
北九州が誇る老舗大企業・安川電機。世界初・世界一の技術や製品を多数開発し、産業用ロボットやメカトロニクス製品を製造・販売しているグローバル企業だ。 そんな同社が昨今注力しているのが、ものづくり現場のAI活用推進。技術革命とも言えるAIソリューション「Alliom」×産業用ロボットで、つらい・大変な作業の自動化を進めている。 株式会社安川電機のAIロボティクス統括部長で、 Alliomを開発した同社グループの株式会社エイアイキューブ社長を兼任する 久保田由美恵氏に、未来につながる新たな挑戦について話を伺った。

久保田由美恵
株式会社安川電機 執行役員 技術開発本部AIロボティクス統括部長 株式会社エイアイキューブ 代表取締役社長
2025年、国際ロボット連盟による「ロボット工学の未来を形作る世界の女性10人」に選出。
子会社を設立し、業界初の新技術「Alliom」を開発
──安川電機の特徴と、久保田さんの挑戦について教えてください。
安川電機は1915年に創業し、「電動機(モータ)とその応用」を事業領域に、ACサーボモータ、インバータ、産業用ロボットの世界シェアトップクラスを誇るリーディングカンパニーです。
創業以来、世界初・世界一の技術・製品を次々と生み出しており、それらを浸透させることで機械の高度化やものづくりの自動化・省力化、労働力の不足や3Kからの解放といった社会課題を解決し、人々が安全で安心な人間らしい生活を送られる社会を目指してきました。
2018年には、製造・産業用ロボット向けのAIソリューション開発を目的に、子会社であるエイアイキューブを東京に設立し、私はその翌年に社長へ就任。経営のことは全くわからない状態で戸惑うことも多かったのですが、まずは若手エンジニア一人ひとりに何をやりたいか、どんな課題を解決したいかについて丁寧なヒアリングを実施しました。
その結果、「ものづくり現場で当たり前にAI技術が活用されている状態を作る」をスローガンに、自動化が進んでいない現場でAI活用を進めるためのAI開発プラットフォーム「Alliom(アリオム)」の開発に着手することと、2019年末の展示会でお披露目することが決まりました。
ここでいうものづくり現場とは、人間による目視検査や手作業による繊細な作業など、機械での再現は難しい工程を持つあらゆる現場のことを指しています。たとえば「お総菜をおいしそうに盛りつける」といった人の感覚に頼っていた作業の自動化を目指しました。

収集不可のデータを疑似的に作成。AI活用を可能に
──ものづくり現場でAI活用が進まない理由は何でしょうか?
それは、もともと品質の高い日本のものづくり現場からは、AIの教師データとなる不良品や異常データがほとんど出ないからです。それらのデータが取れないと、ものづくり現場で活用できるAIはつくれません。この課題を解決するのがAlliomです。特徴は、不良品や異常データなどの教師データを疑似的かつ大量に生成できること。「ないならつくればいい」という発想で、自動化されていないものづくり現場のAI活用を可能にしたのです。展示会でのお披露目を皮切りに、私はとにかくこの技術とエイアイキューブという存在を知ってもらうべく、飛び回りました。
そんな地道な活動が報われ、Alliomが世に知れ渡る大きなきっかけとなったのは、安川電機が“周りの環境に適応しながら判断する”自律性を持った次世代産業用ロボット「MOTOMAN NEXTシリーズ」を2023年に発表し、そこにAlliomが標準搭載されたことです。
今までの産業用ロボットは、プログラム通りに同じ場所で同じ動きを繰り返す作業はできても、人間のように周りの環境や状況に合わせた判断が必要な作業はできませんでした。たとえば、生鮮品や向きがバラバラの部品などは、一つひとつの形や向きを見て判断する必要があり、そこにはどうしても人間の目が不可欠だったんですね。でもAlliomはそうした作業を自動化できるため、ものづくり現場に革命を起こせるようになりました。
複数作業を同時にこなす。人間の複雑さをAIが学習
──人間が目で見て判断し、手に取り動かしていたような作業をAIができるように なるまで、どんな工夫をされたのでしょうか。
何かをチェックする、同じ作業を繰り返すといった単機能ならAIの精度は人間を超えますが、人間は思っている以上にいろんなことを同時にこなしているため、それをAIに学ばせるのはとても難易度が高いんです。
たとえば食品加工工場には、自動でキャベツを千切りにする装置があります。一見、自動化ができていそうですが、自動で千切りをするために肝心な「キャベツを装置にセットする」作業は人間にしかできません でした。なぜなら、千切りの柔らかい食感やキャベツの甘さを出すために、装置に対してキャベツの繊維の方向をそろえてセットする必要があるから。さらに、人間は「キャベツの外側の葉の色が悪い」と判断すれば、それも自然と取り除きます。つまり、品質検査も同時にこなしているんですね。
人間はこれらの作業を簡単かつ当たり前にこなしますが、これを自動化しようとすれば繊維方向を判断する機能とキャベツの葉を検査する機能など、人間の作業を細かく分解してAIに学習させる必要があります。人間は、気を利かしてやっている作業や、当たり前すぎて作業だと思っていない作業が多いので、これらを明確に細分化していくのは大変でした。

