急速な進化を遂げているAI技術。特に2024年はAIの幅広い活用が進み、あらゆる領域での社会実装が始まっている。 AI時代のビジネス創出方法は何か、その時代に私たちが持つべきスキルや視点は何か── 起業家、AIエンジニア、SF作家、アーティスト、さらには都知事選挑戦も記憶に新しく、多様な領域で活躍する“令和の天才”の視点とは。 聞き手は、Ambitions大久保が務める。
安野貴博
AIエンジニア、起業家、SF作家
東京大学工学部システム創成学科、松尾・岩澤研究室を卒業。ボストン・コンサルティング・グループを経てAIスタートアップ企業を2社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。2024年の東京都知事選に無所属で出馬し、30代の候補者としては過去最高の15万票を獲得した。
AI社会実装の時代、日本の逆襲が始まる
AI時代に突入した今、日本にチャンスがきています。
10年前に比べると日本のスタートアップエコシステムは厚みを増し、レイターステージに向かう企業と人材が増えました。このタイミングで世の中に登場したのが、ゲームチェンジャーとなるAI技術です。
新しい技術が出ると、“勝つ会社”が入れ替わりやすいものです。技術革新によってアンロックされたAI技術、その“社会実装”が、日本はアメリカやEUよりも先んじる可能性がある。日本が世界に勝てるチャンスはあります。
理由は2つ。ひとつは労働人口が急激に減少する中、移民を欧米ほどには受け入れない日本は、人材不足をテクノロジーで解決するほかないから。人口ピラミッドの形が異なるアメリカやEUとは、状況が全く異なります。議論は起こるでしょうが、「やらざるを得ない」状況は、変革の大きなアクセルになります。
もうひとつは、AIフレンドリーな国民性。実は、日本人は、諸外国に比べてAIを恐れる人の割合が圧倒的に少ないのです。日本は個人も企業もAIフレンドリーで、個人は新しいサービスが生まれたら使ってみようとするし、それを肯定する社会的なコンセンサスがあります。これは日本特有だと思います。
日本はサービスの質に厳しい国です。だからこそ、例えば高品質な自動運転のサービスが実装されれば、世界規模で大きな市場をつくることができます。GAFAやそれに追随する企業が、ITの社会実装で時価総額をぐいぐい上げたように、日本企業もAIの社会実装の波に乗ることで、新時代の勝者になる、その天井が大きく開いていることに気づくでしょう。
2025年はAIエージェント元年
生成AIが世の中に広がり始めた頃、「AIは論理的な推論が弱い」と言われていました。しかしAI技術の進化は非常に速く、すでに論理的推論の能力は高い水準になっており、すぐに実用レベルになるでしょう。例えば、会議のファシリテーターをAIが行い、意見が飛び交う場を論理的にまとめ、導くといったビジネスシーンでの活用も期待できます。
こうした進化から予想すると、2025年は「AIエージェント元年」になると考えています。人間の介入なしにAIが特定のタスクを実行し、目標を達成するシステムが出てくる。ドラえもんのように親身に相談にのってくれて、問題を解決してくれるようなキラー製品が出てきてもおかしくないでしょう。
AI時代の必須スキルは、AI利用力と、事業の実験力
AIの時代、ビジネスパーソンに求められるスキルは2つ。ひとつは、「AIを使いこなす力」。かつてコンピューターが広まった時代、エクセルなどのソフトを使えることが技能になりましたよね。同じく、AIをいかに使いこなすかが、ビジネススキルになります。子どもたちに教えるとすぐに学んでコードを書き始めますよ。大人ができないはずはありません。
なに、わからないことはChatGPTに聞けば教えてくれるので、AIに聞きながらAIを学ぶ、ということがすでに可能です。学ぼうと行動すれば、すぐにできますよ。
もうひとつは「ビジネスの実験能力」です。スタートアップの世界では、100点満点のプロダクトを作ってからリリースするのではなく、最小限の機能を搭載したプロダクトを世に出して市場の反応を見たり、製品コンセプトや概要をプレゼンしてニーズを把握してから作り始めたりと、小さく試すことを繰り返して発展してきました。
大企業や中小企業、行政も同じように、アイデアを細かく試すことができるかどうかで、新規事業のハードルは変わります。
起業家としての、私の発想方法ですか?
そうですね、私の場合は頭の中に常に100近いアイデアがあり、いろいろ実験してみて、うまくいったものを広げている、というところです。
私の経歴を見ると、起業家、SF作家、アーティスト、都知事選立候補と、バラバラなことをしているように見えますが、私の中では一貫しています。アイデアを実現するために最も適した手法が、あるアイデアならビジネスで、あるアイデアならアート、あるアイデアは政治という具合です。
今の野望は、デジタル民主主義(※)の実現です。実現したいアイデアを試すための機会を探して、新しい技術と組み合わせて、手法にとらわれずに道を探しています。先端技術に触れながら、自由な手法でアイデアを試す。なにもこれは、エンジニアに限ったことではありません。すべてのビジネスパーソンにとって、ジャンルを超越して自由に活躍する時代は、技術的にはすでに訪れているのです。
※デジタル民主主義 AIなどを活用して多くの意見を取り込み、社会システムの変革を行う方法。
text by Tomomi Tamura / photographs by Takuya Sogawa/ edit by Keita Okubo