地域を動かす人材はどう育つのか。地域に熱を生むロールモデルの再定義【イベントレポート】

田村朋美

2026年7月31日に、一般社団法人シェアリングエコノミー協会主催の「シェアリングシティフォーラム2026 〜シェアで日本列島の未来を共創する〜」が福岡県福岡市で開催された。 本記事では、「地域を動かす人材は、どう育つのか」をテーマに語られたトークセッションをご紹介。 これからの地域には、自治体・企業・住民をつなぎ新しい事業を生み出す人材が求められている。都市部人材や複業人材、関係人口の受け皿や育成の仕組みづくりも急務。そこで、必要な人材像と地域側の仕組み、人口を「シェア」する発想で地域経済を豊かにするにはどうしたら良いかについて語られた内容をお届けする。


Speaker

株式会社タイミー執行役員 社長室室長 石橋孝宜氏

面白法人カヤック 執行役員/ちいき資本主義事業ユニット長 中島みき氏

LoLLL株式会社 執行役員COO 金田一平氏

株式会社ホーホゥ 代表取締役 木藤亮太氏

Moderator

シェアリングシティ推進協議会 事務局長/福岡地域戦略推進協議会 マネージャー 髙田理世氏


人手不足解消のカギは、外から来た人と地域がタッグを組むこと

髙田 日本全国の地域で、人手不足は大きな課題となっています。宮﨑県日南市のテナントミックスサポートマネージャーとして「油津商店街」を再生させた木藤さんは、担い手不足についてどのように捉えていますか。

木藤 私は2013年に、日南市から油津商店街の再生を任されました。商店街再生のプロとはいえ、私自身は外から来た人間です。だから、商店街の所有者さんとの交渉や、地域の方に納得いただける説明をすることは、私一人では到底できませんでした。

そこで、まちづくり会社の株式会社油津応援団を設立し、商工会議所の事務局長を定年退職された地元の方を巻き込みました。彼は地域の方とつながりがありますし、地域の方も彼を応援したいからと輪が広がっていった。担い手不足を解消するには、外から来た人と地域の人がしっかりと手を組んでやっていくことが大切だと感じていました。

木藤亮太氏

中島 やはりそうなんですね。地域に内外から関与する人が増えることで、地域はより支え合える。外から来た人からのフィードバックを得られることで、活動の内容も視座も変わっていくのだと思いました。

木藤 そうですね。地元の人は地元の価値に気づきません。たとえば、日南は広島カープのキャンプ地ですが、それまで商店街の人たちは、「広島カープのファンが日南に来ても、野球を観てゴミを捨てて帰るだけ」と思い込んでいました。でも、商店街や飲食店の情報をシェアすることで、商店街にも約5万人のお客さんが来るようになったんです。これは地元の人だけの目線では辿りつけなかったこと。客観的な外の視点が加わったことで実現しました。

髙田 地域の担い手不足には、一極集中の問題も関与していると思います。日本全体で見れば、東京に一極集中しているし、九州で見ると福岡に集中していますよね。この課題について感じることがあれば教えてください。

金田 人の数だけでなく、経験や知見も集中していますよね。特定の専門分野の経験や知識、たとえばM&AやCFO、マーケティングなどの専門人材が東京に集中する一方で、地域にしかない資産や経験もあります。この異なる経験が循環することで相乗効果が生まれるのではないかと思っています。

金田一平氏

石橋 一極集中してしまう背景に、地域の仕事を“知らない”こともあると思うんです。大学を卒業して東京で就職する若者は非常に多いですが、地域にも企業はたくさんあります。実はタイミーでは、地方から都会に行く人よりも、都会から地方に行く人の方が多いんです。地域には地域ならではの仕事もたくさんあるから、隙間時間で経験してみたいと思う人が多く、数名規模の有限会社でも即座にマッチングしています。だから、地域の仕事情報を発信し、知ってもらうことはとても大切だと実感しています。

地域に興味を持つ人は少なくない。だから地域から手を伸ばす

髙田 少子高齢化が進む課題先進国である日本において、今地域にはどのような人材が求められていますか? 

髙田理世氏

木藤 地域の商店街は明確で、出店したい人やまちづくりに参加したい人を求めています。ここで課題になっているのは、商店街はそもそもクローズドな世界であること。「空き店舗がありますよ」「お祭りを開催しますよ」という情報が外に出ないから、空き店舗は誰に相談したら借りられるかがわからないし、お祭りにどう参加すればいいのかもわからない。そこで日南では、行政と一緒に情報を整理して、関わりやすいオープンな商店街に変えました。すると、出店したい人たちが集まってきたんです。

東京などの大都市に人口が集中している一方で、ローカルと関わりたい人は一定数います。問題なのは、知らない街とどう関わっていけるのかが全くわからないこと。仕事をきっかけに地域と関わった人が地域からものすごく歓迎されると、その地域でさらに活躍してくれてロールモデルになります。すると、その人に追随するように人が集まっていく。この仕組みを自治体と一緒に作っていくのが重要だと思います。

