
京都府の北西部に位置する、人口約7.5万の福知山市。関西の大都市圏と北近畿・山陰エリアをつなぐハブとして、物流や製造などを中心に経済発展を遂げてきた。 近年同市では、新産業創出に取り組む起業家たちが、独自のイノベーターコミュニティを形成しているという。 これを象徴する存在が「NEXTE福知山」。市内の起業家育成プログラムで出会った3人の社会人が副業で起業した一般社団法人だ。メイン事業は、「学生×起業家メディア」。北近畿のイノベーターネットワークの拡充に取り組んでいる。 なぜ、京都北西部で起業するのか。 なぜ、副業という形で活動を続けるのか。 理事の3人に話を聞いた。
一般社団法人 NEXTE福知山
2021年度「NEXT産業創造プログラム」を受講した3人が一般社団法人として設立。2023年度からは福知山公立大学地域経営学部の学生とともに、学生が地域の起業家を取材する「学生記者部Style Note」を開始。メディア運営を軸に、北近畿の起業家ネットワークの拡大を続けている。

四方常之
一般社団法人 NEXTE福知山 代表理事

栗原健司
理事

赤石洋平
理事
社会人講座で出会った3人、副業で起業

──一般社団法人立ち上げのきっかけは、福知山公立大学が運営する社会人向け講座だった。
「地域のための大学」として地域協働型の教育研究を展開する同学では、2021年度から起業家育成のための「NEXT産業創造プログラム」を、2024年度からはプログラム修了生を対象とした起業家支援事業「F-StartUp」を実施している。
NEXT産業創造プログラム/F-StartUp
四方氏、栗原氏、赤石氏の3人は「NEXT産業創造プログラム」の第一期生。
修了時、自身たちと同じ思いを持つ起業家たちとその予備軍を応援することを目的に、「一般社団法人NEXTE福知山」を設立した。
四方:私たちはそれぞれ別の仕事についており、参加のきっかけもバラバラです。私の場合は、子どもの教育に関係するような事業を模索しており、プログラムを受講しました。
当時はコロナ禍とあり、活動の大部分はオンラインでした。プログラムが進む中で、一般社団法人を意外とスムーズにつくることができると知り、まあ乗せられたというか(笑)、出会った3人でやってみることにしました。

赤石:起業家育成プログラムを受けたといっても、その後すぐ仕事をやめて起業、というのは、なかなか難しいものがあります。
受講して実感したのは、自分たちと同じような人はたくさんいるということでした。そして回を重ねるほど、そんな人たちが出てくるでしょう。
社会人の挑戦心がプログラムの場だけで終わってしまうのはもったいない。まずは今のままでできる「副業」の形で、起業家たちを応援する活動をしたいと考えたんです。

──そうして立ち上がった「NEXTE福知山」。初期の活動は、「NEXT産業創造プログラム」のサポートや、起業に関するイベント運用など。起業家たちを支援しつつ、自らの活動を模索する時期と定めた。
それぞれ、所属する会社では責任のある立場だ。本業の後、平日夜21時の会議を重ねたという。
「学生×起業家」の化学反応で、起業家のストーリーを残す
──転機となったのは、「NEXT産業創造プログラム」第3期。プログラムを担当する大学教員のゼミ生とのコラボレーションが実現し、数名の学生とともにメディア活動「Style Note」を始めた。
四方:学生の方々と話をしてみると、彼ら・彼女らは地域の経営について勉強していましたし、より意識高く活動したいという気持ちを抱いていました。
私たちも、一緒に挑戦してきた仲間たち(プログラム修了生)をこれまで以上に応援したいという思いがあり、合致したんです。
学生たちが、福知山市内の起業家を取材し、学生の目線で発信する。最初はもちろん手探りでしたので、何を聞くべきか、書くべきか、相談をしながら進めました。

栗原:学生が取材・発信を行うことで、取材を受ける起業家の皆さんは、より噛み砕いて、学生の目線にあわせて話をしてくれます。
学生視点の記事というのは、若い人たちに地域の起業家のことを知ってもらうには、とてもいい形だと感じています。
また、取材という活動は、学生にとっても貴重な経験です。地元の起業家が、どのような思いを持って活動しているのか、どのような活動を積み重ねてきて今の事業があるのかを、直接学ぶことができます。
これまでに30名以上の起業家の取材を重ねました。

