
──日本をアップデートするのは、企業の中から生まれる新規事業だ。 近年、伝統的な日本企業の中から事業が続々と生まれ、自社のアセットを最大限に活用し、一気に社会実装を進める。そんなダイナミックな変革が起きつつある。 新規事業と社内起業家(イントラプレナー)を表彰する「日本新規事業大賞」が、2026年に第3回を迎えた。本連載では、最終審査のピッチの模様を集中連載で届ける。 今回紹介するのは、株式会社フジ・ネクステラ・ラボの玉岩秀一氏のプレゼンだ。フジ・メディア・ホールディングスグループのIT企業が持つ「生放送のノウハウ」と「放送品質のIT」を融合させた、企業コミュニケーション支援システム「Live-QA」の誕生秘話を紹介する。なお、本事業は審査員特別賞を受賞した。
質疑応答は「企業にとって最もリスクの高いコミュニケーション」
経営者、IR・広報担当者であれば、誰もが一度は経験したことがあるはずだ。質問の意図が見えないまま、ただ待つ時間。
「質問の意図が見えるまでただただ待つ、そういった状況の経験はございませんか? 会見などで行われる質疑応答は、質問者の意図が見えるまで質問内容を聞いてから、何を言うべきか、言わないべきか考えて回答する。これが一般的でした。しかしながら、質問者の方が常に整理された分かりやすい質問をしてくれるとは限りません」
企業には重い説明責任が常に求められている。しかし、質疑応答の現場は今も「個人の力量」に依存したままだ。
「想定外の質問への対応は、回答者のアドリブとなってしまい、結果として沈黙や表現のブレが生じ、それが炎上のリスクにつながります。企業の会見において、質疑応答は非常にリスクの高いコミュニケーションと言えるでしょう」
だからこそ、対応を「個人からチームへ」転換することが求められている。その解決策として玉岩氏が提示したのが、リアルタイム質疑応答支援システム「Live-QA」だ。

「答えを生成するAI」ではなく、「判断を支えるAI」
Live-QAは、発話をリアルタイムで先読みし、回答の準備を前倒しするシステムだ。公式サイトによれば、「質問の流れを即時に解析し、論点の整理や回答候補を提示することで、説明の正確性と一貫性を保ちながら、回答準備を前倒しすることが可能」とある。
玉岩氏がピッチの中で特に強調したのは、AIの役割の定義だ。
「Live-QAは答えをつくるAIではなく、説明の質と一貫性を支えるAIです。そのため、最終的な判断と発言は利用する人に委ねられます」
公式サイトでも「最終的な判断と発言は登壇・回答者が行います。本システムはその判断を支援するものです」と明記されている。沈黙を埋めるのではなく、人が考えるための時間と材料を作り出す──それがLive-QAの本質だ。
具体的な効果として、次の4点を挙げている。質問の確定を待たず発話途中から論点を整理できることによる「沈黙の解消」、論点・注意点・言い回しの整理による「説明の安定」、バックヤードと登壇者がリアルタイムに連携する「チームでの回答構築」、そして会見後の説明・検証にも対応できる「履歴の保存」だ。

「絶対に失敗できない現場」を知っているから開発できた
なぜフジ・ネクステラ・ラボがこのシステムを開発できたのか。玉岩氏はその理由を次のように語る。
「私たちがメディアグループ企業の一員だからです。質疑応答の場というのは、リアルタイムの現場、例えば生放送と同じく絶対に失敗できない現場です。そして私たちには、その経験とノウハウが豊富にございます。加えて、放送品質の安心安全を基盤としたIT技術。これらを融合して『現場が本当に使える』質疑応答支援システムを実現いたしました」
フジ・ネクステラ・ラボは、フジ・メディア・ホールディングスグループのITシステム子会社だ。システム開発・ITインフラ・データ活用・AI/DX支援を技術領域の軸とする同社が、放送のノウハウをそのまま事業に転化した。
「このリスクを誰よりも知っているのは自分たちだ」という確信が、Live-QAの開発を前に進めた。
実際に会見現場での運用実績をもとに設計されており、理論と現場の双方を踏まえている点に、同社の強みが表れている。

ターゲットは「企業コミュニケーション」という巨大市場
Live-QAが狙う市場は広大だ。
「ターゲットは、企業が社会に対して求められる全ての対外説明の場、企業コミュニケーションという市場になります。この市場、非常に重要ですが、実はまだまだAI化が進んでおらず、かつ巨大です。日本には上場企業が約4,000社、大企業と呼ばれる存在は約1万2,000社存在しており、それらすべてが私たちの市場になります。さらに海外に目を向けてみれば、そこには巨大な海が広がっております」
2026年2月に販売を開始。すでに複数社へ導入が進んでおり、口コミによる引き合いも生まれている。
「AIではなく、人間の言葉で」──ピッチ自体がメッセージだった
玉岩氏はプレゼンの最後をこう締めくくった。
「最後に本日のこのピッチ、AIではなく、私自身、人間の言葉で皆様にお伝えできたこと、非常に嬉しく思います」
「答えをつくるのはAIではなく人間だ」というLive-QAの思想を、ピッチそのもので体現してみせた。緊張感の走る質疑応答の場を、チームで乗り越えるための新しいコミュニケーションインフラ。Live-QAは、企業の説明責任を支える存在として、静かに市場に広がり始めている。
審査員との質疑応答
Q:利用者の実際の反応をお教えください。
A:2月から販売を開始し、口コミレベルで広がり始めたところです。使用においては、インターネット回線、マイクがあれば動作し、スマートフォンでも動くため、利用のハードルは高くありません。とある導入企業様は、「衝撃を受けた」とおっしゃっていただき、サービス案内後にすぐに導入検討のお電話をいただきました。
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