【動画】生成AIの流行で「変革元年」に。日本発のメディア・AI開発のキーパーソンらが掲げる野心

Ambitions編集部

2023年、生成AIの席巻は「わたしたち人間が本当にやるべきこと」について問いを突きつけるものだった。「変革元年」とも言える一年の最後に、メディア・大企業の組織変革・AI開発を牽引する女性ビジネスリーダーたちは何を思うのか。Ambitions編集長から投げかけられた3つの問い「日本の競争力」「女性の自己実現」「これからの野心」について、各リーダーが答えた。 (本記事では2023年12月に開催の「Ambitions Fes」で実施されたトークセッション、「ビジネスリーダーによる、日本トランスフォーメーション論」をレポートする)

「失われた30年」から脱却するには?

セッションの冒頭で、3人のビジネスリーダーにこれからの日本経済の伸びしろは一体どこにあるのかを聞いた。

メディアジーン創業者の今田素子氏は「勇気を持って海外に出ることが大事」と強調する。同社は2023年5月に台湾のメディア企業The News Lens Co.(TNL)と経営統合を実施。さらに同年6月には、米SPAC(特別目的買収会社)とナスダックへの上場に合意した。

今田素子 株式会社メディアジーン 代表取締役CEO・ファウンダー 出版業界で編集発行・海外版権交渉に関わったあと、1994年に「WIRED」日本版でビジネス・マネージャーを務める。1998年にメディアジーンを創業し、2015年にはインフォバーンを新設分割により設立。「Business Insider Japan」「ギズモード・ジャパン」など15のメディアブランドを運営。2022年より経済同友会幹事を務める。2023年5月より、TNLメディアジーンの取締役を兼務。

海外を目指したきっかけは、「テクノロジーの発展が加速するなかで、日本国内に閉じ続けることに危機感を覚えたから」と今田氏。TNLとの経営統合は、台湾をはじめ東南アジアを軸とした幅広いメディア展開の可能性を秘めていると話す。

「経営統合を通じて、あらためて日本企業のポテンシャルを再認識しました。特に技術力やガバナンスは、まだまだ世界で勝負できます。意識が国内にだけ向いている限りその価値を見出すのは難しいので、やはり世界を目指すべきですね」(今田氏)

続いて話したのは、HPやApple、GE(ゼネラル・エレクトリック)といった名だたる企業でキャリアを積んできた、NECの清水智美氏だ。清水氏は、現在、NECグループの変革プロジェクト「Project RISE」を推進し、企業カルチャーの醸成に向き合っている。

清水智美 NEC カルチャー変革統括部 日系・米系企業でBtoB領域のマーケティングと広報に従事。コーポレート側、ビジネス側の双方と、コンサルティング企業側から事業会社を支援した経験を持つ。2018年にNEC入社。人や市場を動かすマーケティング技法と、グローバル企業の人的資本経営に関する知見を用いて、同年に始動したNECの社内変革プロジェクト「Project RISE」を設計。その具体的実行を担っている。

欧米企業と比べると、営業利益率の低さやオペレーションの煩雑さなどの日本企業の課題は多いが、一方で「よい兆しが見えてきた」と清水氏は期待を寄せる。

「昨今、日本企業、特に経営層が変わろうとする機運を感じるようになりました。こうした流れの中で、AIをはじめとするテクノロジーの進歩は追い風となります。

また、ESGが重視される世界で、歴史の長い国だからこそ培われてきた日本人の『賢慮』を軸に、新たな価値を創出できるのではないかと考えています。『失われた30年』に終止符を打つタイミングが目前なのかもしれないですね」(清水氏)

企業向けにAI開発を手がけるシナモンでCo-CEOを務める平野未来氏は、「時代の先端にいることにワクワクする」と2023年の生成AIブームを振り返った。平野氏は、創業時からAI界隈の盛り上がりを見てきたが、生成AIが広がったこの1年間で多くの企業の目の色が変わったと指摘する。

平野未来 シナモン 代表取締役Co-CEO 1984年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。在学中の2006年にネイキッドテクノロジーを創業。11年に同社をミクシィに売却。12年にシナモンをシンガポールで創業、16年には日本法人を設立する。21年から政府の「新しい資本主義実現会議」有識者構成員に就任。ヤンググローバルリーダー(YGL)22年度クラスに選出。3児の母。

そして、このテクノロジーの進歩が、日本が長らく抱えている「人材不足」を解決する糸口になると話した。

「2024年からは、バーチャルアシスタントの技術が一段と進歩すると予想します。この先、AIを上手く活用できた会社が評価される時代になっていくはずです。きっと10年、20年後に、『昔はあんな働き方をしていたんだ』と驚くような変化が起きるでしょう」(平野氏)

