「自社肯定感」とは?monopo共同代表が語る、チャレンジを歓迎し、世界に選ばれるチームの作り方

林亜季

2011年、早稲田大学在学中にベーシスト2人で創業。東京を皮切りに、ロンドン、NY、パリにも拠点を拡大し、世界的な企業やブランドから仕事の依頼が絶えないクリエイティブ・エージェンシーに成長したmonopo。共同代表をつとめる佐々木芳幸CEOと岡田隼COO/CTOに、共にmonopo Tokyoのマネージャーを務める田中健介氏とクララ・ブラン氏を交え、グローバルに広がる組織づくりのエッセンスについて、またmonopoが手がけてきた新規事業支援について聞いた。

岡田 新規事業は失敗率がどうしても高くなってしまうものです。僕は「自社肯定感」と言っているのですが、自分の会社や自分のやっている仕事に対して理想や信念を持つ、自社肯定感が高い人は推進力があり、結果として面白いプロジェクトにつながると感じますね。

逆に低い人は、新規事業をやってもうまく進まないことが多いと感じます。上司や役員が「ダメ」と言ったらすぐに諦める人や、上司に怒られないことが目的になってしまっている人とは一緒にプロジェクトを進めていくのは難しいですね。

顧客のプロジェクト担当者が、副業としてmonopoに参画

田中 支援事例として、コロナ前の2019年から伊勢丹さんと取り組んだプロジェクトを紹介します。伊勢丹新宿店の本館1階の一部エリアに、訪れるたびにワクワクするようなセレクトショップ「ISETAN Seed & Leaf」をプロデュースしました。

伊勢丹ブランドの継承と、新しい百貨店像の定義を両立させた、伊勢丹内に凝縮された小さな伊勢丹のようなコンセプトのエリアを新設しました。Seedはこれから盛り上げていきたい最新アイテムやブランドを紹介し、Leafは季節やシーンに合わせて伊勢丹がキュレーションしていくという役割を持たせました。売上という結果もついてきましたね。

当時一緒にコンセプトを考えた伊勢丹の担当者は、まさに自社肯定感があって、熱い人でしたね。僕らの考える理想の伊勢丹や、これからの百貨店について夜中まで話し合ったこともありました。さらに「伊勢丹にもmonopoのDNAを入れていきたい」と会社に副業申請を出して認められ、休日の一部を充てる形でmonopoで1年ほどインターンとして一緒に働きました。

岡田 発注者と受注者が向き合って対決するような関係性ではではなく、発注者と受注者としてのmonopoが一緒にマーケットに向き合い、「どうしたらいいかな?」「一緒に楽しいことをやろう」と相談してもらえる方が、より本質的な提案ができると感じます。

佐々木 「自分でもあんまり考えがまとまっていないから、とりあえずmonopoに相談してみよう」という感じで声をかけてもらう方が、プロジェクトに色気とか魅力が出てきますよね。何回か一緒に話すと、企業の中では考えてもみなかったようなアイデアや道にたどり着くこともあります。そういう意味でも、バックグラウンドやカルチャーが多様なメンバーがmonopoに集まってくれているというのは強みです。

ダイバーシティ経営を目指しているわけではない

岡田 「ダイバーシティ経営、どうやっているんですか」と聞かれることが多いんですが、僕は「違うと思う」とお伝えしています。「○○経営」という言葉はそれを目指してやっているということだと思いますが、僕らは目指していないですからね。一緒に働きたいと思う方々が英語ネイティブだったり海外出身だったり、肌の色が違ったりしているというだけ。

むしろ僕らと一緒にクリエイティブの仕事をしている方々は、ある程度広告の勉強をしてきてパソコンを触ることができて、などの体験や知識が豊かな人が多い。むしろmonopoにダイバーシティなんてないと思います。もっと僕らが想像がつかない生活をしている人たちにも届けていかないといけないのに、monopoがダイバーシティ&インクルージョンを体現していると言うのは違うと思いますし、それを目的化するのもなんだか変。そういったバズワードについては一旦、疑うようにしています。

