
1979年の創業以来、センサー技術を活用した製品に特化して「業界初」「世界初」を次々と送り出してきた、滋賀県大津市の「オプテックスグループ」。揺れ動く世界経済にも負けず、2021年には通期の売上高が458億円(連結)と過去最高を記録。従業員数も2000人を超え、経営規模が拡大する中でも、創業から変わらず「起業家精神」を掲げている。 その強さの秘密とは。そして、地域から世界に挑み続けるための組織像や求められる人材とは。地元に本社を据えグループの中核を担う事業会社・オプテックス株式会社のトップに聞いた。

上村 透
オプテックス株式会社 代表取締役社長
1960年生まれ。大学卒業後、1983年に三洋電機入社。2006年、オプテックス株式会社入社。2017年に同社の代表取締役社長に就任。三洋電機では新技術開発やビジネス開発に23年間従事。そこで培った知見を活かし新たな分野を開拓するため、オプテックス株式会社に参画。セキュリティ事業をはじめとした同社の主力ビジネスの事業責任者を務め、業界初となる製品やサービスを世に送り出す。現在は、ソリューションビジネス・DXの推進、M&Aや戦略的な事業提携の実施など、継続的な事業成長に重要な役割を担う。
最高益更新、上方修正……。続く好調
オプテックスは、自動ドアや防犯用などの特定用途向けセンサー(ニッチ製品)を手がける、「汎用品をつくらない」会社なんですね。例えば病院の手術室に特化したドアセンサーなど、各領域で用途を特定して、そこに最も合った製品を届けるニッチトップ戦略にグループ全体で取り組んでいます。
汎用品を大量に売ろうとすると、やはり経済状況に大きく左右されてしまう。しかし、特定用途に特化した製品は、ある種の「必需品」としてユーザーの皆さまから支持いただける上、モデルチェンジの回数も少なく済むために部品も確保しやすいんです。
2020年にコロナ禍で世界の経済がストップした際も、一時的に落ち込みはありましたが、翌年からは一気に需要が戻ってきました。経済活動に欠かせない必需品であること、物資不足のなかでも比較的安定した生産により製品をお届けできていること。このふたつが、最高の売上、利益を出せている結果だと思います。

目指すのは「センシング界のフェラーリ」
今では当たり前となった「赤外線を使った自動ドアの開閉用センサー」を、世界で初めて開発したのは我々です。また、河川などの水質測定センサーとIoTを組み合わせ、簡単に遠隔モニタリングできるシステムも業界で初めて開発し、環境問題が問題視される東南アジア市場などに投入しています。
このようなセンシング技術は創業以来の強みですが、たとえ技術力があったとしても汎用性の高い製品はすぐに真似され、追従されてしまうんです。例えば、屋内に設置するためのセンサー製品では、エラーを出すような外的要因が少ないため、後発の企業にシェアを取られてしまっています。
しかし、それが屋外用となると全く別で、晴天、雨、風、それに雪の日だってあります。どの状況下でもエラーを減らすというのは非常に難しい。そこにリソースを割いて「尖った」製品をつくり、徹底した差別化を図るんです。
車で例えると、ファミリーカーとスポーツカーの違いと言えますが、我々は業界の中でも特定ユーザー向けに、尖った「フェラーリ」を提供するメーカーであり続けたい。そうした自社の強みと、世の中の「お困りごと」の交わるところを常に探しています。
買い手よし、売り手よし、世間よしの「三方よし」という言葉がこの地域(旧近江国)にあるんですが、それを標榜できる会社でないといけません。

成長戦略のカギは「起業家精神」
今、我々は自動ドアセンサーにおける国内シェアの55%を持っていますが、世界市場規模でも200億円程度。さらに会社が成長していこうと思えば、特定用途で次々にトップを取っていかねばならない。オプテックスでは企業理念として「起業家精神」を掲げていますが、ニッチトップ戦略を成功させるには、その精神は必然なんです。
では、いかに起業家集団を組織するか。経営方針として大切にしているのは、ビジネスとしての良し悪しよりも、課題解決にやりがいを感じる人材が活躍できる「場の提供」です。個々のチャレンジがありつつ、それを発揮する場を会社側は提供せねばならない。起業家精神は、その両方で初めて成り立つものと考えています。
先ほどの自動ドアに関連すると、新たなDXツールとしてドアセンサーにビーコン(小型通信端末)を入れ、情報発信の新しいメディアとして利用いただけるサービス「オムニシティ」を開発しました。ドアの開閉だけでなく、通行者に対しての広告配信や、マーケティングに活用できるものです。
たった3人で始めた取り組みですが、技術とソリューションのかけ合わせにチャレンジして、新たなビジネス機会の創出を図ろうとしています。
地域企業が持つべき「まなざし」とは
よく「なぜ拠点が滋賀なのか」と聞かれますが、いわゆる地域企業とは違う「まなざし」を持っているからですね。用途を絞って製品を提供していく際、その市場がたまたま海外にある、国内にある、というだけなんです。
例えばセキュリティ製品だと、治安の関係で欧米の方が市場が大きい。ですから創業間もない時期でも、東京より先にロサンゼルスに営業所を置きました。グローバルにビジネスを展開していると、本社が滋賀でも東京でも、世界から見たら誤差にすぎません。それなら、自然豊かな環境の方が心身に良く、よりクリエイティブに働けるだろう、という考えです。「場の提供」にも共通する部分ですね。
地域企業だからこそ、広い「まなざし」を、幅広い選択肢を持つべきではないか。それこそが「三方よし」につながると思っています。
一方で、県内に本社のあるプライム市場上場企業は「オプテックスグループ」を含めて6社だけ。まなざしは違えど、地域には貢献する企業でありたいですね。グループでは子ども向けに琵琶湖の自然体験学習を20年以上続けていますが、今では「小学生の時に参加した」という方が入社してくれるまでに。地域ならではの喜びも、大切にしていきたいです。

企業DATA
- オプテックス株式会社
- 事業内容:各種センサーの企画・開発、販売など
- 代表者:代表取締役社長 上村 透
- 本社:滋賀県大津市雄琴5-8-12
- 創業:1979年5月25日
※2017年1月1日付で持株会社制としてオプテックスグループ株式会社を設立し、オプテックス株式会社を子会社とする体制に移行
(2023年1月20日発売の『Ambitions Vol.02』より転載)
text by Tatsuto Muro / photographs by Shina Matsumura / edit by Miho Matsuura