朝日インテック発。人生100年時代を歩き続けるためのトレーニング【日本新規事業大賞 #05】

Ambitions編集部

スタートアップ産業が活発化し、新たなビジネスが続々と生まれている日本。しかし、イノベーションを創出するのは、スタートアップだけではない。歴史ある大企業・中小企業からも、革新的なアイデアと起業家精神を備え、社会課題を解決する挑戦者たちが活躍している。 未来を変える可能性を秘める彼らの活動と、優れた新規事業にスポットライトをあてるのが、「日本新規事業大賞」だ。Ambitionsでは、2024年5月15日に「Startup JAPAN」の中で行われた、同賞の最終審査ピッチコンテストの事業内容を5回にわたってお届けする。 第5弾は、カテーテル治療に欠かせない医療機器などの開発・製造・販売を手掛ける朝日インテックの新規事業「walkey」。高齢による筋力低下の課題を、新たなトレーニング手法で解決するサービスだ。朝日インテック株式会社 基盤技術研究本部の鹿子泰宏氏のピッチを紹介する。

フィットネスジムのモデルを革新し、パーソナライズされたトレーニングを実現

カテーテル治療で利用される医療機器を開発する朝日インテック株式会社。主力事業であるガイドワイヤーを中心に、開胸を必要としない低侵襲治療に必要な機器を開発・製造・販売し、心臓疾患の患者のQOL(Quality of life)の改善に貢献してきた。近年は病気を未然に防ぐため、新規事業開発にも挑んでいる。

「walkey」は、誰もが自宅で行える、歩行専用のトレーニングサービスだ。専用のアプリと機器を用いることで、一人一人にカスタマイズされたトレーニングメニューが提供され、下半身の筋力を高められる。

背景にあった課題は、ロコモティブシンドロームなどの原因にもなる、加齢に伴う筋肉量の低下だった。鹿子氏が示したデータによると、下肢(腰から足)の筋肉量は、加齢とともに著しい低下が認められた。その原因や影響について、同社は入念なリサーチを進めたところ、ある発見があった。

「男性よりも女性において、下肢筋肉の衰えがさまざまなQOL課題につながっていることが判明しました。ホルモンバランスの乱れなども要因の一つでしょう。そこで私たちは、ターゲットを50〜60代の女性に設定してサービスを展開することを決めました」

事業設計にあたり鹿子氏らが行ったのは、100を超えるアイデアの創出とマッピングだった。さまざまなニーズを想定する中で、「トレーニングのために、わざわざフィットネスジムへ通うハードルは高い」という仮説に着目。ジムにはないトレーニングスタイルを目指すようになる。

ヒントを得たのが、近年注目を集める「反転授業」だ。授業の動画を視聴し、自宅で予習を行い、授業中は議論などに時間を費やす教育手法のことを指す。これをトレーニングジムに置き換えてみたという。つまり、通常トレーニングをする店舗でユーザーの運動機能分析やアドバイスを行い、自宅でトレーニングを行うモデルだ。

「自宅でトレーニングができる器具やプログラムについて、さまざまなプロトタイプを試しながらブラッシュアップしました。最終的にプログラムを搭載した専用アプリを開発し、完成したのが『walkey』です」

安全性と精緻な分析力で、持続できるトレーニング習慣を提供

「walkey」の特徴は、大きく二つある。一つ目は、開発力を生かして設計した器具だ。インテリアに馴染む白が基調のトレーニング器具は、シンプルなデザインながら高度な機能を備えている。

例えば、医療機器の開発で培った頑強なワイヤー技術を、身体に荷重をかけるケーブル部分に応用。また、すでに製品化している腰の伸展を支えるアシストスーツの技術「人間の自然な動作と調和する負荷制御」も反映されている。

二つ目は、歩行機能分析やプログラム設計の精緻性である。ユーザーはプログラムの開始前に、店舗にて既往歴、運動経験、生活習慣などをヒアリングされる。また全身の関節と筋肉について約70カ所の状態を確認する「歩行力チェック」も実施。これらのデータに基づき、約120種類から選定されたトレーニングメニューを、自宅で行う仕組みだ。

自宅でのトレーニング開始後も、ユーザーは約2週間ごとに店舗に通うように設計されている。プロのトレーナーが成果や課題、目標のモニタリングを継続的に行い、長期的な歩行力の維持・向上へと繋げるというわけだ。

「現在は東京・自由が丘に第一店舗をオープンし、1年間事業を続けた段階です。今後は高齢者施設やリハビリ施設での活用、ビジネスプランとしての企業での導入を進め、ユーザー層の拡大を図ります」

事業化から間もない頃は、課題も多かった。当初は店舗拡大によるスケールを想定していたが、適切な収容人数の予測など、実店舗を抱える上での困難に直面。施設や企業といったB2Bへと販路を拡大したのは、こうした経緯もあった。

ピボットを重ねながらユーザーと向き合い、日本の健康課題を解決しようとする同社は、どのように事業を成長させるのだろうか。今後の躍進に注目したい。

現役の研究者である鹿子氏にとって、生活者向けビジネスの構築は全く新しい挑戦。社内の多彩な人材を集め、意見を収集することにも注力したという

審査員との質疑応答

Q:効果にたどり着くプロセスについて、顧客のニーズを示すことはできますか。

A:テストユーザーさんからは、最新装置により歩行運動機能の分析結果を提示できることに、ポジティブな反響をいただいています。

Q:パーソナルトレーナーのジムの場合、日時を約束して強制力が働くことが、継続のポイントになると思います。強制力のない自宅で継続を促すために、工夫していることはありますか。

A:2週間に一度店舗に通うことで、自分の努力がジャッジされ、目標意識が生まれる点がポイントだと考えています。

text by Yuta Aizawa / photographs by kota Nunokawa / edit by Yoko Sueyoshi

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