地域DXの本丸は、“地域人材”の育成だ。IBM地域DXセンターが長野で進めるDXの種まき

Presented by 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス

Ambitions編集部

IT人材の枯渇が叫ばれる現代、特に地域においてはその傾向が顕著だ。日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(以下IJDS)は2022年から全国7カ所に「IBM地域DXセンター」を続々と設立。地域から日本のDX推進に取り組んでいる。 Ambitionsでは、各地のIBM地域DXセンターを取材。 地域×DXの可能性と、地域を選ぶという新たなキャリアの形について、当事者のインタビューを通して全3回のシリーズで紹介する。 2023年9月に開設したIBM長野DXセンター 長・野村一大氏と、首都圏から長野市に移住し、同拠点に勤務する中江氏に話を聞いた。

地域経済最大の課題 “人材の流出”

1998年の長野オリンピックの情報システム開発を日本IBMが担当して以来、同グループと長野県や長野市は深い関係性がある。2023年4月、長野県と長野市、日本IBMは「IBM地域DXセンター」の立地協定を締結し、同年9月に長野市に拠点を開設した。

立ち上げをリードしたのが、センター長の野村一大氏だ。

野村一大氏

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 IBM長野DXセンター センター長

野村 例えば夏場の日没後にスーッと気温が下がっていく感覚など、東京にはない心地よさが長野にはありますよね。夏はサイクリング、冬はスキーなどアクティビティーが多く、それでいて東京まで90分程度の近さ。情緒と利便性を兼ね備えている点が、長野市の特徴だと実感しています。

──半年前に初めて赴任した長野の町に対して、野村氏はそのような感想を抱く。愛知県出身、長らく東京で金融系システムのプロジェクトマネージャーを務め、IBM長野DXセンターの開設を機に長野市へと移住した。

野村 これまで長野市に住んだことはなく、完全なIターンです。新しい拠点の立ち上げに携われるのは、非常に魅力的なミッションだと考えています。

拠点を立ち上げ、その土地でビジネスを行うには、まずは土地について学ぶことが欠かせません。地場の企業様や教育機関の方々を訪ね、対話を重ねることから始めました。

──対話を通して見えてきた課題が、首都圏から比較的近い場所にある地域特有の「首都圏へのIT人材流出」だった。

長野市では、専門学校や大学の卒業後に首都圏へ移住する若者が全国的に見ても多く、特に女性の流出が顕著だ。実際に就職活動の現場では「地元に残りたいが、就職活動では一般職の募集が多く、そもそもIT業界が選択肢に入っていない」「ITエンジニアとして活躍するための選択肢が少ない」という声が上がっているという。

地域でIT人材が生まれ、育ち、活躍できるようになるまでには、一定の「経験」が欠かせない。しかし、長野におけるITのプロジェクトは、まだまだ少ない。

長野県や長野市では、eラーニング研修や就労のサポートを行う「デジチャレ信州」「ナガノITキャリアチャレンジ」などの施策に取り組んでおり、地場の企業がIT人材を採用するうえでは成果を上げている。しかしITエンジニアが生まれ、成長し、後進を育てるエコシステムをつくるためには、何よりも「良質な仕事が数多くある、働く場所」が必要なのだ。

野村 IBM地域DXセンターという、IT人材が活躍するための地域拠点は、長野の人材課題に対するひとつの解決策になるのではないかと考えています。

グローバル企業の強みを生かし“守り”と“攻め”の業務を両立

──ITエンジニアの業務には、大きく「システム運用・保守」と「開発」があり、ふたつを戦略的に組み合わせることがIBM地域DXセンターの特徴だと野村氏はいう。

野村 「システムの運用・保守」業務は、すでに作業内容やスキームが確立されており、それを安定的に継続するケースが多い。有識者も比較的多く、まだ経験の浅い人材が、先輩の仕事を見て、経験を積んでいくのに最適な業務だといえます。

一方の「開発」業務は、スキルのあるIT人材が、新しい分野や独自の技術に挑戦するものであり、難易度が高い分、やりがいがあり、キャリアアップにもつながります。

「運用・保守」がなければ人は安定して育ちにくく、「開発」の機会が限られてしまう環境では、育った人材が首都圏に仕事を求めて出てしまいます。

IBM長野DXセンターでは、長野市というエリアにいながら、首都圏をはじめグローバルのさまざまなプロジェクトにリモートで取り組みます。それこそがIBMグループの強みであり、私たちが長野の人材課題に貢献できると考えたゆえんです。

IJDSの考える“地域DX”の第一歩は、その土地のIT人材を育て、活躍できる環境を整え、キャリアを積むことのできる、エンジニア輩出のエコシステムをつくることなのです。

