福岡、北九州、原宿のキーパーソンが語る経済都市の未来【セッションレポート】

田村朋美

2025年5月29日、『Ambitions FUKUOKAのVol3』の刊行パーティーが開催。職種や年齢もさまざまな福岡・九州のビジネスリーダー約150名が一堂に会した。 本記事では、その中で行われた特別ビジネスセッション「NEW Business NEW FUKUOKA 
100年後の経済都市・福岡を視る」をレポート。福岡市、北九州市、そして東京・原宿という異なる場所で、まちづくりに取り組む3名の視点を絡め、福岡の未来を探った。 モデレーターはAmbitions FUKUOKA セールス統括・副編集長の田中智恵が務める。

千原徹也

株式会社れもんらいふ代表取締役CEO /アートディレクター

菊池勇太

合同会社ポルト代表・岡野バルブ製造株式会社 取締役 経営企画室長兼新事業統括

南方尚喜

LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社 スマートシティ本部本部長

都市の変革は、カルチャー破壊を引き起こすか

──天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの再開発が進む福岡市は、日に日に街が変化しています。新しく生まれ変わっていく街への期待と同時に、街に根付いたカルチャーを破壊してしまうのではないかという懸念もあるかもしれません。そこでまずは、「都市の変革はカルチャー破壊を引き起こすか」について伺います。

千原さんは、東京・原宿の原宿交差点前に開業した商業施設・東急プラザ新宿「ハラカド」の開発に携わっていますが、開発にあたって反発の声はなかったでしょうか?

千原 京都出身の僕は、クリエイターやファッションデザイナーたちが集まっている原宿に憧れて、深夜バスでよく遊びに行っていました。それくらい原宿という街やカルチャーが昔から大好きなんですね。

だから、東急不動産が原宿の再開発を始めると知ったときは、「このままでは原宿カルチャーが失われてしまう」と思って、クリエイターや企業と一緒に反対活動を始めたんです。つまり、僕が原宿再開発に反発していた当事者(笑)。でもそれがきっかけで原宿のまちづくりやハラカドの開発に関わるようになりました。

──ハラカドが、原宿カルチャーを受け継ぎつつ、新たなカルチャーを創造・発信するクリエイティブ空間として誕生した背景には、千原さんたちの原宿カルチャーを守りたい思いがあったのですね。南方さんは福岡在住の当事者として、街の開発をどう見ていますか?

南方 この十数年で福岡はかなり変化していると思います。全国各地で人口が減り、駅前のビルでも空室率が多くなる中で、その逆を走り続けている福岡の街は本当にすごいです。しかも、街は変化しても福岡ならではのカルチャーは変わっていないという点も注目すべきだと思っています。

──福岡のカルチャーとは、どのようなものでしょうか?

南方 福岡には、外から入ってきたものを寛容に受け入れて、それをローカライズしつつ高いレベルに引き上げる文化が昔からありますよね。

諸説ありますが、うどんや饅頭は福岡が発祥と言われていて、いつの間にか全国のスタンダードになりました。明太子も海外から伝わった食文化を日本人に合うように福岡の企業がアレンジして全国に広めています。僕はこのアレンジカルチャーが大好きなので、どれだけ街が変化しても「福岡らしさ」として変わらないでほしいと思っています。

菊池 福岡市には商人気質があるんですよね。人が行き交う中で生まれた文化や手に入れたアイテムを磨き上げることに長けていると言うか。周辺都市が炭鉱やものづくりで発展する中、福岡市は貿易と商業で発展した歴史があるので、人をもてなすのが得意な商人気質が根付いている。それが街の変化を寛容に受け入れる土台になっているのではないかと思います。

──次は「人口減少社会における都市戦略」を伺います。北九州市は2024年、60年ぶりに転入者数が転出者数を上回りましたが、菊池さんは北九州市がこれから描くべき都市戦略についてどのように考えますか?

