第5話:ライバルたちの鼓動【100話で上場するビジネス小説】

YO & ASO

これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。

有田恭子と増井博之のチームがなかなか手応えのあるアイディアに辿り着けていない中、時を同じくして、会社の別の部屋ではエンジニアリング部門の荒川正志と、マーケティング部門の飯島真理が、それぞれ自分たちのチームと共に新規事業案を練っていた。

荒川は冷静な表情でモニターに映る膨大なデータを分析し、一方の飯島はダイナミックなマーケット分析を行い、効果的な戦略を模索していた。意見がぶつかりなかなか前に進まない増井と有田に対して、彼らは明確な自信と熱意を持って新規事業のプランづくりに取り組んでいた。

荒川チーム、通称「ギアーズ」は富士山電機工業の中でも特に技術力に秀でたメンバーで構成されていた。チーム内には、生体信号処理の専門家である吉川花子をはじめ、ベテランエンジニアや新進気鋭の若手エンジニアまで、技術に明るいメンバーが揃っていた。彼らはそれぞれが持つ専門性を活かし、次世代スマートウォッチの構想を具体化しつつあり、はやくもそのプランニングは電子部品の配置から配線まで、ウォッチの基盤設計を手がける段階に入っていた。ベテランの持つ深い経験と卓越した技術力が、スマートウォッチのコンパクトながらも高性能な設計を可能にした。

「我々の強みは高密度実装技術だ。それを活かして、他社の追随を許さない製品を作り上げるぞ!」

荒川は力強く宣言した。

チームメンバーである吉川も、生体信号を分析して健康状態を可視化するためのアルゴリズムを開発しはじめると、心拍数や血中酸素濃度、睡眠パターンなどを分析し、ユーザーに適切なライフスタイルアドバイスを提供する枠組みを模索しはじめていた。吉川は情熱的に語った。

「わたしたちのスマートウォッチはただ時間を表示するだけのデバイスではありません。人々の生活を健康で豊かにするパートナーになります。」

荒川はチームに向かって熱く語りかける。

「これが富士山電機工業の未来だ。我々の技術力で、人々のライフスタイルを革新する新たなスマートウォッチを生み出そう。」

「ギアーズ」は、各々が自身の専門性を活かして、新たなビジネスモデルの具現化に取り組んでいた。

一方、飯島チームは「ネットワーカーズ」と呼ばれ、社内政治に長けたメンバーたちが集まっていた。飯島はキーマンとの交渉術に長け、重要な情報を見つけ出すのが得意だった。若手の企画エースと評判の森本樹理をはじめ、分析専門のメンバーとコミュニケーション能力に長けたメンバーが加わり、個性的でありながらもバランスのとれたメンバーたちで構成されていた。

新規事業コンテストで出世のチャンスを掴みたいと考えていた飯島は、社内の情報収集にやっきになった。富士山電機工業の社内随一のキーマンといわれる経理部長の川端を捕まえ、社員食堂での一見何気ないランチ会話を仕掛けた。

「川端部長!」

笑顔で話しかけた飯島に、川端はこたえた。

「おお、飯島くん。最近のコーヒー、味が落ちたような気がするんだがどう思うかね?」

川端のこぼした他愛もない愚痴から、飯島は何か情報を得ることができないかと考えて会話を展開する。

「たしかに、最近少し総務部門が忙しそうな気がします。そういう意味では、経理部はどうですか?最近、何か手間取っている業務などはありませんか?」

「ああ、それならありますよ。」

と川端は思わず苦笑い。

「全社的に、予算削減を図る指示が上からきているんです。生産性をもっとあげないと。」

それから数日後、飯島は社内キーマンの一人である製造部の村田部長と偶然エレベーターで一緒になると、すかさず会話を仕掛けた。

「村田部長、川端さんから生産効率向上の指示が出ていると聞きましたが、何か具体的な方針は立てていますか?」

突然の飯島の問いかけに、村田部長は少し驚きながらもゆっくりと答えた。

「実は産業用ロボットの活用を考えているところだ。ただ、まだ具体的なプランは…」

この情報を手に入れた飯島はすぐに森本、藤本、そして渡部に会議を呼び掛けた。

「見えたわ! わたしたちのチームのターゲットは、産業用ロボットの生産効率向上でいきましょう! これが経営陣の期待に応える道だと思う。」

飯島はチームに語りかけ、新たなプロジェクトの火付け役となった。飯島のメンバーである森本は、すぐにその案にアイディアを組み合わせた。

「生産効率向上。それなら、自動化技術とAIを組み合わせた制御システムの提供が有効かもしれませんね。その市場はまだ未開拓で伸びしろがあります。しかも私たちの技術力なら、他社に先駆けてその領域に進出することが可能です。」

とデータに基づいた企画を開始した。

「私たちだけではなく、開発部や販売部とも協力すれば、より大きな効果を出せると思う。早速彼らとの会議をセットアップしましょう。」

飯島の抜け目ない社内情報の収集により、ネットワーカーズは社内ウケしそうなビジネスプランをすごい勢いで作り上げていった。

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