
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
最終審査当日。会場は、富士山電機工業本社ビルに隣接する、最新鋭の設備を備えたカンファレンスホールだ。巨大なスクリーンには、「富士山電機工業 新規事業コンテスト 最終審査」の文字が映し出され、高揚感と緊張感が入り混じった空気が会場を支配していた。
一次審査、二次審査を勝ち抜いた3チーム、荒川率いる「ギアーズ」、有田と増井の「メロディーライフ」、そして、新たに編成された社内横断チーム「フューチャーラボ」が、最終審査の舞台に立っていた。
「フューチャーラボ」は、二次審査で落選した飯島率いる「ネットワーカーズ」のメンバーを中心に、他の落選チームからも有志を集め、新たに結成されたチームだ。リーダーは、元経営企画部の若手エース、加藤 誠。彼は、冷静な判断力と高いコミュニケーション能力で、短期間でチームをまとめ上げ、新たなビジネスプランを練り上げてきた。
彼らの提案は、「AIを活用した次世代型物流システム」。グローバル化とEC市場の拡大に伴い、物流業界は人手不足とコスト増加が深刻化している。フューチャーラボは、この問題を解決するため、AIによる需要予測、自動倉庫、ドローン配送などを組み合わせた、効率的で革新的な物流システムを提案しようとしていた。
審査員席には、社長を筆頭に、各部門のトップ、そして社外からも著名なベンチャーキャピタリストや大学教授が招かれていた。石井事務局長は、審査員席の端に位置し、静かに審査の行方を見守っていた。
「それでは、最終審査を開始します。」
司会者の言葉が響き渡り、スポットライトがトップバッターである「ギアーズ」の荒川に当てられた。彼は、スマートウォッチ「ヘルスギア」を手に、自信に満ちた表情でプレゼンを開始した。
「ヘルスギアは、単なる健康管理デバイスではありません。それは、ユーザーの生活を豊かにする、新たなライフスタイルプラットフォームとなるでしょう!」

荒川のプレゼンは、磨き上げられた技術力と、未来へのビジョンを力強く示すもので、会場からは感嘆の声が上がった。しかし、質疑応答に入ると、審査員たちから、厳しい質問が浴びせられた。
「荒川さん、ヘルスギアの販売価格はかなり高額ですね。本当に一般の消費者に受け入れられるのでしょうか?」
「競合他社も同様の製品を開発しています。ヘルスギアの優位性はどこにあるのでしょうか?」
「データセキュリティについてはどのように考えているのでしょうか? 個人情報の漏洩リスクは?」
荒川は、審査員たちの質問に冷静に答えていく。しかし彼の表情には、焦りの色が浮かんでいた。二次審査で指摘されたデータの出所については、うまく説明をかわしたが、まだ完全に解決したわけではなかった。
続く「フューチャーラボ」の加藤は、堂々とした態度でプレゼンを行い、AI物流システムの優位性と将来性を力強く語った。彼らの提案は、現実的な課題解決と、社会へのインパクトを重視したもので、審査員たちからも高い評価を得た。
そしていよいよ、有田と増井の「メロディーライフ」の番がやってきた。