菊池  僕は北九州の門司区の出身で、現在も門司エリアを中心に事業やまちづくりに取り組んでいます。

門司は明治時代に日本で一番早く発展した地域でした。関門海峡にある港が国際港であり、日本の近代化の玄関口は北九州だったんです。しかしその後、急成長する福岡市と逆転する形で北九州市は人口が減少していったのですが、昔のように門司の人口を増やしたいかと言えば……地元の人はあまりそれを望んでいないと思うんです。

のどかな景色を見ながら緩やかに過ごしたいと思う地元の人からすれば、観光地化されることも嬉しくないでしょう。

そこで僕が考えている一つの答えは、経済や工業、歴史、ファッション、芸術、食文化など各地が独自の色を磨き上げて発展しているイタリアの都市のようになることです。

人口が増加している福岡市でも、天神と博多だけでなく薬院や大名、春吉など小さなエリアごとに少しずつ文化が違いますよね。東京も同じで、駅やエリアごとにカルチャーや人の雰囲気が異なっています。今後は、駅や地区、通りごとに独自の色を持った、多種多様な街が生まれていく時代になるのではないかと思っています。

南方 たしかに、人口減少は社会課題である一方、地域にとってチャンスでもありますよね。自分たちの地域の良さは何だろうとあらためて考え、地域の特色を強めていく。どこかの地域でうまくいったことをコピーアンドペーストで広げていこうとするのは安直すぎると思っています。

街は小さいほど独自のカルチャーが生まれる

千原 駅やエリアごとでカルチャーが違うというのは本当にそうだと思います。原宿は「原宿」という地名があるのではなくて、神宮前と呼ばれる地区に原宿という駅があるだけの小さな街なんです。そんな街からファッションブランドなどが生まれ、人が集まり、世界から注目を集める独自のカルチャーが生まれたわけです。

日本全国の街からも、巨大化を目指すのではなく、自分たちの特徴を生かした動きが起きると面白いですね。

菊池 めちゃくちゃ共感です。門司港も小さな街で、原宿と同じように地名はなく、駅名がそのまま使われているんですよね。駅から半径2キロくらいのエリアを門司港エリアと認識し、明治時代はその小さなエリアに当時の日本で重要な機能が集まり、周辺には社交場ができて、約10万人が集積していました。

そこからいろんな文化が生まれたのは、やはり街がコンパクトだったからだと思うんです。だから、門司港はこの街ならではのユニークな人々が集まった、小さなコミュニティのままでいいかなと思っています。

千原 そうですね。地方は独自の何かをつくっていくことが生きる道になると思います。ロードサイドに全国の大規模チェーン店や商業施設が並ぶような光景を目指すのは、もうやめた方がいい。地域の色を薄めてしまうので勿体無いと思っています。

菊池 それって、車社会をベースにしたまちづくりの結果とも言えますよね。今は、公共交通と自分の体で移動するヒューマンスケールなまちづくりが増えていると思うので、大きくなった街を小さくしていくような動きが加速すればいいなと思います。

ちなみに、北九州市は車社会をベースにしたまちづくりのわかりやすい失敗例だと思っていて。車移動を軸に街を拡大したことで、文化や商業機能などの全てが薄くなり、さびれていった感覚があります。だから、半径数キロの小さなエリアで主体性を持った人たちが集まって、自分たちで街を自治していくような社会になるといいなと思っています。

福岡らしい濃い付き合い方で、アジアの中心都市へ

──分断化が進む時代において、福岡市や北九州市を含む「広域な福岡エリア」が担う役割は何だとお考えでしょうか。

南方 地理的に世界との距離が近いのが福岡の特徴なので、福岡が国内外の結節点となって分断化を緩和するような役割を担うのかなと思っていますし、それに期待しています。

菊池 僕は割と分断賛成派で、門司港を鎖国して門司港自治区にしたいと思うほどなんですね(笑)。とはいえ、オンラインで世界中の人と簡単につながることができますし、特に福岡は一人介すと全員が知り合いのような状況だから、細分化されてもつながり続けると思うんです。

それならば、人情味を大切に福岡らしい“濃い付き合い方”をしながら生きていきたい。福岡はそれができる街だと思っています。

千原 福岡のように空港が近くにある都市は他になくて、僕からすると銀座に行くより福岡に行く方が近いイメージを持っています(笑)。

個人的にはアジアに行くとき、羽田から直接行くよりも福岡を経由して行きたいと思うくらい福岡が好きなので、福岡にはアジアの中心となって発展してほしいと思っています。これからの福岡にも期待しています。

Ambitions刊行パーティーの様子

セッションの後、別室の会場にて刊行パーティーを開催。来場者同士のネットワーキングが行われた。

text & edit by Tomomi Tamura / photographs by Shogo Higashino

最新号

Ambitions FUKUOKA Vol.3

発売

NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!

福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。