
1879年に日本で最初に設立された保険会社「東京海上」と、「日動火災」が合併し、2004年に誕生した東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)。 同社は現在、「九州・沖縄の社会課題」の解決に挑んでいるという。なぜ、保険会社が社会課題の解決に取り組むのか? 九州・沖縄各地で活動する同社のメンバー5名に話を聞いた。

佐甲有里
九州・沖縄エリアサービス部 シニアアソシエイト

田港周平
北九州支店 企画チーム ユニットリーダー

谷丸彩子
宮崎支店 イノベーショングループ シニアアソシエイト

丸目敦子
福岡支店 マーケットクリエーションチーム シニアアソシエイト

永谷健太
大分支店 中津支社 アソシエイト
九州・沖縄各地で活動するメンバーが集結
──最初に、皆さんの所属や取り組みをお教えください。
佐甲氏 私は九州・沖縄エリアサービス部に所属し、九州・沖縄エリアで働くメンバーのサポートをしています。今回の座談会には、福岡エリアはもちろん、九州・沖縄各地で活動するメンバーに集まっていただきました。
丸目氏 私は福岡出身で、勤務地も福岡です。これまでは従来の代理店営業でお客さまに保険をお届けする業務に就いていましたが、現在は「地域のために何ができるか」を考えてアイデアを出すという、ゼロからイチを起こす活動をしています。
田港氏 僕はもともと関東勤務でしたが、福岡エリアへの転勤を希望して、現在は北九州の支店に所属しています。「地域のため」という視点は僕たちのチームも同じで、そのためなら「何をやってもいい」くらい自由度の高い仕事をしています。
まずは地域の社会課題を知るべく、北九州市のあらゆる窓口と接点をつくり、地場企業や地元の人々とのハブになる取り組みを進めています。
谷丸氏 私は佐賀出身で、現在は宮崎支店に勤めています。地域で社会課題に取り組むには、自治体との連携が重要です。自治体に足を運び、誰が困っているのか、何に困っているのかを深掘りし、解決方法を探ります。ちなみに、今日撮影をした「水門」のプロジェクトにも、私を含む複数のメンバーが携わっています。
永谷氏 僕は長崎の佐世保市出身で、入社は2023年。大分の中津支社に勤務しています。皆さんと異なるのは、通常の代理店営業を行いながら兼務で官民共創ラボの活動をしている点です。2024年度から参加し、地域の社会課題のリサーチに取り組んでいます。
保険会社が社会課題に取り組む理由
──なぜ、保険会社である東京海上日動が「地域の社会課題解決」に取り組んでいるのでしょうか?
佐甲氏 当社は創業以来、保険事業を通じて地域社会をお守りしてきました。
「お客様や社会の“いつも”を支え、“いざ”をお守りする」というパーパスを実現するために、社会課題に貢献し続けることは、私たちの事業そのものです。
その取り組みを加速させるひとつの支援策として、2023年度に九州・沖縄エリアで独自の「社会課題解決プロジェクト」を立ち上げました。発足から2年が経ち、少しずつ具体的な取り組みが進んでいると実感しています。

永谷氏 僕が入社2年目でこのプロジェクトに参加したのは、とにかくいろいろな世界を見てみたい、いろいろな考え方を知りたいと思ったからです。勉強をしながら新たなことに挑戦し、保険業務にも活かしていきたいと考えています。
丸目氏 恥ずかしながら、私はこれまで地域の社会課題について考えたことがなかったかもしれません。担当するお客さまの課題は考えていましたが、地域までは考えが及んでいませんでした。しかし活動を始めてみると、地域には多岐にわたる社会課題があると知り、視野が広がりました。
保険会社である私たちがどう向き合うべきか。2年経って仲間を増やしながら解決策を検討、提案しています。
田港氏 地域の企業にとって、当社は「リスクに関する相談役」でした。
しかし今後は「事業戦略パートナー」として、何か新しい事業をやりたいときに一番に相談される関係の構築を目指したい。「地域で活動する企業」から、「地域の社会課題を解決する企業」になっていきたいと考えています。
自ら動くことで、社会が変わる 九州・沖縄エリアで仲間意識が育つ実感
──九州・沖縄各地で活動する中で得た「気付き」を教えてください。
谷丸氏 宮崎では、離婚したひとり親家庭が養育費を十分に得られていないという課題の解決に向けて、全国に先駆けて取り組みました。事業案を宮崎市に提案したところ「困りごとが解決できる可能性があるので是非検討したい」とのお声をいただきました。
自治体は住民への影響力が大きいため、今回の取り組みがひとり親家庭のお子さんの将来につながることを期待しています。

丸目氏 私たちのアイデアが、地域の方々に受け入れてもらえるということに喜びを感じます。福岡では、プロサッカーチーム・アビスパ福岡と連携し、試合当日にスタジアム来訪者に向けて「AED講習会」を行いました。試合前にもかかわらず多くの人々が参加してくださり、本当に感動しました。
田港氏 最初は「これって東京海上日動がやってもいいのだろうか?」と迷うこともありましたが、範囲を制限せずに活動していると、たくさんの人々から「東京海上日動さん、がんばってるね!」と声をかけていただけるようになりました。やはり、社会課題に対する行動は必要とされていて、行動を起こせば、地域のさまざまな人たちが見てくれる。大きな励みになります。
もうひとつ気が付いたことは、地域には僕たちと同じ気持ちの方がたくさんいるということ。地元の企業に課題解決の相談を行うなかで、「実はうちも地域の役に立ちたいと思っていたんだ」という反応を多くいただきました。社会課題解決の活動を通して、地元を愛する企業同士の仲間意識が育っていくことを実感しています。

