【BoutiqueResidence&Co.大木健人】目利き層に向き合うレジデンスへの挑戦

田村朋美

飛躍するスタートアップに共通することはなんだろうか? 福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」事務局長の池田貴信氏は、重要なポイントとして「人」を挙げる。 シリーズ「飛躍するスタートアップ」では、福岡に生まれ、飛躍するスタートアップのファウンダー、その「人」に迫る。 第15回は、目利き層に向けたブティック・レジデンスの開発を目指すBoutiqueResidence&Co.代表の大木健人氏。野村不動産での分譲マンション開発経験と、デジタルガレージで経営者層・投資家層と歩んできたキャリアから、唯一無二のレジデンス像を構想する。一般的なマーケティングに頼らない、信頼とご縁に根ざした事業展開について、大木氏の思いを伺った。

大木健人

BoutiqueResidence&Co.株式会社 代表取締役CEO

一級建築士/宅地建物取引士 前職(野村不動産)にて、累計1,000億円相当の分譲マンション企画開発業務に従事。グッドデザイン賞を受賞。デジタルガレージにて福岡支社長・オープンイノベーション統括責任者として、テクノロジー領域の事業立案と支社立ち上げに従事。現在は九州大学大学院建築系プログラム「BeCAT」Project Incubatorとして、学術的知見と建築・テクノロジーの実務経験を掛け合わせた事業を推進。


High Growth Program

Fukuoka Growth Networkに加入するスタートアップのなかから、さらなる成長が見込まれるスタートアップを選抜し、定期的なコミュニケーションを通じて、必要な支援内容をカスタマイズして提供する選抜型プログラムだ。

2025年度High Growth Program採択企業

BoutiqueResidence&Co.株式会社 OYASAI株式会社 コースタルリンク株式会社 BeeInventor株式会社 KEYs株式会社 株式会社トイポ 株式会社OneAI カプセルジャパン株式会社


目利き層のマインドセットから、本質的なニーズをとらえる


東京の一等地に建つマンション、高級ホテルのサービスレジデンス、兵庫県芦屋に代表される住宅街——目利き層に向けた住まいといえば、これらが思い浮かぶ。この領域で、ワンオーナーに一棟を丁寧にお届けするブティック・レジデンスの開発を目指すのが、大木氏だ。

「九州大学で建築を学び、野村不動産に入社後は東京と大阪で分譲マンションを開発していました。その後、デジタルガレージに転職し、地元・福岡にUターン。福岡拠点を任されて、福岡企業やスタートアップの事業開発を支援する活動をするうちに、改めて自分のキャリアを見直すことになり、起業を考えるようになったんです。そして、2025年1月に、BoutiqueResidence&Co.を創業しました。純資産総額が50億円以上の、国内外のご縁ある方々に、招待制でご案内するブティック・レジデンスを手がけています」

大木氏がこの領域に着目したのは、デジタルガレージで経営者・投資家と関わる中で、一般には知られていない生活の実像に触れてきたから。

「経営者や表に出ない立場の方々は、秘匿性の高い商談や打ち合わせを、公の目から離れた場で行いたいと考えていらっしゃいます。しかし、既存のマンションやホテル、料亭、会員制ラウンジでは、その要求水準を満たしきれない。そこに、ブティック・レジデンスならではの必要性があると見ています」

どこに誰が暮らし、誰が訪れているのかは外からは見えず、50名規模のパーティーも静かに成立する。この構想をピッチコンテストで発表し、ご縁のあった方々に直接提案したところ、確かな手応えが返ってきた。

「資金調達の打診に伺った先で、『投資もしたいし、自分でも一棟買いたい』と申し出ていただくケースが目立つようになり、事業の可能性を感じるようになりました」

空港から現地まで、いつ誰が出入りしたかわからない動線

構想している第一号物件は、専属シェフによるレストラン機能を備えた4階建ての複合住居だ。ゲストが福岡空港に降り立つと、プライベートラウンジを通って車に乗り、そのままレジデンスに到着する。誰が、いつ、その建物に出入りしたのかが外からはわからない動線を、設計の前提に据えている。

