特別栽培で「あまおう」を生産する、うるう農園の挑戦。台湾への輸出に成功

田村朋美

福岡県久留米市にある、日本最大のあまおう株数を誇る観光農園「うるう農園」。 減農薬の特別栽培であまおうを生産し、いちご狩りはもちろん贈答用のいちごや加工品で人気を博している。 そんな同社は、コロナ禍をきっかけに海外進出を決定。世界で最も残留農薬基準が高いと言われる台湾への輸出に成功したことで、国内外からさらなる注目を集めている。 有機栽培への思いや今後の野望について、取締役の古賀百伽氏に話を伺った。

師匠との出会いから始まった、あまおうの減農薬栽培

──福岡のブランドいちごである「あまおう」を生産している、うるう農園のこだわりや特徴を教えてください。

うるう農園は、8年前に夫婦で始めたいちご農園です。私は保険の営業、夫は海苔の養殖を生業としていたため、農業は全くの未経験でした。

それでも農業を始めたのは、私に小さい頃からアトピーやアレルギーがあって、体に優しい有機野菜を自ら作りたいと思っていたからです。初年度は、手探りでサニーレタスやモロヘイヤ、ロマネスコ、ソラマメ、タマネギなどの有機野菜の栽培に挑戦。ただ、本当にわからないことだらけで農家一年目にして行き詰まりました(笑)。なぜなら、日本の農業は害虫や病気対策としてしっかりと農薬を使うのが当たり前で、減農薬栽培はとても難しく手間がかかるから。

農薬を使うとコスト削減や効率化ができる上に生産量を担保できるので、必ずしも悪いことではありません。でも、日本で問題なく売られている農作物の中には海外に輸出できないものがあるほど、世界的に見ても日本の農薬基準はゆるいんです。

だからどうしても有機栽培にこだわりたかった。問題は、どうすれば減農薬の有機栽培ができるのか、本当に消費者が求めている有機栽培の作物は何かがわからなかったこと。

悶々と頭を悩ませていたとき、減農薬で特別栽培のいちごを生産しているいちご農家(師匠)と出会いました。その方から話を聞くうちに、いちごは日常的に食される農作物ではなく、嗜好品でこだわった分だけちゃんと評価される果物で、こういった嗜好品こそ有機栽培が求められるんだと気づきました。

その後、リタイアを決めていた師匠からビニールハウスを2棟受け継いで、化学農薬と化学肥料を基準値の5割以下に抑えた、あまおうの栽培を学習。「あかい、まるい、おおきい、うまい」の頭文字を取って名づけられた「あまおう」ブランドの名を汚さないよう、おいしいあまおうの生産を始めました。

その結果、うるう農園のあまおうは、減農薬による「特別栽培」認証を取得。この認証は福岡県のいちご生産者の約2%しか取得できていない希少なものです。この強みを武器に通販やマルシェなどで販路を拡大し、今や日本最大のあまおう株数を誇る観光いちご農園として、多くの方にいちごを届けられるようになりました。

質の高い商品を最短で届ける

──難しい減農薬栽培で農園を順調に成長させる中、何がきっかけで海外進出を決めたのでしょうか?

きっかけはコロナ禍でいちご狩りができなくなったことです。この先もずっと再開できないのではないかという強い不安に駆られ、ふるさと納税の返礼品を強化したり、自社のECサイトを立ち上げたりしていました。

その過程で、2022年からジェトロ福岡の協力を得て、海外輸出のための商談会に参加するようになったのです。

うるう農園の強みは、減農薬による特別栽培の認証を受けて品質の高いあまおうを栽培していることと、収穫後に農園から福岡空港まで自社配送できること。

通常の流通の場合、農家が収穫した農作物は農協、市場、バイヤーを経てようやく空港に運ばれることになります。一般的に、いちごの賞味期限は5日なので、国内で3〜4日が過ぎてしまうと、海外のスーパーに届く頃には賞味期限ギリギリになりますよね。特に台湾は残留農薬基準が厳しく検疫に時間がかかるため、通常の流通では輸出自体が難しいんです。

その点、収穫してすぐに福岡空港まで自社配送できる私たちなら、海外のスーパーでの棚持ちが単純に2〜3日延びることになります。

これらの強みを台湾のバイヤーに伝えると非常に良い反応を得られ、現状よりもさらに農薬を使わない方法での工夫を重ねたことで、無事に輸出が決定しました。

このニュースによって、消費者はもちろん、市場の仲卸やバイヤーなどいろんな方から連絡があり、国内外でものすごい引き合いにつながりました。

輸出により、台湾から訪れる“いちご狩り”客も増加

──国内外からの引き合いが増えたとのことですが、他に思わぬ反響はありましたか?

海外輸出を始める前は、いちご狩りに来る訪日観光客の9割が香港からでした。でも今は台湾からの割合がとても増えていて、「うるう農園のいちごが台湾でとても有名だから来ました」とうれしいお言葉をいただけています。

かつて台湾では「日本のいちごが相次いで残留農薬基準値超過になっている」と報じられ、日本のいちごのイメージは決して良いものではありませんでした。でも、うるう農園のいちごがそのイメージを壊す一助になっていることがとてもうれしいです。

台湾のバイヤーとの商談から始まったうるう農園の輸出事業は、香港、シンガポール、マレーシア、タイへと広がっており、あまおうのアジアでの知名度の高さに驚いています。国や地域によって求められる要望は異なるので、それらに真摯に応えることで、甘くてジューシーで質の高いいちごを世界中で楽しんでもらいたいです。

再現性のある農業に挑戦し、さらなる拡大を目指す

──今後の展開について教えてください。

今年に入り、3年間取引していた香港のバイヤーから「韓国で大量生産ができるようになったいちごの相場は安くなり、高級品であるうるう農園のいちごは買えなくなるかもしれない」と言われました。

日本産より韓国産いちごの売り場面積が大きい香港のスーパーからも「日本より韓国のいちごのほうが扱いやすく、価格も安い」と言われ、どういうことかと韓国に行ったんですね。

すると、韓国では国の施策として巨大な“いちご団地”をつくり、100ヘクタールを超える農場にずらりと並んだビニールハウスで効率的かつ安定的な栽培を実現させていました。

日本は韓国に大きく出遅れたことを実感し、高所得者が一定数いて、日本や和食に興味を持つ方の多いアメリカに高付加価値のあまおうの輸出を検討するようにになりました。来シーズンからはアメリカへの物流体制を整えたいと考えています。

加えて、久留米の農場では、地面に苗を植えるタイプの土耕栽培をしていますが、来年は佐賀県に新しく農場を構え、棚の上で栽培する高設栽培に挑戦する予定です。高設栽培のメリットは、土地の状態や質に左右されずに品質を一定に保ちやすいこと。温度や湿度などさまざまなデータを取得しながら再現性のある農業に挑戦することで、今後の更なる拡大や他の農家への技術・データの提供を実現させたいと考えています。

私たちが新しい販路や出荷の仕組みづくりを確立させることで、日本の農業を少しでも強くできたらと思っています。減農薬のいちごには勝機があります。再現性のある農業で、強いジャパンブランドのいちごを作っていきたいです。

text & edit by Tomomi Tamura / photograph by Shogo Higashino

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