佐甲氏 先日、九州・沖縄エリアの自治体と企業を招待して「官民共創ワークショップ」を開催しました。官民共創について本音で話す場となり、行政と民間企業の文化の違い等を含め、九州・沖縄全体で率直な意見交換ができ、非常にご好評いただきました。
九州には「オール九州」という思いが根付いているため、当社もつながりを大切にしていきたいですね。
東京海上日動「らしい」地域貢献の形
──東京海上日動だからできる、九州・沖縄への貢献の形について教えてください。
丸目氏 当社は全国各地に支店があり、さらに地域に根差した代理店や地場企業とのネットワークがあることが大きな強み。九州・沖縄の各地域にアプローチできる存在だと自信をもっています。

谷丸氏 同感です。地域の社会課題は多く、自治体や企業など解決できる存在も多い。当社はそれらをつなぐ「社会課題解決のプラットフォーマー」になれると思います。
さらに当社ならではのポイントを加えるなら、保険会社として長年リスクと向き合ってきた点です。社会課題の解決も含めて、新しい取り組みは何かしらのリスクが伴い、リスクを負わなければ前に進めないことがあります。そこは私たちの出番で、保険を含むさまざまな解決策を示して、サポートすることができると考えています。
田港氏 当社は社会課題解決とともに成長してきたと自負しています。貿易が活性化した背景には海上保険の存在があり、自動車モータリゼーションが発展した際には自動車保険が広がるなど、かねてから社会課題解決のマインドを持ちながら保険事業に従事してきました。
そのような先輩たちのDNAを受け継いでいることが、いまのチャレンジにつながっていると実感しています。
永谷氏 さまざまな業種の方と関わる機会が多いため、地域の社会課題解決プロジェクトを通して、社会課題解決のマインドを持った人がより増えていくといいですね。九州・沖縄で活動する保険会社の社員として、地域の人々が暮らしやすい九州・沖縄を目指していきます。

佐甲氏 もちろん、当社は営利企業でもあるため、ビジネスにつなげることも使命のひとつです。地域の暮らしがよくなることが、保険事業を営む私たちの成長にもつながっていると考えています。
そして保険というビジネスだけでなく、九州・沖縄の社会課題の解決に興味のある人にとっても、魅力的な会社になっていきたいという思いがあります。
あらゆる場所で人と社会の次の一歩を支えることが、今も昔も変わらず我々の使命です。同じ志を持つ仲間を増やし、地域の社会課題に本気で取り組み、「課題あるところに東京海上日動あり」と言われる存在になるべく努めて参ります。

水門ボット普及プロジェクト
近年、九州・沖縄に数多く存在する水門付近では、豪雨被害の甚大化による事故が多発。水門を操作する人が不足しているという課題も発生していた。東京海上日動は、地域の水害被害を少なくするために水害発生地域と水害被害金額規模のデータを分析し、早急に対策すべき水門を特定。自動で水門を操作する「水門ボット」を開発する民間企業、水門を管理する自治体と連携し、効果的な水門DXを推進している。
※写真は福岡県内の水門にて
九州・沖縄エリア官民共創ラボ
2023年度の活動開始から、自社のネットワークを活用し、九州・沖縄の各地で社会課題の解決に取り組んでいる。
1 北九州 避難サポートモデル調査事業
東京海上日動、北九州市、市内の介護事業者である株式会社ウチヤマホールディングス、そして交通事業者である第一交通産業株式会社と協定を締結。この協定により、避難情報「警戒レベル3 高齢者等避難」が発令された際に、介助者や移動手段がなく避難が難しい避難行動要支援者を支援する「避難サポートモデル調査事業」を実施する。基礎自治体と民間事業者(介護事業者や交通事業者等)が連携して行う全国初の避難支援モデル調査となる。
2 福岡 アビスパ福岡と救命救急イベントを開催
久留米大学病院の医師との接点から「心臓突然死」が年間約9.1万人※と全国で非常に多く発生している現状を知ったことがきっかけとなった施策。心肺蘇生やAED使用方法に関する正しい知識をより多くの人に知ってほしいという想いから、社会貢献活動に積極的に取り組んでいるアビスパ福岡にご協力いただき、Jリーグの試合当日に実施される社会連携(シャレン!)活動のイベントにおいて、試合前にスタジアム内部のミックスゾーンにて、久留米大学病院協力のもとAED講習会を実施した。
※参照:公益財団法人日本AED財団
3 宮崎 養育費保証自治体モデルの共同開発
離婚したひとり親家庭のうち、約7割が養育費を受け取っていないという課題に対して、保証会社である株式会社イントラストと連携し、養育費受け取りをサポートできる仕組みを共同開発した。
宮崎市では全国で初めて保証会社と連携した養育費保証契約の手続き支援、ならびに保証料補助モデルを導入。自治体が初年度保証料を補助し、保証料分は自治体から直接保証会社へ支払うことで、ひとり親家庭は初期費用の負担なく養育費保証を受けることが可能となる。
4 大分 大分創生研鑽会の開催
大分県をより元気に魅力的にするためにさまざまな企業や自治体・大学が参加する研鑽会を発足。「地方創生☆アイデアコンテスト」への応募に向けて「空家問題」や「若者の職場への定着率の増加」など地域の社会課題への解決策や大分県をより良くするアイデアを多様な角度から議論している。
text by Emi Sasaki / photographs by Shogo Higashino / edit by Keita Okubo

Ambitions FUKUOKA Vol.3
「NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!」
福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。