
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
数日後、本条は黒田と再び会談した。場所は黒田のオフィスだった。
「黒田さん、再考の末、私たちはあなたの買収提案を受け入れることにしました。」
本条は毅然とした態度でそう言った。
「ほう、それはよかった。賢明な判断だ。」
黒田は満足そうに頷いた。彼は、本条たちが自らの提案を受け入れると確信していた。
「しかし、私たちからいくつかの条件を提示させていただきます。」
本条は黒田の言葉を遮りそう言った。
「条件?」
黒田は、少し不機嫌そうに言った。
「ええ。まず、私たちはメロディーライフの経営権をあなたに渡すつもりはありません。私たちは、MBOによってメロディーライフを独立させます。そして、あなたには支配権を持たない投資家として出資していただきます。もちろん業務提携を行いわたしたちの技術を活用いただく形はとらせていただきます。」
本条は冷静に説明した。
「な、なんだって…!?」
黒田は、本条の言葉に驚きを隠せない。彼は、本条たちが自らの提案を完全に覆すような反論をしてくるとは思ってもいなかった。
「そして、もうひとつ。私たちは、グローバルコネクトとの提携契約を継続します。ただし、その契約はメロディーライフがグローバルコネクトと直接結ぶ独占契約となります。つまり、あなたにはメロディーアシストの技術をグローバルコネクト経由でのみ利用いただく形をとらせていだきます。」
本条はさらに畳みかけるように言った。
「君たちは、何を言っているんだ…?」
黒田は、怒りをあらわにした。
「君たちは、私の提案を拒否するつもりか…?」
「いいえ。私たちはあなたの提案を受け入れるつもりです。ただし、私たちの条件で。」
本条は、黒田の怒りに動じることなく冷静に言った。
「あなたは、メロディーアシストの技術が欲しい。そして、新たな資金調達を成功させたい。私たちの提案は、その両方を叶えることができる、唯一の方法です。」
「しかし、グローバルコネクトとの契約は白紙に戻ったはず…!」
「ええ。しかし、私たちは彼らと再び交渉しました。そして、彼らも私たちの技術に非常に高い関心を示しています。私たちがMBOによって独立すれば、彼らは喜んで私たちと独占契約を結ぶと約束してくれました。」
黒田は、本条の言葉に言葉を失った。彼は、本条たちの戦略の巧みさに圧倒されていた。
「それに、あなたが今新たな資金調達を必要としていることも私たちは知っています。」
本条は静かに、しかし力強く言った。黒田は、本条の言葉に顔色が変わった。彼は、自らの弱みを見透かされたことに動揺していた。
「わかった。君たちの条件を、受け入れよう…」
黒田は力なくそう言った。彼は、本条たちに完全に出し抜かれたことを悟った。