未来へとつながる、IT人材の育成を通じた地域との共創

──IBM長野DXセンターが開設して約半年。野村氏は今、地元の企業やステークホルダーとの対話を続けるなかで、地域との共創の可能性を探っているという。

野村 多くの方々と会話して感じたのは、長野の皆さんは「自分たちの課題は、自分たちで解決したい」という気持ちが強いということです。

地元の企業の方からすると、私たちは突然外からやってきた存在です。「地元の仕事を奪われるのではないか」といった不安の声もありました。そこで、私たちの特徴である「長野の拠点から全国のプロジェクトに取り組む」ことを丁寧に説明することで、皆さんとの距離が少しずつ近づいてきたと感じています。

──長野県では産学官が連携し、ITによって新たなビジネス創出を目指す「信州ITバレー構想」を推進している。IBM長野DXセンターも、未来を見据えた地域貢献活動に取り組んでいる。

そのひとつが、文系大学生 向けのプログラミング講座だ。IT業界は専門用語が多く難しい印象を与えるため、専門外の人からは敬遠されてしまうことも少なくない。そこで簡易的なアルゴリズムやツールを使い、ITの世界を体験できる場を提供している。

野村 ゆくゆくはプログラミング講座を高校生にまで広げる計画もあります。IBM地域DXセンターは、業務を通じてIT人材を育てることに加え、未来の“IT人材の種”を生み出していくことにも貢献していきます。

【働き方インタビュー】自然豊かな場所で、先端のDX業務。これは“最強”の働き方

──IBM長野Xセンターでは現在、U・Iターンを中心にさまざまなIT人材が業務に取り組んでいる。リアルな声を、プログラマーとして勤務する中江氏に聞いた。

中江氏

地域DXセンター事業部 アプリケーション・プログラマー

──東京都出身の中江氏。フリーランスのエンジニアとしてキャリアを重ね、IBM長野DXセンター開設を機に、長野へと移住した。

中江 東京での暮らしが長かったこともあり、自然豊かな場所で暮らしたいという思いは以前から持っていました。

また同時に、フリーランスのエンジニアとして働く中で、今以上にスキルアップするにはどうすべきかということも考えていました。IBM地域DXセンターへの一番の入社理由は、教育研修制度など、フィードバックが手厚いこと。一定の経験を積んだ今、改めて自分のスキルの棚卸しを行いたいと思ったのです。

中でも長野というのは、正直たまたまです(笑)。ちょうど面接で対応していただいたのがセンター長の野村さんで、誘っていただきました。キャンプが好きなので、長野を選んでよかったと感じています。

──中江氏は現在、大手企業のシステムをクラウド環境へと移行する大規模プロジェクトを担当。プロジェクトチームは約30人で、長野拠点からは3人のエンジニアが参画している。

中江 大きな規模のプロジェクトに携われるのはエンジニアにとって魅力ですし、プロジェクトのメンバーは高度な技術力を持つエンジニアが多いので勉強になります。

環境の面では、東京にいた頃のように満員電車に乗る必要がなくなり、通勤のストレスがゼロになったのもメリットです。

IBM地域DXセンターの業務はリモートが前提で、全国各地、さらにはグローバルの仲間とともにプロジェクトに取り組みます。刺激的な一方、いかにコミュニケーションをスムーズにするかという点については、テクノロジーだけではうまくいかない部分もあり、それこそが今の拠点におけるチャレンジだと捉えています。

リモート環境での開発は今後スタンダードになっていくと思いますので、私たちが率先してナレッジを積み上げていくことが大切。IBM地域DXセンターでの取り組みが、長野全体のDX推進にもつながるだろうと感じています。

プロジェクト内容や働く環境、メンバーなど、あらゆる面において、エンジニアとして第一線で働けることを実感しています。東京じゃなくても、長野でもできるんだと。

さらに地域は都市圏と比べて賃金格差があると言われることが多い中、日本IBMグループでは住む地域によって給与水準が異なるということはない。この働き方って、“最強”じゃないかと思っています(笑)。

──中江氏は、エンジニアとして大事にしていることに「誠実に仕事をする」「規模の大きいプロジェクトで結果を残す」「自分に足りないものを知る」を挙げて、それらは今まさに実現できているという。

中江 IBM長野DXセンターでは学生向けのプログラミング講座などを行っていますが、そうした地域貢献活動にもやりがいを感じます。

また、ゆくゆくは地場企業との協業事業などに参加し、自分の培ってきた知識や経験を共有していきたいです。

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 (IJDS)の詳細は以下リンクよりご覧ください。

text by Koichiro Tayama / photographs by Takuya Sogawa/ edit by Keita Okubo

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