【OYASAI國村隼太】初心者でも農業で収益化できる。都市に畑をインストールし、日本を農業大国へ

田村朋美

飛躍するスタートアップに共通することはなんだろうか? 福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」事務局長の池田貴信氏は、重要なポイントとして「人」を挙げる。 シリーズ「飛躍するスタートアップ」では、福岡に生まれ、飛躍するスタートアップのファウンダー、その「人」に迫る。 第8回は、「都市に畑をインストール」すべく、野菜の水耕栽培ユニットを開発し、栽培から販路開拓、収益化までワンストップで伴走するOYASAI株式会社の國村隼太氏。日本の農業が抱える多様な課題を解決し、日本を農業大国にする夢の実現に挑む國村氏の思いを伺った。


High Growth Program

Fukuoka Growth Networkに加入するスタートアップのなかから、さらなる成長が見込まれるスタートアップを選抜し、定期的なコミュニケーションを通じて、必要な支援内容をカスタマイズして提供する選抜型プログラムだ。

2025年度High Growth Program採択企業

BoutiqueResidence&Co.株式会社 OYASAI株式会社 コースタルリンク株式会社 BeeInventor株式会社 KYEs株式会社 株式会社トイポ 株式会社OneAI カプセルジャパン株式会社

國村隼太

OYASAI株式会社 代表取締役

1996年生まれ。24歳で水耕栽培事業を創業し、次世代型農業のパイオニアとして業界の注目を集める。その後、2025年にOYASAIを設立。都市空間における食の自給モデルを展開し、行政を始め大手企業との連携プロジェクトも多数進行中。これまでに300本以上のメディア出演、各種ビジネスコンテストで受賞。現在は複数社で顧問・アドバイザーを務めながら、食とテクノロジーの融合による社会課題解決に挑んでいる。

初心者でも収益化が実現。課題が山積する農業を変革

人間が生命を維持するために最も不可欠なのが食料だ。しかし、日本の農業には課題が山積している。農業従事者の高齢化と担い手不足、耕作放棄地の増加、価格競争の激化、食料自給率の低さ、肥料・飼料の輸入依存と価格高騰etc…。スマート農業や新規就農支援、6次産業化などが推進されているものの、日本の農業の持続可能性は危ういのが現状だ。

この課題に立ち向かい、持続可能な農業を都市で実現すべくイノベーションを起こしているのが國村氏だ。初心者でも明日から始められて収益化できる“都市型農業ソリューション”を開発・提案する、企業の農業化支援スタートアップを創業したことで、大企業を中心に引き合わせが相次ぐ。

「OYASAI創業前は、水耕栽培で育てた野菜を販売する農業ベンチャーを創業していました。ただ、農業に参入したいというニーズを多く聞くようになって“都市を畑にできないか”と考えるようになり、2025年4月に農業のプレイヤー側から支援側に転身すべくOYASAIを創業しました」

OYASAIが提供しているのは、AI搭載の水耕栽培ユニットと多種多様な野菜の種、栽培ノウハウ、保守管理サポート、販路提案による収益化など、農業の入り口から出口までの全てだ。水耕栽培ユニットは、水質・温度・CO2の環境調整から、スペーシングや病気チェックの自動化、栽培棚の遠隔管理までが可能となっている。

國村氏が農業に着目したのは学生時代に遡る。人間の体は食べたものから作られるにも関わらず、農業には物流や農薬の問題、低い収益性から担い手不足の問題など課題が山積していることを知る。これらの課題を誰も解決できないのはなぜか。この問いから國村氏の挑戦は始まった。

「目標は、街中に畑をインストールし、気づいたら誰もが農業に関わっているような状況を作ることです。大企業に農業参入ニーズはあるものの、現状では収益化が難しい、物流にコストがかかるなど参入には高いハードルがあります。そこで、栽培や収益化に関するノウハウの提供や運営サポートをすることで、農業を一つの事業として成功させるモデルを確立したいと考えました」

他の植物工場スタートアップとは一線を画すOYASAIの強み

OYASAIは創業から1年も経たず、大企業を中心に多くの共感を得て水耕栽培ユニットの導入拡大を実現させている。近年、農業領域におけるアグリテックは増加しており、OYASAIのように水耕栽培ユニットを販売するプレイヤーは増えているが、うまく社会に実装できていないのが現状だ。

では、なぜ後発かつ創業1年未満のOYASAIに注目が集まっているのか。

「要因はいくつかあります。まず、栽培ユニットはニーズに合わせて手のひらサイズから超大型施設に対応できる巨大なサイズまで自由にカスタマイズできますし、野菜の栽培や保守管理に関する細かい農業ノウハウを提供していることが挙げられます。何より、栽培だけでなく収益化につながる販路を提案していることが一番の差別化ポイント。ユニットもおしゃれなインテリアになるモデルや、生産性を重視したモデル、AIで完全に監視する全自動モデルなど、多様なニーズに応えています」

