【コースタルリンク瀧本朋樹】海上通信DXで海に革命。船舶と港湾をデジタルで繋ぎ、事故のない世界へ

田村朋美

飛躍するスタートアップに共通することはなんだろうか? 福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」事務局長の池田貴信氏は、重要なポイントとして「人」を挙げる。 シリーズ「飛躍するスタートアップ」では、福岡に生まれ、飛躍するスタートアップのファウンダー、その「人」に迫る。 第9回は、「世界の余白に、人の可能性をひらく。」というパーパスを掲げて海洋DXを推進するコースタルリンク株式会社の瀧本朋樹氏。アナログな無線機による海上通信の環境にデジタル革命を起こそうとしている。瀧本氏はなぜ海洋領域に目をつけたのか。成し遂げたい未来とは何か。話を伺った。

High Growth Program

Fukuoka Growth Networkに加入するスタートアップのなかから、さらなる成長が見込まれるスタートアップを選抜し、定期的なコミュニケーションを通じて、必要な支援内容をカスタマイズして提供する選抜型プログラムだ。

2025年度High Growth Program採択企業

BoutiqueResidence&Co.株式会社 OYASAI株式会社 コースタルリンク株式会社 BeeInventor株式会社 KYEs株式会社 株式会社トイポ 株式会社OneAI カプセルジャパン株式会社

瀧本朋樹

コースタルリンク株式会社 代表取締役

商船高専、神戸大学海事科学部、九州大学大学院比較社会文化学府を経て、海洋政策シンクタンクや香川大学助教を歴任。船舶運航現場での事故や過重労働の経験を背景に、海上通信インフラの課題解決に挑むべく、2021年にコースタルリンクを創業。現在は、次世代通信規格VDESの社会実装を軸に、海洋・港湾領域のDXを推進している。

アナログな海上通信による船舶事故を防ぎたい

地球上の7割を占める“海”の世界。海洋課題といえば、プラスチックごみなどの海洋汚染や乱獲による水産資源の枯渇などに注目が集まることが多いが、実は海上を航行する船舶やそれらを管理する港湾も多様な問題を抱えている。

特に早急に解決すべきなのは、海上通信環境のデジタル化だ。現在海上では、通信環境が不安定な無線機をコミュニケーションツールとして活用しているため、うまく連絡が取れないことによる船舶同士の衝突や座礁が後をたたない。

そんな海上通信のデジタル化に挑戦しているのが、コースタルリンクの瀧本氏だ。同氏は船員として現場を経験したことで、現場からこの問題を変えられないことに気づく。

「海上通信に使われている無線機は、無線手段が統一されていないことから、通信したい船舶と通信できない、もしくは通信ができても音声が不鮮明で聞き取れないといった問題がありました。

こうしたコミュニケーション不足から発生してしまうのが、海上での事故。ただ、この問題を一隻の船がボトムアップで解決するのは無理があります。

そこで、海洋政策シンクタンクにお声がけいただいて、海洋・港湾領域の通信ルールを変更できないかと研究を進めていたのですが、社会実装には程遠いと感じました」

国際海洋プロジェクトや国内海洋政策のための行政交渉、内閣府プロジェクトへの参画など、シンクタンクでトップダウンの海上通信改革を模索するも、さまざまな要因から現場の方々のペインを変えるには至らなかった。

ボトムアップでもトップダウンでも海上通信にイノベーションを起こせないならば、ここには大きなビジネスチャンスがあるのではないか。スタートアップを創業して「海上の通信プロバイダ」となり、世界中の港湾や船舶がデジタルで通信できる環境を創出することが一番の近道ではないか。

──そう考えた瀧本氏は、海洋・港湾のDXを実現させるコースタルリンクを2021年に立ち上げた。

海上でのシームレスなコミュニケーションを実現

2022年の国内船舶事故数は1875隻で、その多くは大型船や港湾と通信できない小型船の事故だという。これらの半数以上はデジタルの通信環境が整っていたら未然に防げた、あるいは早急な救助につながっていた可能が高いそうだ。

しかも陸上に比べると海上は一つひとつの事故がもたらす影響が大きく、仮にタンカーが座礁して油が漏れ出すと、数兆円規模の損害賠償につながるケースもある。

事故を抑制するには船舶や港湾がシームレスなコミュニケーションを取れる環境整備が不可欠。そこで、コースタルリンクは衛星通信や地上波通信、携帯電話などさまざまな通信手段を接続する次世代のデジタル海上通信プラットフォーム「Coastal Link」を開発した。

これは、船舶間や船陸間の異なる通信規格を相互接続し、気象や地形に影響されず安定して船舶の位置情報や属性などを共有でき、ネットワークを通じてすべての船舶・港湾との高速通信を可能にするソリューションだ。

「Coastal Linkを活用すると海上動態をオンライン上に可視化できるので、港湾は船舶の位置関係を確認する、指示を出すといったアクションを簡単に行えるようになります。

一方船舶は、港湾や船舶同士の円滑な通信ができるのはもちろん、気象情報や工事情報など、今まで人力で集めていた断片的な情報を集約したポータルサイトとしても活用できるようになります」

さらに、既存のモバイル網が届かない遠海を航行する船舶には、Coastal Linkプラットフォームにつながる無線設備「Coastal Link OCEAN」の貸し出しサービスも実施。

国際標準化された技術基盤を活用しながら、まだ誰も成し遂げていない“海上のスマート化”の実現を目指している。

福岡から世界へ。次世代ソリューションで革命を起こす

近年、次世代衛星通信規格・スターリンクが急速に普及したことや、周辺技術が高度化したことで、海上通信の仕組みは大きく進化しつつある。

瀧本氏が創業した2021年当時から状況は大きく変わっており、挑戦し続けるコースタルリンクにも国内外の政府や企業、VC、一緒に働く仲間など応援者は増え続けている。

「海の世界は日本各地の自治体や国際機関、外国政府など幅広い海外ネットワークを連携させる必要があり、スタートアップにそんな大掛かりな事業を実現できるのかと創業当時は懐疑的にみられることもありました。

でも現在は、福岡市のHigh Growth Programをはじめとした複数のプログラムに採択されており、国内はもちろん東南アジアや欧州などで業務提携が進んでいます」

瀧本氏が提供するプラットフォームは、VDESと呼ばれる次世代通信規格を採用しており、衛星と地上波を組み合わせた高速データ通信を実現させる最新ソリューションだ。

このマーケットはブルーオーシャンのため、コースタルリンクが海洋領域で世界の覇者になる可能性は大いにある。

「海上DXを実現させて、海洋にイノベーションを起こすのは、私の使命だと思っています。

海上で活躍する人たちのフィールドを整えて、ゆくゆくは海から新規ビジネスが生まれるような状況を生み出したい。

この思いに共感して集まってくれた大切な仲間たちと一緒に、必ず成し遂げたいと思っています」

そんな瀧本氏が活動に欠かせないアイテムとして紹介してくれたのはiPadだ。

「もともとものづくりが好きで探究心を満たしたい私の相棒でもあり、いつでもどこでもソリューションをプレゼンできるビジネスパートナーでもあります。

福岡市の港湾は運営が特殊なので直接的な取引先になるかはわかりませんが、全世界を巻き込む壮大な挑戦になるのは間違いないので、福岡発のグローバル企業になるよう頑張ります」

#DX#イノベーション

最新号

Ambitions FUKUOKA Vol.3

発売

NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!

福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。