佐々木 わかりやすいようにクリエイティブ・エージェンシーと言っていますが、もっと他の表現があればその方がいいですね。「お客儲からせ屋」とか「お客楽しませ屋」とか。

僕自身は、起業してからずっとアイデンティティ・クライシスなんですよ。ただみんなで楽しくワイワイやってきただけなんです。

岡田 確かにインターナショナルな人が楽しくて居心地がいいという環境をわかりやすく作ってきたというのはありますね。毎月決まってテラスやルーフトップでパーティーをします。音楽も結構大事な要素。そういう環境をつくると、次第にみんなが勝手に手伝い始めたり、片付けをしてくれたり、自分のコミュニティに持ち帰ってくれたりするようになりました。

「日本にもこういうパーティーがあるんだ」「こういう会社があるんだ」と次第に国内外からクリエイターたちが集まってきて、monopoで働きたい、monopoと一緒にやりたいと言ってくれて、相乗効果でどんどん広がっていきました。

「何この会社、面白い!」。全てに「イエス」と言う理由

クララ もともと私はパリのルイ・ヴィトン本社でデジタルコミュニケーションを担当していたのですが、東京でmonopo nightに遊びに来ているうちにいろんなメンバーと関わるようになり、いい仕事をたくさんやっていることがわかって「何この会社、面白い!」と、思いきって入社しました。

佐々木 よく考えたらすごい転職だよね。クララ自身もSNSで合計90万以上のフォロワーを持っているインフルエンサーで、monopoに入ってくれたことで提案力が広がりました。

僕らがmonopoはこうであると定義したことはなくて、ダウンサイドとしては最悪2人だけ残っても飯は食えると思っていました。アップサイドは正直、何でも良かったんですよね。勝手にmonopoを解釈してくれる人たちが面白がってくれて、色々提案してくれるようになり、それに全部「いいよ」「イエス」と言ってきただけなんです。
僕ら2人ともベーシストで、ギタリストとかと違ってちょっとひねくれてるんですよね。本当はちょっと自分も目立ちたいんですけど、みんなに「いいよ」って言うのをかっこいいと思って。

東京の都市カルチャーを発信する「poweredby.tokyo」もそうやって生まれました。僕の英語の先生だったチェイスが、monopoの自社プロジェクトとしてやろうと提案してくれて、「いいね、やろう」と。今振り返れば新規事業ですね。海外のクリエイターや世界的なブランドから注目してもらえるきっかけになりました。


2019年にmonopo Londonを立ち上げたときは、monopoの中核クリエイターのメラニーがプロデューサーのマティスとロンドンに帰ることになり、「向こうで法人を作っちゃおうよ」という話になりました。マティスが「もっと世界を巻き込もう。10年後のmonopoはこうなっていくんだ」と提案してくれて、立ち上げてみたら、初年度から予想をはるかに超える黒字になりましたね。

岡田 日本ではグローバルに対して線を引きがちですよね。海外に出ていくことについて構えたり怯んでしまう人や企業は少なくないと思うのですが、何も線引きをせず、オープンに気持ちよく面白く仕事をしてきただけですね。その中でみんなをステージに上げる、その舞台を作る、ということは、意識してやってきました。

佐々木 例えば「支社を出したいです」とか、自分たちで何かをやりたいと言う人に対しては、全員に「いいよ」と言います。ただ、「いつまでにどういう計画で」は問わない。そうすると、結局8割ぐらいはやらないんです。2割ぐらいが2年後ぐらいに実際に始めるんですが、ほんの一部、5%の人は今すぐやるんですよね。それが最速。結局、全てに対してオープンにイエスと言っておけば、その一部は実現するのかなと。

自信を持って、納得しながら生き生きと仕事ができているか

岡田 戦略とか計画とかよりも、まずはその人の好奇心と自己肯定感を大事にしていますね。自分の好奇心に従って、楽しそうな方向に動く。その人が自信を持って、納得しながら生き生きと仕事ができているかどうか。

