
石川県能美市に本社拠点を置く、小松マテーレ株式会社。地域の下請け染色業として始まった同社は、いまや化学素材メーカーとして、世界で高く評価される企業にまで成長している。特筆すべきは、その「市場展開の幅広さ」と「時代への対応力」だ。欧州から中東、アメリカまで海外市場への幅広い対応、また環境に配慮したブランド展開を推進するなど、素材技術の開発とともに“探索”をすすめてきた。こうした躍進の背景には、同社が掲げる「開拓者精神」があるという。新体制になって間もないなか、代表権を持つ2人にうかがった。

佐々木久衛
小松マテーレ株式会社 代表取締役社長
1953年生まれ。大学院修了後、1977年に東レ入社。2010年に取締役。2020年に小松マテーレ入社。経営企画室長を務め、同年6月から現職。

中山大輔
小松マテーレ株式会社 代表取締役専務 営業本部長
1969年生まれ。1992年に小松精練(現:小松マテーレ)入社。市場開拓室長や国際営業部長を経て、2009年に執行役員に就任。2023年6月から現職。
下請け工場から、アパレルブランドも担う「高成長企業」へ
佐々木氏 小松マテーレは80年前、1943年に小松織物精練染工としてスタートしました。「精練」というのは、染色の前処理として生地の不純物や汚れなどを除去する工程を指します。分業体制である繊維産業においてプロセスの一部を担う、いわゆる下請け=受託加工企業として始まった訳です。
顧客の要望に応える技術力や商品提案力を高めながら、アパレルなど新たな顧客や用途を主体的に開拓して、事業領域を広げてきました。つまり、需要に応えると同時に、領域を広げて需要そのものも作り出してきたんですね。
中山氏 5年前に社名を変更した際に「精練」という名前を外したのも、衣料のみならず医療、福祉、生活資材、建築建材など、もはや繊維加工にとどまらない事業領域への挑戦・拡大が背景にあります。
佐々木氏 挑戦の姿勢は数字にも表れており、2023年3月期の連結決算は、売上高が前期比12.7%増の354億円でした。特に海外向けファブリック事業が伸長し全体を牽引したほか、国内向けも堅調に推移しています。この数年はコロナ禍などで設備投資には慎重でしたが、今期からは環境対策や生産効率化のため、投資額を積極的に引き上げるなど攻めに転じています。

競争相手は「世界」と「時代」
中山氏 市場別売上高の約4割を占める海外事業のなかでも、成長を見せ、安定しているのが中東市場です。20億人市場と言われるイスラム教徒のなかでも、男性が着用する「トーブ」という民族衣装の白生地において、我々は高いシェアを持っています。技術に裏打ちされた「白色」の表現の多様さや、祈るためにひざまずいても汚れにくいような機能性が現地の需要に応え、高く評価されています。
もうひとつ堅調なのが、欧州ラグジュアリーブランドへの素材展開です。やはり、ファッション業界は欧州の存在感が強い。そのため「ヨーロッパ経由で世界に売る」という戦略のもと、まずブランドに食い込むことで我々の評価を高めています。


佐々木氏 また、繊維産業の大きな課題が、環境への取り組みです。世界と戦っていて感じるのは「環境に配慮していない商品は、もはや商談のテーブルにすら載せてもらえない」時代であるということです。同じような商品でも、環境負荷の少ない生産プロセスや素材になっているかで仕入れが判断される。
一方で、「これまで積み上げてきた技術を整理してみると、すでにサステナブルな取り組みとなっている」ことにも気づきました。耐久性を向上させることで製品寿命の長期化につながって廃棄物を削減できたり、染色時間を効率的に短縮することでCO2排出量を減らせたりと、自分たちの強みを振り返るきっかけにもなっています。
創業から培われる「開拓者精神」と「創工商」
中山氏 「常に開拓者であれ」という企業ポリシーを掲げていますが、海外事業などはまさにその「開拓者精神」あってこそです。海外事業は20年ほど前から本格的に展開していますが、歴史や文化の違う国々を相手にするには何より、実行力が必要です。
今では、日本でも人気の高いラグジュアリーブランドの数々に我々の素材が使われていますし、小松マテーレしかアポの取れない企業もたくさんあります。「やるかやらないか」において「失敗してもやる」を取ってきたこと、そこに裏打ちされた技術力があればこその結果です。
佐々木氏 開拓者精神とともに大事にしているのが、「創工商」という考えです。「工商=技術と商い」を広げていくには、真に市場や時代が求めているものを創り出すことが大切です。世のためになるのか、人に感動を与えられるか、そして自分がやりたいと思えるか──。
新しい商品開発やビジネス、業務改善といった提案を社内で集め、毎月1000件を超える試作を行なっています。想いあふれる社員の多さを感じながら、経営陣として開発活動を見つめています。

地域から、自らを示し続けよ
中山氏 「精練」というプロセスが小松マテーレの始まりだったように、繊維産業というのはとにかく分業制なんですね。我々のような地域に根ざした地場産業は多いと思いますが、世界を向いて「メイド・イン・ジャパン」で挑戦することは、いつでも、どこであっても可能です。この姿勢こそが大切なのだと考えています。
佐々木氏 よく「真の開発者たれ、提案型企業たれ」と社内に呼びかけていますが、自分たちの持っている強みを世の中に示し続ける、常に外に向かっていくことが重要です。技術を磨きながらも、常に課題を見つけ、実践を繰り返して、世の中にまだないものを生み出していきたいですね。

企業DATA
- 小松マテーレ株式会社
- 事業内容:衣料・資材ファブリック、先端材料などの製造・販売
- 代表者:代表取締役社長 佐々木久衛
- 本社:石川県能美市浜町ヌ167
- 創業:1943年10月
(2023年9月29日発売の『Ambitions Vol.03』より転載)
text & edit by Tatsuto Muro / photographs by Shina Matsumura