
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
「栄えあるグランプリは…」
「増井博之君率いる、『メロディーライフ』チームに決定しました!」
司会者の言葉が会場に響き渡ると、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。増井たちは、顔を見合わせ、互いに喜びを分かち合った。
「やった!」
「ついに!」
「ありがとうございます!」



増井、有田、鈴木、そして森本は、感極まって涙を流した。彼らの努力が、ついに報われた瞬間だった。本条は、大きな一歩を踏み出したメロディーライフの面々ひとりひとりを見渡しながら、誇り浸っていた。石井は、審査員席から静かに拍手を送っていた。彼の顔には安堵の表情が浮かんでいた。

(増井君、おめでとう。君たちは、本当にすごいことを成し遂げた。)
石井は、心の中でそう呟いた。彼は、増井たちの成功を心から祝福していた。

会場の片隅で、川島は不敵な笑みを浮かべながらその様子を見ていた。
(増井、よくやった。これですべては計画通りだ。)
川島は、心の中でそう呟いた。増井たちがグランプリを獲得したことで、彼が黒崎と交わした特許技術の無償提供に関する密約はより確実に闇に葬り去られる。グローバルコネクトへの特許提供の主体は増井たちのプロジェクトとなり、川島はその責任から解放されるのだ。
(これで、俺は、安泰だ。)
川島は、安堵と、そして増井に対する歪んだ優越感に浸っていた。

一方、飯島は、会場から足早に立ち去っていた。彼女の顔色は蒼白で、怒りで体が震えていた。フューチャーラボとして再起をかけた最終審査だったが、結果は敗退。グランプリの栄光は、再び増井に奪われたのだ。
(なぜ、どうして、いつも、増井が…!)
飯島は、心の中でそう叫んだ。彼女は、増井への憎悪を抑えきれずにいた。
(許さない、絶対に、許さない!)
飯島の頭の中は、増井への復讐心でいっぱいだった。彼女は、手段を選ばずに増井を蹴落とすと心に誓った。

「増井、お前だけは、絶対に、幸せになんか、させない…!」
飯島はそう呟くと、タクシーを拾い夜の街へと消えていった。
荒川は、準グランプリという結果に安堵の表情を浮かべていた。ギアーズは、最終審査でいくつかの厳しい指摘を受けたものの、ヘルスギアの製品化は認められた。彼は今後もプロジェクトを継続できることに、胸を撫で下ろした。
(これで、よかったんだ…)

荒川は、心の中でそう呟いた。しかし、その安堵感は長くは続かなかった。
「荒川さん。」
彼の背後から、吉川花子の声が聞こえた。彼女の顔色は、硬く、目は、冷たかった。
「私たちは、話さなければならないことがあります。」

吉川の言葉に、荒川の体は硬直した。
(まさか、バレたのか…?)
彼の心は、恐怖でいっぱいになった。吉川は、ギアーズが準グランプリを獲得したことで荒川を告発する決意を固めていた。落選していれば、プロジェクトは終わり、告発する必要もなかった。しかし、ギアーズが製品化に向けて動き出す今、彼女は、もう黙っていることはできなかった。