
2024年12月10日、福岡国際会議場で「めぐるめく日本の食卓会議2024」が開催された。本イベントは、地域で食の生産や加工(タベモノヅクリ)にかかわる人と、都市の生活者が相互に理解を深める「めぐるめくプロジェクト」の一環で、全国各地の食の挑戦者たちが一堂に会し、活動報告とつながりを共有する、いわばOPEN DAYだ。 2023年の愛知県豊橋市に続き2回目の開催となる今回は、63名が登壇、約200名が参加した。
「食」から、やさしさが循環する社会をつくる「めぐるめくプロジェクト」
「めぐるめくプロジェクト」は、2022年9月にスタート。
これまでに全国21の地域でフィールドツアーやピッチ交流会を開催し、領域を超えたつながりをつくってきた。
「日本の食卓会議」では、ただの活動報告にとどまらず、登壇者・来場者がともにアイデアを交換し、新たなアクションにつなげるプログラムが実施された。



【基調講演】ゼブラ企業が、日本のタベモノヅクリをポジティブに変える
基調講演は、ゼブラアンドカンパニーの阿座上陽平氏(株式会社ゼブラアンドカンパニー 共同創業者/代表取締役)。気候変動や人口減少により食を取り巻く環境が変化する中で、ゼブラ企業の必要性を語った。

ゼブラ企業とは、社会課題の解決と経済成長の両立を目指す企業。2017年にアメリカの女性起業家たちによって提唱された概念で、白黒模様のシマウマ(zebra)にたとえて名付けられた。
同社は「ゼブラ企業を社会実装する」をテーマに掲げ、ゼブラ企業を増やす活動をしている。
「自然や文化といった産業の資本が、今枯れつつある。資本を消費するのではなく、生み出すことをビジネスとする会社を増やしていきたい」と語る阿座上氏。
「文化(社会性)を大切にする会社であっても経済性を諦めないことで、自立した共創関係が築ける。このような関係を今日みなさんと一緒につくりたい」と会場にメッセージを送った。
価値共創の環を広げる「めぐるトーク」
「めぐるめく日本の食卓会議」は、主に2つのプログラムで構成される。
ひとつが、食農産業や地域活性化に取り組む企業が、活動の背景や展望を共有し価値共創の環を広げる「めぐるトーク」だ。今回は4つのトークが行われた。
食の“ポテンシャル”はどこまで拡がるのか(めぐるトーク1)
テーマは「食の可能性の拡張」。登壇したのは、樟陽介氏(金楠水産 4代目蛸匠)、兼政公一氏(株式会社 STABLES 営業部 担当部長)、井上陽介氏(株式会社ユーグレナ 執行役員新規事業本部長 兼 サステナブルアグリテック事業部長)。モデレーターは岡住修兵氏(稲とアガベ株式会社 代表取締役)。
食の魅力を発信するプレーヤーたちが、その取り組みと可能性を語った。

金楠水産の樟氏は、兵庫県明石市で水産加工業を営む4代目。地元・明石の魚と父がゆで上げた明石ダコのおいしさに感動し、加工の研鑽を積むかたわら、百貨店の催事出展やクラウドファンディングなどを実施。2024 年には、タコの魅力を詰め込んだグラビア写真集『たこ 88』を出版した。
「世の中に発信したいのは、かかわっている人たちの思い」と樟氏。おいしい魚を届けるために、漁師や港の職員が懸命に働いている姿を目の当たりにすると、おいしさのバトンにかかわっている人の思いを伝えていかなくてはという使命感が湧いてくると話す。
兼政氏が所属するSTABLESは、ルミネの子会社で、飲食店、小売店の店舗運営、イベント、コンサルタント業務などを通して、食と顧客をつなぐ取り組みを行っている。モデレーターである岡住氏の「稲とアガベ」とは、すでにイベントなどで協業に取り組んでいるという。
兼政氏は、「外食が日常になった今、あえて非日常としての外食を届けていきたい。そのためには、ひとつの料理がどのように作られているか、どのような文化があるのかといった、背景を伝えることが重要です。当社の活動を通して、お客様には生産者の方々のファンになってもらえたらうれしいです」と展望を語った。

ユーグレナは、2005年に世界で初めて食用屋外大量培養に成功した、東大発のベンチャー企業。ユーグレナ(ミドリムシ)には全部で 59 種類もの栄養素がバランスよく含まれており、食品やサプリメント、バイオ燃料、飼料など活用を広げている。川上から川下まで、さまざまなプレーヤーと協業するポイントは何か。
井上氏は「(共創する相手と)お互いウィンウィンの要素があることが大事です。私たちは素材を通して『健康』という価値が提供できる。一方で、まだまだ世の中には知られていません。そうしたときに、他社との共創は極めて有効です」と、共創による事業拡大の可能性を話した。

