
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
「五十嵐さん! このセンサー、ぜひ、私たちのプロジェクトにお貸しください!」
増井の突然の申し出に、五十嵐は、目を丸くした。
「え? プロジェクト? いや、でも、このセンサーはもう何年も前の代物ですし…」
五十嵐は、戸惑いを隠せない。彼にとって、そのセンサーは、過去の失敗の象徴であり、思い出したくもない苦い記憶と結びついたものだった。
「五十嵐さんのおっしゃる通り、このセンサーは、単体では、市場価値は低いのかもしれません。しかし、私たちが開発中のシステムに組み込めば、必ず、世界を変えることができます!」
増井は、静かに、しかし力強く語り始めた。
西園寺先生との再会、ピアノを弾きたいという彼女の切なる願い、そして、電子部品の力で、その夢を実現しようとする、自分たちの挑戦。増井は、自らの想いを、包み隠さず、五十嵐にぶつけた。
「私たちは、指の不自由な方々が、再び自由に指を動かし、表現する喜びを取り戻せるような、そんな未来を目指しています。そして、このセンサーは、その夢を実現するための、まさに、欠かせないピースなんです!」
増井の言葉は熱を帯びていき、五十嵐の心を少しずつ動かしていった。
「増井さんたちは、本当に人の心を動かそうとしているんですね。そして、このセンサーが鍵を握る可能性がある。」
五十嵐の瞳の奥に、かつての情熱が再び灯り始めていた。

「ええ! 私たちは、このセンサーが、西園寺先生のような夢を諦めかけた人々に、再び希望を与えると信じています! ですが、私たちだけではこの夢を実現することはできません。どうか、五十嵐さん、あなたの技術で私たちと一緒にこの挑戦を共にしませんか?」
増井の言葉は、力強く、五十嵐の胸に響いた。それは、単なるビジネスの提案ではなく、技術者としての魂の叫びであり、夢を追い求める者同士の共鳴だった。
五十嵐は、静かに息を呑み、増井の熱意のこもった眼差しに応えた。
「もう少し詳しく、話を聞かせてください。」