──自動化できていなかった作業を自動化することで、どんなメリットがあるのでしょうか。
「キャベツをセットする」といった作業が自動化できれば、装置に人を配置する必要がないため、人手不足の解消に役立つと思います。もちろん、その作業についていた人は、他の高度な仕事ができるようになるため、企業や事業成長にもつながるでしょう。
他にも、ものづくり現場では資材や材料などの重量物を人間が運ぶ作業がよく発生しています。そういった、人間にとってつらく大変な作業をロボットに肩代わりしてもらえたら、人間の負担は減りますよね。人がやらなくてもいい仕事はどんどん自動化し、より良い現場づくりに貢献したいと考えています。
とはいえ、ものづくり現場でAIによる自動化検証を進めれば進めるほど思い知らされるのは、人間は“想像以上に高度”であることです。一度に複数のことを簡単にこなす人間の作業を自動化すること自体、ものすごいチャレンジだと実感しています。
人間の作業のAI化はトップの意思決定
──久保田さんは2025年から、安川電機に新設されたAIロボティクス統括部長に就任し、エイアイキューブの社長も兼任されていますが、どんな背景があるのでしょうか。
エイアイキューブで培った技術を活用して、ものづくり現場でAIロボティクスの導入を加速させ、AI技術を広めていくために、安川電機にAIロボティクス統括部を新設し、チーム体制を構築しました。
なぜなら、すでに自動化が進んでいる業界なら、生産ラインの効率化を考える生産技術部門に対して効率化の提案ができますが、自動化できていないものづくり現場には生産技術部門などがほとんど存在しないため、商談相手が経営陣になるからです。
すると単にAIやロボットで生産効率を上げる話ではなく、会社の経営方針や企業理念を理解し、どんな目的で何を解決するかを提案することが必要になります。何が自動化の目的で、何を達成したいのか。経営者の思いを理解しながら提案するのは今までとは異なるアプローチで、これを新体制で実現させています。
──どのような業界からのニーズが多いですか?
自動化が進んでいない現場全てになりますが、新しい領域としては医療現場や飲食チェーンのセントラルキッチン、冷凍食品工場などからのニーズが挙げられます。
医療現場は医師や看護師だけでなく、食事や清掃、医療器具の滅菌などいろいろな作業が発生しています。それらの作業は病院ではなく給食センターやリネン業者など他社に委託されており、その委託された現場にも機械に置き換えられる作業はたくさんあることがわかりました。たとえば「回収した食器を食洗機に並べる」といった裏方の作業などは自動化を進められたらいいなと思っています。

目指すのは、人間とAIやロボットが共存する世界
──先端テクノロジーで現場が自動化され、人間のつらい作業がなくなった先には、どのような世界が待っているのでしょうか?
人間がAIやロボットを特別なものと認識せずに、当たり前のように共存している世界だと思います。
実はエイアイキューブの社長に就任した2019年当時、AIはまだ特別な存在で「AIを使えば何でもできる」「とにかくAIを使いたい」というニーズが世の中にあふれていました。私は「AIを使いたい」から「気づかないうちにAIが使われていた」という状態にならなければ普及しないと思っていたので、一貫して「ものづくり現場でAIが当たり前に使われている状態」を目指してきました。
ロボットに関しても、工場に大きなロボットをズラリと並べるのではなく、人間と人間の間にロボットが入って、それぞれに得意な仕事をするのが日常の光景になれば、きっと新しい可能性も見えてくるはずです。実際に安川電機では、ロボットは人間が苦手な作業をやり、人間はロボットが苦手な作業をすることで、お互いに無理なく最大のパフォーマンスを発揮できる現場を実現しています。
もちろん、自動化されていない現場にロボットやAIを導入するハードルはまだ高いのですが、業界で最初の一歩を乗り越えさえすれば、そこから一気に広がるはず。人間がつらくて大変な作業は、それを得意と するロボットにやってもらう世界は、想像より早く来るのではないかと思っています。
text & edit by Tomomi Tamura / photographs by Shogo Higashino

Ambitions FUKUOKA Vol.3
「NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!」
福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。