「ニッポンの食」の魅力を海外に広げる方法論(めぐるトーク2)
めぐるトーク2のテーマは「グローバルな日本食の創造」。
登壇者は、世界中のセラミックアーティストをキュレーションするヤン・トゥーレ氏(Maison Wabi-Sabi 創設者)、カカオと日本の茶道の融合を提案する中野由香理氏(カカオごと 代表)。海外起業家でありビジネスプロデューサーの渡辺大輔氏(唐泊漁港 プロモーター/渡辺大輔有限公司)。
日本の文化・食材を海外に発信するプレーヤーが、それぞれのアプローチを語った。モデレーターは、福岡フードテックラボ会長の合野弘一氏が務めた。

まず、フランスで日本の陶芸を販売するトゥーレ氏が、自身の経験をもとに日本の職人(生産者)との関係性の築き方について知見を語った。
「陶器を扱う上で大事にしているのは、日本に行って陶芸家と直接会うことです。陶芸家の中には、フランス人が陶器を販売することに違和感を持つ方もいます。とにかく、陶芸家と信頼関係を築くことが重要です」(トゥーレ氏)
カカオごとの中野氏は、チョコレートを作る際に大量に出るカカオの殻から釉薬を作り、かけ焼きして仕上げた茶碗を福岡・小石原焼の窯元と開発。パリの「サロン・デュ・ショコラ」に出展すると、80ユーロで完売したという。
「輸出する商品に日本の文化を乗せて、海外に発信することで、価値が何倍にもなって返ってくることがわかりました」(中野氏)
唐泊漁港の渡辺氏は、福岡市博多湾のブランド牡蠣「唐泊恵比寿かき」を、世界に広めた存在だ。香港のマンダリンオリエンタルホテルとは、2013年から取引が続いている。
国内で光の当たらなかった素材が海外で認められると、今度は地元福岡で唐泊恵比寿かきを提供している店に、テレビや新聞の取材依頼が舞い込むようになる。「お墨付き」による付加価値が得られるという。
このように日本の商品を世界に発信するには、機能性だけでなく生産や文化の背景もあわせて伝えていくことが重要なのだろう。

社会的価値起点の協働は“インパクト”を創出できるか(めぐるトーク3)
めぐるトーク3のテーマは、「社会的価値起点の協働」。地域との協業を軸に、社会的なインパクト創出に取り組むキーパーソンが集結した。

小椋瑞希氏(株式会社乃村工藝社 ビジネスプロデュース本部 第一統括部 新領域プロジェクト開発部)、秋山峻亮氏(株式会社三井住友銀行 社会的価値創造推進部 事業企画グループ 部長代理)、廣岡大亮氏(W Inc.代表取締役)が、「社会と経済のバランス」「大企業の地域連携」などについて語り合った。モデレーターは、大森愛氏(,too inc コミュニケーションデザイナー)。
三井住友銀行は、中期経営計画に「社会的価値の創造」を掲げており、食と農業も重要な取り組みと位置づけている。2016年に秋田県大潟村にジョイントベンチャー(JV)を立ち上げた。
「なぜ、秋田にJVをつくることになったのか?」の問いに対し、秋山氏は「農業の成長産業化を支援し、社会課題解決に貢献したいとの観点で走り始めました」と回答。秋田県で始めた理由は、人口減少や高齢化が全国最速ペースで進んでいる地域で、競争力のある農業経営モデルを確立し、横展開していくことに意義があると考えたためだという。

大企業が地域でビジネスを始めることの意義やメリットは何か。協業に取り組んでいるW Inc.の廣岡氏は、次のように語る。
「大企業が地域でビジネスを始めるとき、その地域の深い事情や文化は、簡単には理解できないものです。地域には、長年地元で活動し、信頼を築いてきた地元企業が多く存在しています。大企業と地域の企業がいかに組み合わさっていくか、検証していきたいです」(廣岡氏)
また、「社会的価値と経済的価値のバランスについて」小椋氏が言及。
「たとえ社会的価値のある思想からスタートしても、事業として参画するとなると経済的価値に寄った話になります。そうしたときに、乃村工藝社だけではバランスを取りづらい部分があるため、地域との連携が必要になります。
(地域でのビジネスに)仲間が加わり、技術や工夫が加わることで、新たな商品が生まれる。やがてそれが、消費者の選択肢のひとつになっていく。そんなふうに、少しずつ地域の暮らしに溶け込んでいくことを目指したいです」(小椋氏)

