
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
グローバルコネクト本社。有田は、グローバルコネクトとの提携交渉を着実に進めていた。増井と有田は知らない川島と黒崎の間の密約の件もあり、黒崎は当初から好意的であり、とんとん拍子に進んだ段取りは、はやくも本格的な提携プレゼンテーションへと進んでいた。
プレゼンに向けて、有田は、本条のサポートを受けながら綿密な事業計画書の作成を進めてきた。グローバルコネクトとの提携によって、メロディーアシストがどのように進化し社会に貢献できるのかを熱意を込めて説明した。
「わたしたちのメロディーアシストの技術を転用することで、世界の遠隔操作ロボット市場を大きく拡張する可能性が見込まれます!」
黒崎は、有田のプレゼンテーションを聞き終えると、満足そうに頷いた。

「改めて技術仕様を理解させてもらって、感銘を受けました。みなさんの技術は、実に興味深い。特に、この指先センサーとAI制御システムは、我々の次世代通信技術と組み合わせることで、大きなシナジー効果を生み出す可能性を秘めていると感じました。私たちは、医療分野、産業分野、そして、エンターテイメント分野など、様々な分野において、次世代通信技術を基盤とした遠隔操作ロボット技術の導入サポートを進めています。みなさんの技術は、これらの分野において、大きなブレークスルーをもたらす可能性を秘めています!」
黒崎は、興奮気味にそう語った。
増井は、黒崎の言葉に大きな希望を感じていた。グローバルコネクトとの提携が実現すれば、プロジェクトは大きく飛躍するだろう。そしてそれは、西園寺先生の夢を実現するだけでなく、世界中の人々の生活を豊かにする大きな可能性を秘めていた。
「黒崎様、ありがとうございます。私たちは、グローバルコネクト様との提携を心から望んでいます。」
有田は、深々と頭を下げた。
「ええ。私も、みなさんとの協業を楽しみにしています。共に、世界を変えましょう!」
黒崎は力強い握手を交わし、そう言った。グローバルコネクトとの提携交渉は、本格的な実現に向けて大きな一歩を踏み出そうとしていた。
一方、川島は、自らのオフィスで一人、不敵な笑みを浮かべていた。
(増井、ありがとうよ。お前は、俺の思惑通りに動いてくれた。)
彼は、増井たちのプロジェクトがグローバルコネクトとの提携によって大きく前進することを知っていた。そして彼はその裏で巧妙な罠を仕掛けていた。
川島は、自らの大きな提携案件の中で発生する大量かつ複雑な契約書面の作成の中に、メロディーアシストにおける提携プロジェクトの内容をカバーする一文を巧妙に紛れ込ませていた。「富士山電機工業は、新規事業開発を目的とした本特許の無償提供を…」という文面作成。そして、巧妙にその特許提供の責任部署を新規事業部門にすり替えた契約を紛れ込ませていた。川島は、自らが黒崎と交わした、特許技術の無償提供に関する密約を、増井たちのプロジェクトに、巧妙に押し付けようとしていたのだ。
(増井、お前が、グローバルコネクトとの提携を成功させたことで、あの特許技術は具体的な新規事業の正当な対価として提供されたことになる。あとは、誰が本件を言い出した主犯かだが、巧妙な社内政治で乗り切ってみせる。そうすれば、俺は責任を問われることはない。)
川島は、悪辣な計画を思い描きながらほくそ笑んだ。
その頃、増井たちはグローバルコネクトとの提携による事業計画の見直しを進めていた。
「グローバルコネクトとの提携によって、私たちのプロジェクトは大きく変わります。ピアノ演奏補助装置だけでなく、遠隔操作ロボットの制御システムとしても開発を進める必要があります。」
本条はそう言うと、ホワイトボードに新たな事業計画を書き出していった。

「市場規模も、桁違いに大きくなります。金融機関も、グローバルコネクトとの提携を、非常に高く評価していました。リースや割賦販売のスキームも、問題なく組めるそうです。これで顧客に設定する支払い金額の調整も容易になって、多くの人に届けることができるようになります。」
有田も興奮気味にそう言った。
「これで、私たちの夢が、実現に近づく…!」