つまり、水耕栽培ユニットを導入してもらうことをゴールにしておらず、農業が企業の新規事業として成立するよう伴走し続けることが大きな差別化ポイントになっている。

「単純に野菜を育てて食べましょう、健康になりましょうという話ではなく、企業が栽培した野菜をレストランやホテルに卸して収益化を目指すのはもちろん、商業施設に導入して飲食店と連携させたり、オフィスビルの観葉植物を収穫できる野菜に代替させたりと、いろんな提案ができるのが僕らの強み。農業の新規事業を成立させるのはもちろん、その先のドリームプランまで描いて一緒に走っていける開発力や持続可能な農業事業づくりが他社との差別化につながっています」

企業の障がい者雇用と新規事業創出の両方を同時に実現

現在、OYASAIに寄せられるニーズは多岐にわたっている。大企業からは新規事業や障がい者雇用に農業を取り入れたいというニーズが目立ち、商業施設やレストラン、ホテルからは自分たちで野菜を作りたい、収穫体験などの付加価値をつけたい、メニュー開発につなげたいといったニーズがある。中でも、企業の障がい者雇用や福祉現場に、初心者でもやりがいを持って取り組める“仕事”を創出できることの社会貢献度は高い。

「民間企業の法定障がい者雇用率は現在2.5%ですが、障がい者を雇用するための仕事を創出するには課題がありました。でも、遊休施設や普段使われていないスペースなどに栽培ユニットを導入すると、種を植える作業や収穫する作業が生まれます。しかも、葉物野菜の栽培サイクルは数週間と短いためどれくらい収益が見込めるかもわかりやすい。だから障がい者雇用と新規事業の両方が成立するんです」

農業で本当に収益化ができるのか、自社にはどんな形の農業が合うのかは実践してみないとわからない。そこで数ヶ月のトライアル期間を用意したところ、導入企業の9割以上から拡大の依頼を受けているそうだ。

「数ヶ月のトライアル期間に複数回収穫できた野菜でどれくらいの収益を生むのかを確かめてもらって、各社で本格的な事業化が進んでいるところです。OYASAIの栽培ユニットは2万5000種以上の野菜を栽培できるので、まずは初心者でも収益化しやすい葉物野菜から挑戦してもらい、いずれはトマトやイチゴ、きゅうり、オクラなどに展開できるといいなと思っています」

人のあらゆるタッチポイントに畑がある環境を作る

OYASAIが目指すのは、都市に畑をインストールすることだ。それは企業や商業施設、レストラン、ホテルだけでなく、幼稚園や小学校などの教育機関、病院や行政、スーパーやコンビニ、公共施設・空間、そして最終的には家庭の冷蔵庫へのインストールも目指している。

「学校の授業で使いたいというお声はいただいているので、いずれは子どもたちが日常的に畑と触れ合う習慣と、収穫した野菜を給食で食べられるような仕組みを作りたいですね」

OYASAIの水耕栽培ユニットはカスタマイズ性に優れているため、ビルの壁面緑化やグリーン施策などにも対応できる。同じグリーンなら、食べて健康になれる野菜に代替すればいい。再開発が進み農地がほとんどない福岡市を農業大国にしたいと國村氏は言う。

「本来であれば、再開発が進む都市からは農地が消えていきます。でも、最先端のオフィスビルや商業施設、地下街などに水耕栽培ユニットという形で畑を提案していけば、再開発と同時進行で農地を増やすことができます。再開発で緑が減るのではなく増えていく状況をつくりたいですし、それは必ず実現できると思っています」

創業1年で海外展開の見通しも。福岡市の文化が成長を後押し

OYASAIは、既存のサプライチェーンとは異なる販売ルートを開拓したことで、儲からない農業を、楽しくて利益の出る農業に変えつつある。実際に、利益の出る農業を体験した大企業やレストラン、ホテルからは、社内の他部門やグループ会社、海外支店などへの導入依頼が相次いでいる。2026年からは国内外での事例が一気に増える見通しだ。農家への導入も進んでおり、今後の発展には期待が膨らむ。

そんな國村氏は、OYASAIを福岡市で創業したことに大きな価値を感じている。

「福岡市のスタートアップ支援は日本一だと思います。行政との距離が近く、支援の幅も広いから、農業の厳しいルールや制度も含めて相談ができるのは本当にありがたいです。市長自らが動いて企業をつなげてくれたり、定期的に相談ができる環境があるのは福岡ならでは。仮に、東京で創業していたらスタートアップの数が多すぎるので、その中から選ばれるのは至難の業だったと思います。でも福岡はチャレンジしやすい環境が整っている上に、チャンスがたくさんある。やりたいことを実現できる街だと実感しています」

福岡市は規制緩和にも柔軟で、スタートアップの実証実験の場として機能している。大企業との仲介役にもなってくれるため、他都市ではあり得ない動き方ができたと國村氏は語る。

「福岡の企業は、スタートアップが集まるFGNに定期的に訪れて、新しい情報をキャッチしようとする人が多いと感じます。企業の垣根がなくつながりやすいのも福岡市の文化なのかなと思っています」

そんな國村氏が活動に欠かせないアイテムは、もちろん“野菜”だ。常にレタスなどの野菜や種を持ち歩いている。

「僕は日本を農業大国にしたいと本気で思っています。農業をワクワクするものに変えて、都心部でも畑を身近に感じられる状況を作りたいです」

#イノベーション#新規事業

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