作り手と食べ手をつなぐ“伝え手”は誰が担うのか(めぐるトーク4)
テーマは、「作り手と食べ手をつなぐ“伝え手”」。登壇したのは、北林英一郎氏(農林水産省 九州農政局 局長)、町田美紀氏(株式会社 VISIONECT代表取締役)、小田倉淳氏(株式会社NTTドコモ 経営企画部 事業開発室担当部長 兼R&D戦略部 社会実装推進担当)。モデレーターは、株式会社ファーマン代表取締役の井上能孝氏。
国民1人当たりの米の消費量は、1962年度をピークに減少傾向にある。一方で食料自給率は、1965年度が73%だったのに対して2022年度は38%になっている。なぜ、生産と消費は遠くなってしまったのか? 農林水産省・北林氏の考察はこうだ。
大都市に人口が集中すると、生産現場との距離が遠くなる。そんな中で、ライフスタイルの変化や簡便化志向が強まる等の理由により、米の消費が減少しているのではないかという。
また、食料自給率の低下については、食生活において肉食が増えてきたことも要因という考えを示す。背景には、畜産に使う飼料(トウモロコシなど)を輸入に頼っている現状がある。飼料が食料自給率に関係していることを知らない消費者は、少なくはないだろう。

VISIONECTの町田氏が注力しているのは、高知の魚介類を都市部のシェフに直接届けるプラットフォーム「FAB(Food and Brew)」だ。
高知の港では、水揚げしたその場で買い付けが始まる。その仲買人から、旬の魚や調理の仕方など、いろいろな情報がシェフに伝えられる。するとシェフは料理を提供する際、現場の話や魚の特徴をストーリーとしてお客さんに伝えることができる。
「プラットフォームを通して、利用者であるシェフ自身が、生産者と消費者をつないでくれている実感があります」と町田氏。

NTTドコモの小田倉氏は、地域と都心をつなぐ取り組みの中で、Web3の社会実装を推進している。
上川大雪酒造(北海道)とのコラボレーションでは、田植えからお酒が完成するまでの一連の流れに、消費者が参画できるようなプロジェクトを設計し、生産者との日常的な接点をつくることを心掛けたという。
モデレーターの井上氏は、地域社会で先端技術の活用を進めていくには、ビジョンを理解し、地域の人々に「翻訳」して伝える存在がポイントだと考えを述べた。

また、農林水産省では現在「ニッポンフードシフト」という運動を推進している。そんな中、北林氏は「農家の中には、先祖から受け継いだ農業を守り続けるために、自分の年金等を投じている人もいる」という話を聞いたという。
「やはり、この現状は変えなければいけません。作り手と食べ手をつないで消費者理解を深めていく必要があります」と、北林氏は会場の聴衆に訴えた。

公開ディスカッションで共創パートナーを募る「ハタウチカイ」
「ハタウチ」とは、農業用語で畑を耕すという意味。新たな事業に挑戦するチャレンジャーのプレゼンテーションに対して、登壇者(パートナー)をはじめ広く意見を集める公開ディスカッションだ。本記事ではその一部を紹介する。


【うきはの宝】「ばあちゃん」が、日本各地に希望をもたらす(ハタウチカイ3)

チャレンジャーは福岡県うきは市にある「うきはの宝株式会社」代表取締役の大熊充氏。同社は、75歳以上の“ばあちゃん”を雇用し、ビジネスによる地域課題の解決を目指している。
元気な高齢者が働くことで健康寿命が延び、社会保障費や医療費の削減につながる。そんな世界を目指して、「ばあちゃん飯」の販売、「ばあちゃん新聞」の発行などを展開する。
現在構想中の「ばあちゃん甲子園」は、全国のばあちゃんたちが自慢の田舎料理、郷土料理を持ち寄り、コンテスト形式で評価するというものだ。
大熊氏は、「我々だけではスピード感がないため、一緒に進めてくれるパートナーを探している。また、初めて開催するイベントなので、何らかのお手伝いをしていただける企業を探している」と課題を共有した。
「伝統×アップデート」でビジネスの可能性は広がる