「取得を検討している敷地は、背面に30ヘクタールの森を控え、エントランス以外は通りに面していない立地です。玄関を抜けるとシェフと交流しながら食事を楽しめるメインダイニング、その隣には日本の伝統文化に触れられる“にじり口”を通って入る茶室。ダイニングで歓談しながら、個別の打ち合わせは茶室へ。そんな動線を思い描いています。上階には、ガラス越しに森を一望できる静かな空間、福岡市街や玄界灘を眺めながらお酒を楽しめるバーカウンター。メインダイニングと上階をあわせれば、50名規模のパーティーも成立するサイズです。複数のゲストルーム、プール、サウナも備えます」

一棟の価格は、50億円を想定。この層にとっては突き抜けた金額ではない。世界的な建築家、クリエイター、アーティスト、料理人、伝統工芸の職人——こうした才能が集まって編む空間は、他では得難い付加価値を持つ。

信頼とご縁の広がりが、マーケティングに代わる

大木氏の事業が投資家から注目を集める背景には、生成AIの台頭という側面もある。これまではテクノロジーやアートを武器にしたスタートアップへの投資が主流だったが、生成AIによって誰もがテクノロジーを扱えるようになり、出資先の見極めが難しくなった。

その中で、目利き層に向けたビジネスであり、かつ“不動産”という物理アセットに付加価値を乗せていく事業は、明確な差別化として評価されている。

「これまでになかった提案、ということで、お会いした投資家の方が別のご縁を紹介してくださり、そこから料理人やアーティスト、さらには非公開の土地情報へと広がっていきます。ご縁は表には出ないので、信頼できる方からの口伝てという連鎖が、自然に生まれている状況ですね。ですから、インターネットで広く周知して問い合わせを募るマーケティングではなく、信頼とご縁の広がりに根ざした事業化を目指しています」

一般的なレジデンスは不特定多数にプロモーションをして購入者を募るが、大木氏は先に契約者との関係性を築き、そこから一緒に設計する仕組みを思い描いている。

「目利き層向けであれば、東京の方が有利ではないか」という問いもある。しかし大木氏は、福岡だからこそ事業を立ち上げられたという実感を持っている。

理由は、福岡空港、ディベロッパー、投資家、経営者、行政などアライアンスを組みたいプレイヤーとの距離が近く、すぐに会えてビジネスに接続できること。この恩恵を受けながら、最短距離で事業化を進めていると語る。

「利便性の高い福岡空港にプライベートジェットを発着できる。ヘリコプターやヨットなど多様な移動手段とも連携していけば、遠方からのゲストも招待しやすい。そうした動線の自由度が、より独自性のある事業へと成長させてくれると考えています」

量産型のラグジュアリーではない

想定しているのは、年間最大10件の販売。規模としては十分だが、その先の上場や裾野を広げた展開は、必ずしも選ばないという。

「調達や今後のファイナンス、アライアンスのあり方については、スタートアップらしさに拘らず、自社らしい持続可能な形を模索したいと考えています。キュレーションの効いた自社プロダクトを中心とした感性に働きかける不動産プラットフォームなども構想しています。」

そんな大木氏にとって、日々の活動に欠かせないアイテムは、自宅ガレージに建てたサウナだ。

大木氏が愛用するサウナハット

「建築士なので、自宅は自分でデザインしました。毎朝サウナに入って気合いを入れて、一人でオフィスに引き篭もる日もあれば、ご縁のある方にお会いしに出かける日もある。スタートアップには見えないような、静かな動き方の毎日ですが、事業立ち上げに向けて着実に進めていきます」

※ 本インタビューの発言は弊社の事業活動・ビジョンを紹介するものであり、特定物件の売買・賃貸を勧誘するものではありません。販売・賃貸等のご案内を実施する場合には、法令に基づく建築確認取得後に別途行います。

#新規事業#イノベーション

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