躍進するマルタイラーメン。メイドイン九州の本場の味を世界の食卓へ

田村朋美

発売から66年、“煮込み3分、味一流”のキャッチフレーズで、九州はもちろん全国各地にファンがいるマルタイの「棒ラーメン」。 同社は、ご当地ラーメンシリーズやカップ麺、袋麺、皿うどんなど商品ラインナップを次々と増やしながら、こだわりの味を家庭の食卓に届けている。 そんなマルタイラーメンには海外にも根強いファンが大勢いる。2011年の海外進出以降、アジアや北米、ヨーロッパなど各地からの引き合いがあるという。 マルタイの歩みと今後の海外戦略について話を伺った。

川島英広

株式会社マルタイ 代表取締役社長

宮本寛之

株式会社マルタイ 取締役 商品戦略部担当 兼 海外事業部長

食堂で食べるラーメンを食卓に

──マルタイのこれまでの歩みを教えてください。

川島氏 マルタイの歴史は、1945年の戦後間もない福岡で、誰もが食に困っていた時代に、創業者の藤田泰一郎氏が“玉うどん”の製麺をスタートしたことから始まりました。

その後、「食堂で食べるラーメンの味を家庭に持ち込みたい」と試行錯誤を重ね、誕生したのがノンフライ・ノンスチームで乾燥させた棒状のまっすぐな即席麺「マルタイラーメン(通称:棒ラーメン)」です。

1959年の発売当初から多くの方に支持されて、翌年には工場を竣工。以降、日々研究を重ねて商品ラインナップを増やしながら、棒ラーメンは愛される商品として九州の家庭に根づくことになりました。

川島氏 2000年代には金と銀のパッケージが特徴的な高級棒ラーメンを開発。従来の棒ラーメンの約3倍という価格帯で百貨店や高級スーパーで販売し、今まで棒ラーメンに馴染みのなかった新しいファン層を獲得しました。

ただ、高級がゆえに爆発的ヒットとはならなかったため、従来の棒ラーメンと高級ラーメンの中間となる商品の開発に乗り出しました。

そうして2007年に誕生したのが、「博多醤油とんこつラーメン」「熊本黒マー油とんこつラーメン」「鹿児島黒豚とんこつラーメン」を筆頭にしたご当地ラーメンシリーズです。

発売後年々売り上げが伸びて大ヒット商品となり、宮崎や大分、佐賀、久留米といった九州ラーメンだけでなく、北海道や瀬戸内などのご当地ラーメンを次々と商品化していきました。

──ご当地ラーメンシリーズは2013年に海外輸出が本格化しています。どのような思いで海外に進出したのでしょうか。

川島氏 訪日観光客が福岡や九州で食べて「おいしい」と思ってくれたとんこつラーメンを、帰国後も食卓で楽しんでほしいという思いからです。

もちろん、日本の有名ラーメン店の海外進出は盛んで、自国でもラーメンを食べられる環境にある人はいるでしょう。ただ、お店で食べるラーメンは価格がそれなりにしますし、日本とは異なるメニューを提供していることもあると思います。

その点、マルタイの即席麺ならお湯を沸かして麺を茹で、スープを入れるだけで、簡単に福岡や九州の味を再現できます。

海外進出は2013年に、マルタイの棒ラーメンの味を高く評価してくれた香港のバイヤーとの取引から本格化し、翌年には台湾や中国からも引き合いがあって進出が決定。その後、順調にフィリピンやシンガポール、マレーシアなどにも拡大していきました。

本場・九州で作ったラーメンを海外へ

──他のインスタントラーメンや実店舗と比較したときの優位性を教えてください。

川島氏 優位性は大きく二つあり、一つはマルタイの工場は福岡と佐賀にしかないことです。

完全な“メイドインジャパン”のラーメンを海外で安価に購入できるのはマルタイの大きな強み。海外進出している日本のラーメン店とも、海外工場で作られている即席麺とも違い、とんこつラーメンの本場・九州で作られたラーメンを日常的に食卓で楽しめることに価値を感じていただいています。

また、日本のイメージのまま買いたいという要望から、パッケージも日本語表記のまま輸出しているので、より日本らしさを感じてもらえています。

もう一つは、所有している工場が食品衛生の国際認証を取得していることです。高品質な商品づくりにこだわった結果、各国がその品質の良さを認めてくれて、海外事業の売り上げは7億円以上の規模にまで拡大しています。

宮本氏 実は海外事業部ができたのはつい最近の話で、それまでは私と数人のチームで日本と海外を行き来しながらやり取りをしていました。それが我々も驚くほどのスピードで複数の国や地域へと拡大しているうえに、現在お取引がない国からも「サンプルを送ってほしい」という要望を日々いただくほど、マルタイの棒ラーメンの噂は広がっています。今後は事業部の人員を増やすことで各国それぞれの要望を柔軟に聞ける体制をつくっていきたいです。

北米向けにアニマルフリーのラーメンを開発

──海外輸出にあたって難しかった点を教えてください。

宮本氏 食品や添加物の規格・基準は国ごとに異なるため、それぞれに合わせた商品開発が必要だったことです。

日本では問題がない原材料を使えない、アニマルフリーにする必要があるなど、麺やスープ、パッケージなどの資材も含めて厳しい基準をクリアするのは大変でした。

しかも、規格や基準は年々厳しくなるので、マルタイとしても常に進化し続ける必要があるんです。それだけ海外事業は開発や生産体制に負荷がかかるのですが、それでも輸出拡大に挑み続けているのは、世界の食卓にマルタイの棒ラーメンを届けたいという思いが勝るから。

宮本氏 その思いは各国にきちんと届いており、「マルタイの棒ラーメンは日本のお店で食べるラーメンのクオリティだ」と評価され、家で調理する習慣の少ないアジアの国でも広く受け入れられています。自社工場でこだわってブレンドしたスープと麺が、世界中の食卓で楽しまれていることが何よりうれしいです。

──今後の展開を教えてください

川島氏 直近で進めているのは、棒ラーメン製造工場のライン増設計画です。国内では関東圏での売れ行きが非常に良いため、生産量を少しずつ増加させながら国内外へのさらなる拡大を目指します。

今後、海外市場での一番の伸びしろと捉えているのは北米市場です。北米のラーメン市場は近年急速に成長を続けており、特にインスタントラーメン市場は2024年の約12億4000万米ドルから2032年には約19億8000万米ドルに成長すると予測されています。

マルタイでは北米向けに「博多・熊本・鹿児島」のご当地ラーメンをアニマルフリーで開発しており、サンヨーフーズアメリカと組んで2024年秋から販売を開始したばかりですが、すでに手応えを得られています。アジアと同様、日本旅行からの帰国後に自国でもラーメンを楽しみたいニーズが北米でも増えているので、これからどれだけ認知拡大できるかが勝負だと思っています。

そうして目指すのは、経営理念に掲げている「笑顔と幸せを食卓に」を全世界で実現させること。創業者が食堂のラーメンを食卓でも再現できないかと考えてつくった棒ラーメンは、60年以上にわたって九州を中心とした多くのファンに愛され、支えられてきました。その棒ラーメンが海を渡って世界中の食卓に届き、みんなで幸せを囲むような未来を作りたい。マルタイはこれからもおいしさを追求し続けます。

text & edit by Tomomi Tamura / photographs by Shogo Higashino

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