赤石:これまでにさまざまな起業家の記事を発信してきましたが、僕が一番印象的だったのは、学生さんたちの成長なんですよ。
最初の頃は、起業家にインタビューすることも、文章を書くことも、なかなかうまくいかないものです。チェックをたくさんいれたこともあります。
でも、時間が経つうちにどんどん改善し、さらに自分たちのやりたいことや内容を提案して、自走してくれる。取材の様子を見ても、すごくちゃんとしている。いつの間にここまで……と感心するほどです。
記事ひとつひとつの出来以上に、学生さんたちが変わっていくところに立ち会えたってことが、僕にとっての収穫でした。

数は追わない。メディアの役割は、ネットワークのための接続点
──今、Webメディアの世界は、ユーザーの行動様式の変化、AIの台頭、マネタイズの複雑化などが同時に起こり、過渡期を迎えている。
地域と学生と起業家をつなぐメディアを、どう続け、成長させていくのか。
赤石:学生記者のStyle Noteは、収益を得るためのメディアという位置付けではありません。当初は広告を入れるなどの議論もありましたが、そうするとPVなどの指標の方に関心が寄ってしまいます。
私たちがやりたいことは、地域の中の起業家や、挑戦する人を掘り起こすこと。取材や記事の発信という活動を重ねることで地域内の挑戦者たちのネットワークをつくっていきたいのです。
四方:マネタイズという面では、もちろん課題もあります。一般社団法人とはいえ、継続的な活動にはコストが必要です。
現在、「NEXT産業創造プログラム」修了生が参加できる起業家支援事業「F-StartUp」の中で、ハンズオン支援を受けながら議論を進めているところですが、HR領域で可能性を感じ、先行事例が進んでいます。
これは、学生記者たちが地域内の企業を取材し、会社の雰囲気がわかるような記事にすることで、企業の採用につなげる取り組みです。
規模の小さな企業だと、採用サイトや自社のホームページを持っていないこともあります。そこで我々のStyle Noteが、地域の企業と、地域の読者をつないで、地域内の採用につなげる。
従来の採用プラットフォームではなく、例えば取材した内容を企業さんが自由に使ってもらえるようにするなど、柔軟な取り組みができると考えています。

赤石:ヒアリングを重ねて気づいたのですが、若者が地元のある会社で勤めたくても、その会社の存在を家族が知らない、情報がないためどのような社風や働き方なのかがわからずに不安を覚えてしまう、ということもあるんです。
第三者の視点で、会社や仕事の魅力を取材することには、ただの宣伝にはない価値があると感じています。
四方:学生記者はまさに就職活動を行う世代です。その当人が、自分の視点で聞きたいことを取材するというのは、企業側もたくさんの気づきも得られるでしょう。
大学生たちにとっても、地元の魅力的な企業の情報を、本当に知りたい点を知ることができる。
大量のPVを集めるような戦略ではありませんが、学生たちと地元の企業が出会うきっかけになれると思っています。
いつでも挑戦に踏み出せるようにアイドリング状態でいることが、今の時代のキャリア戦略
──起業家育成プログラムの修了生が、副業でメディアを運営する。その目的は挑戦者たちのネットワーク形成。3人を動かす「つながり」の引力とは何だろう。
赤石:多分、自分たちが欲しかったんだと思うんですよね。
僕らは企業に所属している会社員ですが、いつか自分がプロジェクトを立ちあげたり、あるいは起業したりと、挑戦者側になる可能性がある。むしろいつなってもおかしくない。
そういうときに、情報交換や、力の借り貸しができる人たちがいるってことは、財産になると思うんですよ。いつでも挑戦に踏み出せるようにアイドリング状態になっていて、近しい起業仲間がたくさんいるイメージです。

赤石:今、私たちがつくっているのは、起業に関するさまざまなことにアンテナを張り続けられる環境であって、自分たちもそういう環境に居続けたいという気持ちもあるんです。
イノベーター気質のある人たちは、一般の企業の中では「変わり者」と見なされるかもしれません。しかしそういう人たちは、お互いの匂いがわかって集まってくるんですよ。
そして、そんな人々がつながるネットワークの存在は、地域経済にとって価値があると感じています。
四方:もちろん事業として取り組んではいますが、NEXTE福知山は「楽しい」という面も強いんです。起業家の方々への取材を通じて、私たち自身もワクワクする。ワクワクしてしまう。
──3人とも、終身雇用が大きく崩れた時代の、最前線にいる世代だ。キャリア観も大きく変わってきている。
栗原:ひとつの会社の中にいるだけだと、良くも悪くも一社の会社員の思考に偏ってしまうと感じます。
私のキャリアは、入社してからずっと同じ会社です。この先もそうかもしれないけれど、変わるかもしれない。どうなったとしてもやっていけるようにアンテナを張り、自分をアップデートし続けていく必要があると考えています。
副業で起業……10年前だったら、副業で起業し、さらに次の機会を模索しているなんて、考えもしなかったでしょうね。
赤石:キャリアも世の中も流動的な時代になってきていますよね。そしてそれを、「心配」ではなく「面白い」と感じられる人たちが、ここに集まっていると思います。
次は、自分だ、と。