パートナーとして登壇した伊藤拓宗氏(有限会社いろは堂 代表取締役)は、「伝統の味を継承していくという点において親和性を感じた」と発言。同社が手がける郷土料理「おやき」は、各家庭で生地や具材が異なる。さまざまなアイデア(レシピ)を集める素材になりえるというわけだ。
岡住修兵氏(稲とアガベ株式会社 代表取締役)は、「伝統をそのまま継いでいくだけではなく、アップデートが必要。(自社の酒造りとの共創の視点では)酒粕を使った調味料を開発するなどのコラボが考えられる」と時代に合わせた商品づくりの必要性を示した。
また、モデレーターの田中智恵(Ambitions セールス統括)の「おばあちゃんたちはアイスが好きな人が多いイメージがあります」という言葉をきっかけに、菓子メーカーであるロッテの北村考志氏(株式会社ロッテ マーケティング本部 新商品開発部)はビジネスのアイデアを発想。
「『おばあちゃん』というワードは、ものすごいシズル感がある。おばあちゃんたちからアイデアをもらって一緒にアイスを開発するのは、できるかもしれません」と可能性を語った。
【伊東】日本酒蔵の跡取りが取り組む、地域経済の“仲間づくり”(ハタウチカイ4)

「ハタウチカイ4」のチャレンジャーは、愛知県半田市亀崎町で銘酒「敷嶋」を醸造する酒蔵の9代目、伊東優氏(伊東株式会社 9代目/亀崎 Kamos代表)。2024年1月には巨大な旧蔵を活用した歴史的複合施設をオープンした。
知多半島のような食の産業用地が生き残っていくためには、良質なコンテンツを発信し、他県や海外から知多半島に遊びに来てもらう必要がある。「文化が維持できるような経済サイクルをつくりたい」と伊東氏。「酒蔵」という伝統的な場所を起点に、地域の営みを持続可能にしようと奮闘している。
地域のコンテンツメーカーたちが議論。夢を語ることで、仲間ができる
イベントや店舗プロデュースなど、地域における「コンテンツ」に携わるメンバーが集まったこの会では、「一緒に働く仲間をどのように集めるか」をテーマに議論が白熱。

酒井慎平氏(株式会社 SATOKA代表取締役)は、「巻き込み方が大事」と強調する。「集落では、同じ問題意識を抱えている人が多い。それを共有して、一緒に地域をつくっていく仲間を探す。それを意識しています」
新井一平氏(6curry& 事業責任者/代表)は、「いかに所属意識を持ってもらえるかが大事なポイント」と述べた。自身が手がける6curry&は会員制飲食店。そのコミュニティーの中で、どうしたらブランドが盛り上がるか、メンバーが増えるかを、メンバー自身が考えてくれるきっかけづくりをしているという。
具体的には、「忙しいときに手伝ってくれるとポイントが付与される」「コミュニティー内で部活が自由に作れる」など。こうした仕組みがあると、人材が必要なときは、その中から自然に出てくるとのこと。
また、佐渡を拠点にツアー事業を展開する咲比ユイ氏(ReRoot 代表)は、「人を確保するためには、夢を語るしかない」という。「その上で、相手の夢を聞き、この土地だからこそ夢が実現できることを伝える。夢に共感して関係を持ってくれた人は、心強い仲間になる」と語った。
【麹王子】“身体に優しい食品”の固定観念を「麹×アイス」で変える(ハタウチカイ6)
博多港を一望する、開放感のある特設会場で行われた「ハタウチカイ6」。

チャレンジャーは、オリジナルの甘酒をベースに、卵や乳化剤などアレルギーの原因になりやすい食べ物を極力排除したアイス「発酵アイス」など“カラダに優しい”スイーツや食品を展開する麹王子の阪田真臣氏(株式会社麹王子 代表取締役)。
幼い頃からアトピーや体調不良に悩まされてきたという阪田氏の原体験から生まれたというこのアイテム。会場では実際に発酵アイスが配布され、味わいつつセッションを進行した。
「自然派や、オーガニックという食品についてまわる、『味が薄い』『食べ応えがない』といったネガティブなイメージをひっくり返したいんです。それがなければ、本当の意味で健康と食はつながらないし、一次産業は活性化しない。食というものが安く消費されすぎている現代、その価値を改めて問いたいです」(阪田氏)

甘酒には「日本版レッドブル」になるポテンシャルがある
本セッションのパートナーには、宮本吾一氏(株式会社 GOOD NEWS 代表取締役)、真野重雄氏(三越伊勢丹 伊勢丹新宿店 生鮮・グローサリー担当バイヤー)、佐藤太亮氏(株式会社haccoba 代表取締役)が登壇。モデレーターは髙田理世氏(ONE KYUSHU サミット実行委員長)。
ディスカッションでは、アイスという冷凍設備を必要とする商品の是非や、高価格帯にする理由など、さまざまな意見が飛び交った。
「実は発酵アイスは、栄養価の高い甘酒から“日本版レッドブル”を開発しようとしてできた液体から生まれました」という阪田氏の発言に、「日本版レッドブルは(市場の)可能性がある」と盛り上がる一面も。日本の伝統的な「麹」「発酵」ビジネスに、新たな展開の可能性が広がった。
【ASTRA FOOD PLAN】循環型フードサイクルをつくる仲間を募集(ハタウチカイ8)

