メイドイン福岡がアジアに愛される理由とは【JETRO福岡】

田村朋美

福岡や九州の事業者のアジア進出を強力にサポートしているのが、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡貿易情報センター(JETRO福岡)だ。 同センターは福岡・九州の事業者によるアジアでのビジネス展開をどう捉えているのか。 福岡のアジアにおける強みとは。 JETRO九州・沖縄地域本部本部長補佐 兼 福岡貿易情報センター所長代理の片岡一生氏に話を聞いた。

※肩書きは2025年4月時点

強みは近接性とインバウンド、福岡の「食」

──アジアの玄関として発展し続ける福岡の強みを教えてください。

強みは大きく二つあり、一つはアジアへの地理的な近接性と物流インフラが整っていることです。

アジアや北米を中心とした10カ国・44の主要な港とのネットワークがある博多港や、アジアへの直行便がある福岡空港が都市部にあることは非常に恵まれた環境といえるでしょう。

さらに、港と空港は高速道路や新幹線など周辺の交通インフラともつながっているので、福岡だけでなく佐賀や熊本から運んだ商品も、短時間でアジアに届けられるのが大きな強みです。

二つ目は、福岡にはアジアからの訪日外国人がとても多いことです。ソウルや上海へは約1時間半、香港は3時間半、バンコクは5時間半と、福岡空港からアジア各国の主要空港までの所要時間は比較的短く、アジアから訪れる外国人観光客は年々増加しています。

──これらの強みは、どんな産業の海外輸出に寄与しているのでしょうか?

福岡の海外輸出は圧倒的に機械類などの工業製品が多いのですが、交通インフラが整備されていてアジアからのインバウンドが多い福岡の強みは、「食品」や「農産物」の輸出に適していることです。

福岡を訪れた人は、とんこつラーメンや水炊き、もつ鍋、すしなど何かしらの“福岡の食”を体験しているため、福岡で食べたものを帰国後に自国で買えるとなれば、購入のきっかけにつながりますよね。

実際、マルタイはアジア各国からコンテナいっぱいのマルタイラーメンを要望されるほど人気ですし、あまおう生産者のうるう農園は残留農薬基準がとても厳しいと言われる台湾に、特別栽培のあまおうを輸出しています。加工品でも生鮮品でもアジア各国に福岡の味を継続して届けられているのは、短時間で届けられる近接性があり、福岡を訪れたアジアの人たちが福岡の食を愛してくれているからだと思っています。

──福岡の事業者自体も海外輸出に積極的なのでしょうか?

個人的な見解も含みますが、福岡市の事業者には脈々と受け継がれている商人気質があって海外進出にも積極的だと思います。福岡市には一級河川がないため、工業都市としては発展しなかった歴史があります。でも、福岡は九州と本州の結節点で、生産者と消費者をつなぐ商業の街としては非常に恵まれていたと思うんです。

商業が発展すると小売業や卸売業が発展し、人や物が集まって飲食業も盛んになります。すると、事業者たちが市場の動向に敏感になり、消費者が求めるものを提供するため変化にも柔軟になっていく。この要素が、福岡の事業者のアジア進出への感度の高さに良い影響を与えているのではないかと思っています。

実際、福岡の事業者からJETRO福岡に寄せられる相談のほとんどが「アジアに進出したいけれど、どうすればいいのか」と最初から貿易に前向きなんです。

海外進出したい事業者を探すことに苦労する地域も少なくない中で、福岡の事業者は変化や進化に柔軟で、輸出に対する抵抗感も相対的に少なく、むしろチャレンジして新しい市場を取り込みたいという意欲が高い。これらの要素が相まっている福岡は、今後もアジアをはじめとしたグローバルで成長するポテンシャルが高いと実感しています。

──開かれた「商業の街」として発展したからこそ、アジアにも開けているのですね。

そうですね。シンガポールにはシンガポールの、タイにはタイの商習慣がありますが、商人気質がある福岡の事業者は新しいものを取り込もうとする柔軟性があります。海外ビジネスにはこの柔軟性がとても重要で、国によって異なる通関手続きや規制、条件に合わせながらチャレンジする気質が福岡の大きな魅力だと思っています。

加えて福岡の生産者や食の事業者は「ストーリーのあるこだわりの商品を納得の価格で輸出したい」と考える人が多く、これが結果的に持続可能なビジネスにつながっています。

なぜなら、消費者の手に届くまでにいろんな人を経由したとしても、商品にストーリーがあれば人の手を介しても伝わりますし、現地で売りやすくなるから。思いやストーリーのある商品はファンを集めるうえに、価格競争にさらされにくいので、アジア各国で成長するビジネスへとつながっていくのです。

福岡の商人気質も海外ビジネスの鍵に

──メイドイン福岡の商品がアジアで愛されるために、JETRO福岡はどのような役割を担っているのでしょうか。

我々が注力しているのは、企業経営に海外輸出や海外進出の選択肢を持ってもらうことです。日本の事業者は売り上げのほとんどを国内から得ているため、海外輸出がマジョリティになることはあまりありません。

でも、「食」の海外輸出を考えると、平均年齢が40代後半で人口が減少している日本に比べて、平均年齢が20代や30代のアジア各国のほうが消費量が多いでしょうし、消費が活発な地域には市場があります。その活発な市場を取り込んで、持続可能なビジネスを展開してほしいと願っています。

福岡の輸出のうち食品や農産物の割合はまだごく一部かもしれません。しかし、国内で愛される福岡・九州の食文化でアジアとつながり、「自国で福岡の食を楽しみたい」「もう一度、福岡に行きたい」と思う人が一人でも多く増えたら、それはアジアから始まる世界平和といえるはず。

大げさかもしれませんが、食文化を通じた貿易によって平和な世の中を実現させたいですね。

text & edit by Tomomi Tamura / photograph by Shogo Higashino

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