地域内のネットワークから、全国の起業家ネットワークへ
──創業メンバー3人で活動を続けてきたNEXTE福知山。2026年、これまで学生記者として活動してきた森中公太さんが、大学卒業と就職を機に、一般社団法人の理事に就任することが決まった。
大学OB・新卒・副業・理事の誕生。
福知山発のイノベーターネットワークは、北近畿から全国へと広がっていく。
四方:福知山公立大学の卒業生が、起業家のネットワークの運営に携わってくれる意義はとても大きいです。この土地・大学で学び、巣立った若者がいることは、事業と大学との連携を一層強化できると思います。
学生記者の皆さんの多くは、卒業とともに全国各地でキャリアを歩み始めます。新理事の森中くんを中心に、起業家精神を学んだ学生記者OBたちがつながる。イノベーターたちのネットワークを、北近畿から広げていきたいですね。
学生記者の声
森中公太 福知山公立大学 4年生

2年間、学生記者として活動してきました。僕たちの世代は、情報過多の中で本当に必要な情報を得ることが難しいといわれています。
社会で実際にビジネスをされている方々の活動や思いといった、自分にとって本当に価値のある情報を直接得ることができると考え、活動をはじめました。社会を擬似体験しているような感覚ですね。
取材を通して感じたのは、すごいビジネスパーソンとは、何か発想がすごいとか、天才的というよりも、「人として当たり前のことをちゃんとされている」方だということ。
未来に対して目的意識や、一人ひとりの意思が、社会を動かしていくんだと思いました。
──4月からは金融機関に就職。新卒の副業理事という活動が始まる。
意外と、副業している若い人は多いんですよ。自分の中で違和感はありませんし、理事のお三方のように、ひとつの職に固執するのではなく、自らネットワークを広げて、越境しながらキャリアをつくっていいきたいです。
角田陽菜 福知山公立大学 2年生

学生記者として、地域の起業家をはじめとする魅力的な方々にお話をうかがってきました。初対面にもかかわらず、取材ということで深い内容を話してくださることもあり、刺激を受けた瞬間がいくつもありました。
例えば福祉関連の方を取材した時のことを覚えています。これまで福祉業界に対してどこかマイナスのイメージを持っていたのですが、その方はすごく楽しそうに、やりがいを持って活動していることを知り、価値観が大きく変わりました。
私は今20代なのですが、歳を重ねて成長するほど、自分の価値観を変えることが難しくなると思います。でも今、学生記者としてたくさんの人の考えを聞き、吸収することを重ねています。この経験があることで、社会に出ても柔軟に価値観を変えることができるんじゃないかと感じています。
福知山公立大学 NEXT産業創造プログラム/F-StartUp 事務局の声
大月活人 企画・地域連携課 地域連携係 係長

「NEXT産業創造プログラム」と「F-StartUp」の事業は、福知山公立大学が福知山市から受託して運用しています。行政との連携事業は一般的ですが、ここまで両者の距離が近く、密に取り組めているのは珍しい事例だと思います。
プログラムの立ち上げから5年間。大学と行政だけでなく、商工会議所や商工会、金融機関など、「オール福知山」のネットワークができており、実際に成果も上がりはじめています。
また大学としては、学生の皆さんの成長の機会になっている点も重要です。産業振興という地域の活動と、大学の人材育成の活動がマッチしていると感じています。
半澤麻由 企画・地域連携課 地域連携係 主事

福知山は小さな町ですし、京都市から距離があるのですが、そんな場所にさまざまなプレーヤーが集まり、大きなパワーを生み出している……今、とても面白い状況になっています。
志を持っている参加者を見ると、本当にさまざまな環境・立場だということがわかります。NEXTE福知山さんのように、ご自身の仕事を持ちながら副業での起業という手法は、今の時代や環境にあっていると感じています。スタートアップのような急成長を目指すだけでなく、長く続けることが地域経済にとっての価値になると思うのです。
産官学の三位一体、プラスアルファ学生の力で、これからもたくさんの事業が生まれ、育っていってほしいです。

photographs by Hiroshi Mizuno
