
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
「はぁ…」
ネットワーカーズのメンバー、森本樹理は、重いため息をつきながら山積みの資料に目を落とした。飯島率いるネットワーカーズは、順風満帆に見えた。しかし、その輝かしい舞台裏では、不協和音が生まれ始めていた。
「また、こんな時間に呼び出して…」
時計の針は、既に夜の10時を回っていた。飯島と田中は、まだオフィスに残って議論を続けている。森本は、彼らの声が聞こえるたびに、胃がキリキリと痛むのを感じていた。
「森本さん、このデータ、明日の夜までにまとめておいてくれる?」
数時間後、ようやく解放された森本のもとに、飯島から大量のデータ分析の依頼が舞い込んできた。
「え、でも、この量だと、徹夜しても…」
「大丈夫、森本さんならできるわ。いつも、正確でスピーディーな仕事ぶり、本当に助かっているわ。あ、私はこれから部長たちとの宴席に顔を出さないといけないので失礼するわね。後はよろしく。」
飯島は、そう言うと、森本に笑顔とも皮肉とも取れる視線を向けてオフィスを出て行った。
「ああ、もう、本当に無理…」
朦朧とした状態でパソコンに向き合い、気持ちを奮い立たせて作業を開始した森本。そこへ、追い討ちとなるような突如のアクシデントが発生した。共有ドライブにアクセスができなくなったのだ。

「またダウン。もう、なんなの。最近、富士山電機工業のサーバー、落ちまくりじゃない。これじゃ作業ができなくてまた飯島さんに責められる。もう、やってられない。やってられない!」
森本は、机に突っ伏し、涙をこらえることができなかった。
ネットワーカーズのメンバーは、それぞれが個性的で能力も高かった。しかしその一方で、チームワークという点では大きな問題を抱えていた。飯島は、目的のためには手段を選ばない、冷酷な一面を持っていた。彼女は、自分の思い通りにならないことがあると周囲に当たり散らし、時には部下を精神的に追い詰めることもあった。
「田中さんも、もっと、私たちのことを考えてくれればいいのに。」
森本は、心の中で、そう呟いた。メンターである田中は、ビジネスの専門家としては一流だった。しかし、彼は、飯島のマネジメントに違和感を感じながらも見て見ぬふりをしていた。
「このままでは、チームが壊れてしまう…」
森本は、不安と焦燥感を募らせていた。そして森本は、ある人物に助けを求めることを決意した。それは、社内でデータ分析のプロフェッショナルとして知られていた、増井博之だった。