合いが多くあるという。

「福岡市はFGNなどスタートアップが飛躍できる土壌を用意してくれていますし、我々の南京錠が世の中に広まっていくためのPRの場を設けてくれます。そもそも事業をゼロから立ち上げるには、何かしらの脚光を浴びる必要があると思いますが、福岡市は一緒に事業を考えたり、宣伝してくれたり、投資家を集めてくれたりと手厚い支援があり、それが企業からの引き合いにつながっています」

鍵のアクセスコントロールのデジタル化を実現するために

世の中で物理鍵や南京錠が使われているシーンは、想像以上に多い。アウトバウンドの営業活動はしていないにも関わらず、問い合わせが相次いでいるKEYes社は、南京錠の常識を大きく変えるかもしれない。

「家の鍵は家族間で共有されていたらいいけれど、施設や会社、工場など、人が立ち代わり入退室するような場所で安全性を担保するのは、とてもハードルが高いんです。鍵の受け渡しや鍵の予約などの管理を複数人で対応するのをやめて、デジタルで鍵のアクセスコントロールを安全にできる我々の仕組みを広く提供したいです」

また、多くの企業からの相談を受ける中で、顔認証で開けられるようにしたい、社員証やICカードを使えるようにしたいといった多様なニーズも生まれているという。しかし、各社ごとにカスタマイズを検討するも、最終的にはスマホで開けられたらいいかという話に落ち着くことが多いそうだ。

「顔認証やICカードに対応しようとすれば、必ず工事が必要になります。だけど、南京錠で管理しているような場所は、昔から変わらない南京錠レベルの鍵でいいんです。ただ、その管理が大変で煩雑になっているから、スマホで簡単に開けられて管理できる仕組みを開発しました。世の中に広まっているスマートロックとは違い、現在使っている南京錠をスマート南京錠に置き換え、物理鍵をスマホアプリに変えて簡単に一元管理する。とはいえ、現場の人の課題も多様なので、いろんなニーズに応えられるように製品のバリエーションを増やしているところです」

そんな野寄氏の活動に欠かせないアイテムは、もちろんスマート南京錠だ。入居しているFGNは旧大名小学校を活用しているため、教室がそのままオフィスになっている。その扉にスマート南京錠をつけて、スマホアプリで開け閉めしているのだ。

「電気が通っていない木材の扉にでもスマート南京錠は普通の南京錠と同じようにつけられるから便利ですよ」

スマート南京錠が“世界の鍵のスタンダード”になる日は近いかもしれない。

#イノベーション#DX

最新号

Ambitions FUKUOKA Vol.3

発売

NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!

福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。