クララ まずやってみる精神で多くを経験し学びましたね。入社すぐに田中さんと伊勢丹のプロジェクトを担当しました。最初は日本語のメールの文章を一つひとつチェックしてもらいながら、まずやってみる精神で多くを経験し学びました。「失敗してもいいし、不安なことや危ないことがあれば守るから、チャレンジしよう」と、意欲があれば全力で挑戦させてくれる環境は本当に面白いです。

年齢やキャリア的に他社ではなかなか担当させてもらえないような大きな仕事を任せられたり、全くこれまでにない発想で提案してみようという考え方だったり……。日本にこんなチャレンジングな会社があるんだ、と思いました。会社としてのカルチャーですね。

田中 めちゃくちゃフラットな組織なので、年齢・ポジション関係なく誰でも何でも言いやすいし、バイアスをかけずに判断して、インターンの意見をそのまま採用することもありますね。日本の企業ではなかなか珍しいことなのかもしれません。

「人がどういう原理で動いているか」。社内コミュニケーションにも口を出す

岡田 新規事業やプロジェクトがうまくいかないという時、実はビジネスがうまくいかないのではなく、人間関係がうまくいかないからだということが少なくないのではないかと思います。事業の想定顧客にどうアプローチするかということばかりに頭がいきがちですが、社内コミュニケーションをおろそかにした時点で、打率がぐっと下がってしまいます。

クライアントの共通の悩みとして、社内コミュニケーションの課題は大きいと感じています。ブランディングの仕事や新規事業の支援をする時も、クライアントの担当者が社内に告知するタイミングやその内容、誰をどの順番で巻き込み、どういうシチュエーションでどういうふうに話すかといった社内コミュニケーションにも僕らはしっかり向き合い、口を出していくことが多いです。

佐々木 monopoの社内コミュニケーションも実は丁寧にやってきましたよね。

岡田 めちゃくちゃ丁寧にやってきましたね。「人がどういう原理で動いているか」については常に考えています。

例えば社内で何か相談をもらったら、「これは僕より先に誰々に相談してね」というパスの出し方をします。例えば誰かを採用しませんかという話になった時に、代表の僕ではなく、まずは先に配属先のチームのリーダーに相談してねと。勝手にHRと経営だけで採用して、急にそのチームに入ってもらうから、と言われたらリーダーとしてはなかなか受け入れられないじゃないですか。

ちなみに僕と佐々木は共同創業してから13年、「全部同じ条件でスタートしよう」と株も給与比率も半分でやってきました。ロジカルに担当を決めすぎず、営業や財務、クリエイティブなどの担当も1年ごとに交代して、2人とも全体をなんとなく網羅的に把握するようにしています。お互いムラがあるので、「あいつより俺の方がやっている」といった不公平感が出ないようにやってきたことが、結果的に良かったのかもしれません。

佐々木 昼間にケンカしても夜は楽しく音楽をやっていて、人間的にも切れることはない。ただ楽しくワイワイやってきたという話でさっきはまとまりかけましたが、その実裏側では丁寧にやってきたというのが本当のところかもしれないですね。

今、グローバル全体で従業員が62人。最近は南米進出も考えています。NYの需要を伸ばしていけば、同じタイムゾーンで南米のクリエイターたちとNYの仕事ができるようになる。為替差もあるしチャンスがあると、珍しく構想しています。同様にアフリカも……。

あとは、僕らなき後の心配をしなくていい仕組みを作りたいですね。日本から世界的な企業となったトヨタさんや松下電器さんのように、創業者の思いを残された人が解釈して勝手に受け継いでいってくれるような、会社というよりそんな仕組みというか、カルチャーを作り上げる。クライアント・社内問わずワイワイ楽しんで仕事をやっていくカルチャーを世界に広げていく。それがmonopoなのかもしれません。

text & edit by Aki Hayashi / photographs by Takuya Sogawa

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