金田 東京圏に住む20代の若者の45%以上が地方移住に興味を示し、社会課題解決への意識が高い層に絞ると、割合は6割以上になるという国土交通省の調査があります。これだけ地域の暮らしに興味を持つ人が多いにも関わらず、実際に地方移住や地方での転職をする人はほぼいません。地域に介在したいけれど、介在の仕方の解像度が低い。そこをどう解決するかが今後の課題ですね。

髙田 地域での暮らしに憧れはあっても、そこで働くことに現実味がないのかもしれません。この課題を解決するために実践していることがあれば教えてください。

石橋 移住を考えている人の背中を押すために、タイミーでは地域で働くきっかけを作っています。地域で働くと、地域の人たちから温かく受け入れられるので、移住後の生活をイメージしやすくなると思います。

石橋孝宜氏

金田 私は月に何度か、東京在住で地域に興味のある人を集めてスナックを貸し切るイベントを開催しています。東京にいながら地域の人や行政の人とリアルな対話ができるのがポイントです。

髙田 リアルの場を東京で作るのは良いですね。

木藤 しかも、スナックはハードルが低いですしね。遊びに行く感覚で地域の人や行政の人と出会える。私も九州移住ドラフト会議という、九州の地域と九州に住みたい人が出会う場を作っています。通常、移住する側が住みたい地域を選びますが、ドラフト会議は地域が個人を選ぶんですね。地域から指名されると、行ったことも聞いたこともない場所だとしても「一度行かなきゃ」と思いますし、純粋に嬉しいはず。しかも、指名された地域に行くと、歓迎されておもてなしされるから、その地域を好きになる。地域側から興味のある人たちに手を伸ばしていくことも、大切ではないかと思います。

中島 待ちの姿勢ではなく、自分たちから攻めていくのは大切なことですね。しかも、攻めるためには地域の人たちが自分たちの話をできるようにならないといけない。

中島みき氏

木藤 「こんな人材が欲しい」と明確に言えるようになるといいですね。今や、人口をボリュームで見る時代は終わっていて、1000人が移住しても街に関わらなかったら何の意味もありません。そうではなく、地域に関わって活躍してくれる人が10人来たら、きっと街は変わっていくはず。だから地域側もしっかりと発信しないといけないと思っています。

髙田 地域から手を伸ばしていくことで、地域に興味のある人との関わり方を変えていくということですね。

石橋 実際、タイミーで地域での草刈りや雪かきの仕事を発信したら、20代の人たちとマッチングしました。移住前提ではなくスポットで地域と関われるようにすると、地域の役に立ちたいからと自ら手を挙げる人はたくさんいますよ。

人を奪い合う時代から、人を循環させる時代へ

髙田 最後に、人口をシェアすることで地域経済を強く豊かにするために、取り組んでいることがあれば教えてください。

石橋 富山県氷見市で、タイミーと商工会議所、自治体、観光協会、漁協、農協、社会福祉協議会が連携し、労働力をシェアする取り組みを始めました。これが地域経済を豊かにするきっかけになればいいなと思っています。

金田 鹿児島日置市で、オフラインとオンラインのハイブリッドなバーチャルスクールを始めました。目的は、地域のシビックプライドを高めるため。若者が戻ってきたくなる、働き続けたくなる街になるには、学びを起点にしながら成長意欲のある街であることを示す必要があります。暮らしやすいだけでなく、キャリアを考えられる街になるために、地域企業や自治体と連携して学習プログラムを作っています。人を呼び込むための土壌づくりですね。

髙田 暮らしと仕事を“学び”がつなげる。モチベーションを高めるためにも必要なことだと思います。

木藤 私が油津商店街の再生に携わったのは2013年から2017年の4年間です。あれから約10年が経ち、最近になって起きているのが、東京で就職した当時中学生や高校生だった子供たちが、次のキャリアの場として日南を選び始めていること。だから、商店街で働く若者が増えているんですね。街が変わっていく姿を見ていた子供たちが、大人になって地元に戻る選択肢を取ってくれている。

当時、10年後の種を蒔いていた感覚は全くありませんでしたが、10年後に予想もしなかった嬉しい変化が起きました。目の前の課題を解決することも大切だけど、少し未来の変化を生み出すために、取り組み続けることが大切だと実感しています。

髙田 人を奪い合うのではなく、人を循環させること。それが、これからの地域には大切なことですね。

#イノベーション

最新号

Ambitions REGION VOL.1

発売

次世代地域創世マガジン

ビジネスマガジン・Ambitionsから、地域経済にフォーカスする新マガジンが誕生。 全国各地、産業振興の最前線を取材し、現場の「熱」を届け、「構造」を可視化します。 地域ビジネスは、地方自治体の公務員です。巻頭企画では、縦横無尽に越境する「すごい公務員」40名を一挙に紹介します。 特集は「地方“共”創生」。福岡、静岡、京都、岡山、大阪など、官民連携のさまざまな事例を取材。産業振興の設計に役立つ「型」にまとめました。 この他、安宅和人氏のロングインタビュー。 仕事に悩める公務員たちの覆面座談会。 アトツギ経営者のリアルに迫る特別企画。 地方自治体職員、地域の産業振興に携わるイノベーターのための一冊です。