【森大介】心意気で、九州のビジネスを支える。ドーガン「顔が見える」 地域金融の可能性

Ambitions FUKUOKA編集部

事業再生・事業継承ファンドの運営や経営アドバイスなどを通じて、福岡をはじめ九州の企業を支えてきた株式会社ドーガンの森大介氏。「則天去私」の心構えで地域経済に貢献したいと言う森氏に、熱い思いの源泉を聞いた。 ※本記事は『Ambitions FUKUOKA Vol.1』(2023年11月14日)の転載です

森 大介

株式会社ドーガン 代表取締役社長

1967年生まれ。熊本県出身。1991年に日本長期信用銀行に入行。1998年にシティバンク、エヌ・エイに転職し、福岡出張所の初代所長を務める。2004年にドーガンの前身となる株式会社コア・コンピタンス九州を設立。

顔の見える相手の苦しみ僕が助けなきゃいけない

ドーガンの森氏が大学卒業後に勤めた銀行は、金融危機に日本中が揺れた1998年に経営破綻した。

「先が見えない時代で日本全体が暗かった。もちろん、福岡も例外でありませんでした」

外資系の銀行に転職し、たっての希望で九州・福岡に赴任していた森氏は「明日が見えない。これからどうすればいいのかわからない」と迷う地元の経営者から、事業再生について多くの相談を受けていた。

しかし、勤めていた銀行には事業再生のソリューションはない。そもそも地方の中小企業の事業再生は、グローバルからは視界にも入っていない領域だった。

──それならば、自分がやる。

2004年、森氏は事業再生や事業継承を投資対象としたファンドを運営するドーガンの前身となる会社を設立した。

「友達や親戚が本気で困っていたら、助けたいですよね。九州で出会った経営者の皆さんは、僕にとって顔が見える近しい存在であり、先輩です。僕が力になれたらうれしいし、やりがいもあります」

地域に根ざした金融事業者としてやるべきことが見えてきたと、森氏は振り返る

こうしてスタートした事業は、地元企業や地銀に評価され「調子に乗り過ぎていた」というぐらい順調だった。しかし、2008年にリーマンショックが発生。「金融が止まる、経験したことのない恐ろしさを感じた」という異常事態、資金が底をついた企業から、助けを求める断末魔の叫びに似た声が相次いだ。

企業とファンド投資家の間に立つ者として、どちらかを優先することはできず、かといって地域から逃げることもできない。救えなかった案件もいくつも見た。しかしこの経験は、ドーガンを次のステップに進めるきっかけにもなった。

「大変な状況にありましたが、あえて新しい事業再生ファンドをつくり、より厳しい状況にある企業をサポートする決断をしました」と、攻めに転ずる。さらにその後は、再生だけではなく企業の挑戦を支援するためにスタートアップ支援ファンドも始め、支援を加速させた。

ドーガンが運営しているファンドには、国や地銀をはじめ地元のメーカーや交通事業者、学習塾など、幅広い企業が出資している。

「海外のヘッジファンドやデリバティブなどはいかがですかと言っても、九州の経営者にはちっとも刺さりません。地元の企業や経済を再生するファンドに参加しませんかと誘ったほうが関心を持ってもらえます」

ファンドの利回りについても、「地元のために汗をかくので、5%でよければ出資してください。2桁の利回りを求められるなら、東京のファンドに投資してください」と正直に話す。

この姿勢に共感し、出資を決める経営者は少なくないという。現在、ドーガンは累計20ファンド、約420億円を運営。支援先の9割以上が地元・九州の企業だ。(2023年取材時点)

人と人とをつなぐことが地域金融機関の役割

福岡の財界人は、フランクな付き合いを大切にすると森氏は言う。

「若い頃に、辛子明太子で有名な『ふくや』の川原健相談役(当時会長)から突然案内状をいただいたんですね。『あなたは“ヒゲの会”の会員に選ばれました。いついつここにお越しください』と。当時、川原さんとは面識がなかったので不思議に思いつつ出かけると、そこは財界の関係者、起業家や医師、教師など、様々な人が集まるフランクな交流会でした」

こうした場での人とのつながりが、若かった森氏に与えた影響は大きいという。

「ちなみに、川原大先輩、髭は生やしていません。お茶目な大人が多いんですよ、福岡には(笑)」

現在は森氏自身も、出資者への報告会という形で、交流の場をつくっている。集まるのは、出資者と、出資を受ける経営者、スタートアップなど。これらを「皆をごちゃまぜにして呑み会をします」のだという。

「僕たちは黒子として、人と人とをつなぐ接着剤の役割を果たしたいと考えています」

未来のために、九州各地の魅力を磨くべき

今日の福岡の発展について、森氏は「先人が行った都市づくりの上に成り立っており、その遺産に頼っています」と主張し、「このまま何もしなければ、いずれ時代から取り残されます」と危機感を抱く。

「福岡は長らく『支店経済』と言われ、東京に本社がなければビジネスができないとされてきました。しかし世界を見てみると、ダイムラーやアディダス、シーメンスといったドイツのグローバル企業は、首都のベルリンに本社を置いていません。アメリカでも、テキサスやシアトルなどに本社を設けている大企業がありますよね。九州には各地にそれぞれ特徴のある産業や魅力があり、ビジネスも存在します。九州に点在する魅力をしっかりと磨き、連携し、グローバルで勝負する。そんな魅力的なビジネスの受け皿ができれば、九州で働くことを選ぶ若い人材も増えていくのではないでしょうか」

負けず嫌いが仕事の原動力と森氏。

「独立するときにも、福岡で勝負するなんてやめたほうがいいと散々言われました。それに反発して、ちゃんとやっていけるところを見せつけたくて、ここまでやってきたわけです。仕事をするにせよ、暮らすにせよ、福岡や九州は最高にいいよと言われるように、これからも取り組みたいですね」

ドーガンの社名の由来は、九州弁で「いかがですか?」。人と会うことで生まれる、ローカル金融の可能性を信じ続けている。


Fukuoka's Future Forecast 福岡の未来予想

九州で働くことが誇りとなる時代

今は、まだ東京一極集中で、経済格差もあります。しかし行き過ぎた資本主義への反動もあり、少しずつ「あえて地域で暮らす方がいい」という考えが、特に若い世代に出てきています。今後より増えていくと考えますし、それこそが、僕たちが事業を通して実現したいことです。

text by Yutaka Makiura / photograph by Yasunori Hidaka / edit by Keita Okubo

Ambitions FUKUOKA Vol.2

Scrap & Build 福岡未来会議

100年に一度といわれる大規模開発で、大きな変革期を迎えている、ビジネス都市・福岡。次の時代を切り拓くイノベーターらへのインタビューを軸に、福岡経済の今と、変革のためのヒントを探ります。 また、宇宙ビジネスや環境ビジネスで世界から注目を集める北九州の最新動向。TSMCで沸く熊本をマクロから捉える、半導体狂想曲の本質。長崎でジャパネットグループが手がける「長崎スタジアムシティ」の全貌。福岡のカルチャーの潮流と、アジアアートとの深い関係。など、全128ページで福岡・九州のビジネスの可能性をお届けします。

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