女性活躍の進展、まだ2合目

続いて、女性ビジネスリーダーである3人に「いま、日本の女性活躍の進展具合は何合目か」という問いを投げた。今田氏からは「答えづらい。でも着実によくはなっている」、清水氏・平野氏からは「まだ2合目」という答えが返ってきた。

平野氏は、完全な男女平等の実現を山頂だとするならば、平塚らいてうが活躍した頃を「0合目」、1985年に施行された男女雇用機会均等法を「1合目」だと喩えた。そして、東京証券取引所が掲げた、2030年までに東証プライム上場企業は女性役員の比率を30%以上とする要請が出て、ようやく「2合目」だと話した。

「外部から優秀な女性を登用する企業もあり、数合わせだという批判があるのはわかります。しかし、長期的にこの比率を維持し続けるには、社内から優秀な女性を輩出する必要があります。本気で役員になりうる女性社員の育成に向き合う企業が増えれば、この施策は意味があったと言えるでしょう」(平野氏)

続けて平野氏は、「女性一人ひとりが萎縮しないことが大事」だと呼びかけた。女性社員の出世を阻む表現として「ガラスの天井」という言葉があるが、もはや会社にはそのようなものは存在しないと伝えていくことが重要だと強調する。

清水氏は、真の男女平等を考えるうえで、前職GEで「伝説の経営者」と呼ばれた故・ジャック・ウェルチ氏の象徴的なエピソードを話した。

GEは、女性社員の活躍や躍進を目指して1997年に設立されたグローバルな有志団体「ウィメンズ・ネットワーク」があることで知られている。

かつてこの団体が、オフィスに託児所を設けてほしい、と要求した際、ウェルチ氏は即座にNOと回答した。出産を経験した女性たちに「ぜひ職場に戻って活躍してほしい。一流の仕事をする人には一流の報酬を払う。一流のベビーシッターを雇うとよい」と伝えたそうだ。

「企業は社員のパフォーマンスに対してフェアな報酬を支払う。極めてシンプルです。短絡的に女性を特別扱いすれば歪みが生まれ、それがまた次の歪みを生みます。男性と女性というラベルの存在しないフェアな状態こそ、私たちが目指すところなのだと気付かされる逸話です」(清水氏)

モデレーターはAmbitions編集長の林亜季が務めた

今田氏は、女性活躍やダイバーシティをテーマとして取り上げてきた7年間を振り返り、明らかにどの会社も以前よりも意識が高まっていると話した。本気で女性活躍に向き合っている会社では、すでに効果が出始めていると強調する。

なかでも、最低でも女性執行役員クラスが3人いることで、ようやくインパクトが生まれるそうだ。

「女性が1人、2人だけだと結局、大多数の男性の意見に飲み込まれやすい。本気で取り組んでいるところは、女性執行役員クラスを3人以上入れて、きちんと女性としての目線を守っています。こうしたトップ層の変化は、現場で働く女性社員たちの多様化にも波及していくはずです」(今田氏)

2024年、女性リーダーが掲げる野心とは

最後に「Ambitions」にちなみ、3人が掲げる野心について聞いた。

平野氏は、テクノロジーを用いて「しなやかな社会の実現」を目指す。

「今後も気候変動が進み、未知の感染症が起きるペースが早まるなど、ますます私たちは地球に住みづらくなるかもしれません。これからは緩和するのではなく、いかに受け入れるかが求められると思います」(平野氏)

清水氏は、企業変革に携わるなかで「人間らしさ」を大事にしていきたいと言った。

「AIなどテクノロジーの進歩により、より一層、人間らしさを重視する時代が到来しました。欧米では、人間とは何であるのか、一体どのようなものに惹かれるのかといった哲学的な議論がかなり注目されているんです。日本企業でも、同様の議論は必要不可欠。私は、NECのカルチャー変革を通じて貢献していきたいです」(清水氏)

最後に、今田氏が「メディアを通じ、本気で社会を変えていきたい」と意気込んだ。

「私自身、雑誌を読んだことで人生が変わりました。出版業界に入り、本気でコンテンツや編集力を使って社会をよりよくしたいという一心で、起業しました。情報は伝え方ひとつで、受け手の気持ちや行動を変えることができます。これからも、コンテンツをきっかけに読者が深く考えるような体験を作っていきます」(今田氏)

Ambitionsは、今後も野心を持つビジネスリーダーたちを追いかけていきたい。

(本トークセッションが行われた「Ambitions Fes」のレポートはこちら

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text by Reo Ikeda / photographs by Ryosuke Sono & Mayukh P. Banerji / edit by Tomoro Kato

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