「ハタウチカイ8」のチャレンジャーは、加納千裕氏(ASTRA FOOD PLAN株式会社 代表取締役社長)だ。独自の乾燥技術「過熱蒸煎機」を開発し、食品残渣や規格外農作物などをパウダー化した「ぐるりこ®」を販売している。
ビジネスモデルは、取引先の工場に過熱蒸煎機を導入してもらい、現地でパウダー化したものを買い取り、商品化して販売するというもの。「食品残渣は運ぶと流通コストがかかるので、その場で処理するのが一番です。メーカーの課題は廃棄コストの削減。食品のアップサイクルは私たちが担うことにしました」
現在は、ともに食品のアップサイクルに取り組んでくれるパートナーを探している。
人と会社を巻き込むことで、ビジネスモデルが完成する

貝印の上保大輔氏(貝印株式会社 取締役上席執行役員)、ロート製薬の熊澤益徳氏(ロート製薬株式会社 食品事業推進部 マネージャー)、アサヒグループの古原徹氏(アサヒユウアス株式会社 たのしさユニット ユニットリーダー)といった大手企業のパートナーがそろった本セッション。いかに企業を巻き込むかという観点での意見が飛び交った。
モデレーターは小川翔大氏(株式会社LOSS IS MORE 代表取締役CEO)。
熊澤氏は「栄養価が残るというのが魅力的。本当の意味でのアップサイクル」など共創の可能性を示した。
古原氏からは、「補助金を受けて行う事業と相性がよさそう」という具体的なアドバイスも。
加納氏は、「私たちの取り組みは、1社では完結しません。いろいろな人や会社を巻き込むビジネスモデルです。どうしたら食の循環が完成するのか、お話ができるとうれしいです」と期待を語った。
同時進行で開催されたハタウチカイ。セッションの前後は、会場のあちこちでテーマについて意見を交わす様子が見られた。




【総括】交流の場ではなく、プロジェクトを生み出すプラットフォームへ
基調講演やランチセッションを含む全16のセッションが行われた「めぐるめく日本の食卓会議2024」。クロージングでは、プロジェクト事務局の広瀬拓哉氏が、次のコメントで会を総括した。

「大量生産・大量消費ではない、新しい文脈を作っていくためには、さまざまな企業やプレーヤーに参画していただくことが大事です。共通の思いがあるからこそ、深い話ができます。
『めぐるめくプロジェクト』はこれからも、単なる交流の場ではなく、食農産業、そして社会にポジティブなプロジェクトを生み出すプラットフォームとしての発展を目指します」
全プログラム終了後には「めぐる交流会」を開催。
食を片手に、食を起点とした取り組みの可能性について、立場や関係性を超えて皆が当事者として語り、貴重な時間を楽しんだ。




取材後記 Ambitions事業統括編集長 大久保敬太
「食」の生産や加工に携わるビジネスプレーヤーが全国から集まった本イベント。
テーマや登壇者の魅力はもちろんだが、それ以上に参加者の「意見交換」の多さが、印象的な取材だった。
それを象徴するセッションは「ハタウチカイ」だろう。
「ハタウチカイ」では、冒頭にメイン登壇者(チャレンジャー)が、自身の事業を紹介し、直面する課題(販売、事業拡大など)を聴衆に投げかける。
その後、数名のサブ登壇者(=パートナー)が、それぞれの知見やアイデアを提供し、課題解決のヒントを探る。この議論パートこそが、セッションのメインだ。
単純な質疑だけでは終わらずに、アイデアがアイデアを呼び、思わぬ展開になることもある。会場の見学者から鋭い質問が飛ぶこともある。そしてセッションの時間が終わっても、登壇者や見学者らの会話は続き、なかなか次のステージ会場へ動こうとしない。「効率的に学びを得るセミナー」とは真逆の光景を、何度も目にした。
事務局の広瀬氏は「重要なのは、本番の盛り上がりだけではない。ここから取り組みが生まれることを目指している」と話す。実際に「めぐるめくプロジェクト」からは、これまでに20を超える共創プロジェクトが生まれているという。
「食」という共通テーマを持つ人々がアイデアの種を交換し、自身の活動に持ち帰り、共創し、挑戦を推し進める。それを継続的に後押しする一連の仕組みにこそ、本イベントの大きな価値があるのだろう。
text by Satoshi Kokubu / photographs by Shogo Higashino / edit by Keita Okubo