自動車関連の製品や技術を開発・製造・販売するパナソニック オートモーティブシステムズ株式会社 (以下、PAS)は1月19日、ホストで実業家のROLAND(ローランド)氏を招いたインターン向けイベント「『Building the Best Team』 Produced by NewsPicks for Business “Ambitions”」を開催した。 ROLAND氏による基調講演、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社代表取締役 社長執行役員の永易正吏氏とROLAND氏との対談で、次世代に贈られた熱いメッセージをご紹介したい。そして、学生たちが両者へ問いかけた問いとその答えから見えてきた、「最高のチームづくり」とは。
ROLAND
ホスト・実業家
1992年に東京で生まれる。高校卒業後すぐに大学を中退し18歳でホストデビュー。8年の現役ホスト生活を経て26歳で独立し起業。ROLAND GROUP HDでは現在7社を保有、経営している。座右の銘は「世の中には2種類の男しかいない。俺か俺以外か」。
永易正吏
パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社 代表取締役 社長執行役員
1962年生まれ、愛媛県出身。1984年、松下電器産業に入社。国内外の営業部門で責任者を歴任。2021年、パナソニック株式会社 常務 兼 オートモーティブ社 社長に就任。2022年より現職。中・高はバスケ、大学ではアメフトに熱中。最近の日課は、毎朝10kmのウォーキング。座右の銘は「利他の心で考える」(京セラ株式会社 名誉会長 故・稲盛和夫氏の言葉)。
まず高めるべきは「個の力」
イベント会場となった「東京マリオットホテル」のボールルームには、PASで約2週間、実際に職場に入り込んで社員と一緒に働くインターンシップの学生たちが集まった。
イベントは、車好きとしても知られ、自身が経営するホストクラブ、脱毛サロンや飲食店などで約1,200名の従業員を率いる、ROLAND氏による基調講演から始まった。「個が輝ける『最高のチームづくり』」と題した講演でROLAND氏は、これから社会に出る学生たちへ、チームビルディングの重要性を説きながらも、チームワークを重視する前に、まずは自身の力を高めることに注力すべきだと語った。
「僕がホストとしてお店で働いていた時、周りのホストは全員ライバルで、彼らと馴れ合う必要は感じていませんでした。自分のスキルを高めることだけに集中していました」
そしてこう続けた。「やがて、チーム全体に影響を与えるくらいの力がついてきます。自分ひとりでは乗り越えることのできない壁にぶち当たる時が来るでしょう。そこで初めて、チームワークが力を発揮します。世界中からスター選手が集まるサッカークラブ、レアル・マドリードもそうです。最初から仲間とうまくやろうと思っている選手はいません。メッシやC・ロナウドだけでゲームに勝つことはできない。だから仲間と力を合わせる。PASという企業を通して世界を変えたいと思うのなら、まずは自分のスキルを高めるのみです」。仲間とどう力を合わせるか考える前に、まずは自身の力を高めることの大切さを説いた。
ROLAND氏はもうひとつ、「『NO』が言えないやつの『YES』は価値がない」と語った。一体どういうことなのか。例に挙げたのは、髪型を変えたお客さんに感想を求められたシーン。いつも決まり文句のような褒め言葉を返すようなホストより、例えその場の空気が悪くなったとしても、似合っていない時には正直に伝え、本当に似合っている時にだけ「可愛い」と伝えるホストの方が信頼されるのだと語った。
「自分の仕事でのこだわりを貫くためには、違う意見をもつ上司や仲間にもNOと言う勇気をもってください。YESとしか言わない仲間といる時の居心地はいいものの、そこで自分の成長は止まってしまいます。僕も本当は、ずっと褒めてもらいたい。だけど自分の成長のために、口うるさいスタッフにいつも近くにいてもらっているんです」
次の時代を創る「成長する組織」の条件とは
その後、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社 代表取締役社長執行役員の永易正吏氏も登壇。ROLAND氏の、まずは個の力を高めるべきだという考え方に、「全く同感」と述べ、自身の経験を踏まえながらこう語った。
「私も入社したての頃は、同期でも一番早く出世したいという思いがありました。だからROLANDさんと同じように、自分の能力を高めることだけに集中していました」
その後、27歳でシンガポールへ赴任し、4人の部下をもつ課長に就任後、考え方に変化があったという。
「たった1ヶ月で、部下全員が辞めてしまったのです。なぜならその時、私は自分の仕事をするために部下を使っていたからです。そんな時、『お前には愛がない』と叱ってくれた当時の上司は、今も尊敬する先輩のひとりです」
先輩の教えもあり、現在PASではビジョンとして「愛をもって人に寄り添い、卓越した技術と知恵で新たなユーザー価値を創造し、より快適で安心安全な移動空間の実現により、人に幸せをもたらし続ける最高のチーム、最高のパートナーになる」を掲げるようになった。
「私自身のチームは会社という形になり、当時よりも大きくなりましたが、愛をもって社員たちと関わりたいという気持ちに変わりはありません。私は社長の役割を果たしているだけで、社内の各チームでみんなが役割を果たしてくれて、そのチームワークにより会社が成り立っています」
また、永易氏は、ROLAND氏の「『NO』が言えないやつの『YES』は価値がない」に通じる自身の考え方として、「バッドニュース・ファースト」を挙げた。
「会社では、バッドニュースファーストが浸透していて、悪いニュースを報告してくれた人には必ず感謝を伝えるようにしています。会議では反対意見を言う役(デビル役)を設けるようにしていますが、理想はそれがなくてもNOという反対意見も活発にでてくるようになることです。PASでは、『出る杭』はありがたい存在なのです」
「出る杭は打たれる」カルチャーが長年日本の組織を硬直化させてきたと言われる中、PAS社の出る杭を尊重する姿勢は学生たちの心に響いたようだ。
変革がすすむ時代の、強い組織と強い社会人の条件
パネルディスカッションの最初のテーマは、「変革がすすむ時代になぜ組織力・チーム力が必要なのか」。ROLAND氏は「チームは結果的にできるものであり、チームが主語にくるような企業は生き残ることが厳しいのでは」と永易氏に投げかけた。
永易氏はこう述べた。「特に自動車業界では、画一的な人を集めたチームでは生き残ることが難しくなるでしょう。1908年にフォードT型(米国フォード社が量産し、大衆に人気を博した自動車)が発表されて100年間、動力源としてのエンジンに大きな変化はありませんでした。そこに今、電気自動車の波が広がっています。大きな変化が起きている中で、同じような考えをもつ人が集まっても、いいアイデアも出なければ、企業価値も上がらないと思っています。多様な個が集まって意見を言い合ってこそ、この時代の先頭を行くようなチームができるはずです」。
「最高の組織やチームを作るために、若い世代にはどう取り組んでほしいか」というテーマでは、「失敗を恐れずに貪欲に学んでほしい」と口を揃えた。永易氏は、社会人人生を振り返ると、成功したことではなく失敗した時のことを思い出すのだという。「人は失敗からしか学ぶことができないと思っています。だから、私のチームでは時々、それぞれ失敗談を語りあい、自分だったら何をするか考えてもらう機会を設けています」
ROLAND氏は、失敗から学んだ教訓として、「お客様の言葉を鵜呑みにしないこと」を挙げた。
お客様の言う『大丈夫』は信用しないでください。大丈夫は8割ほど納得している時に使う言葉。そう言われた時の声のトーンや表情、シチュエーション、全てから、もっといい提案を望んでいるのではないかと読み取れるのが、いい営業だと思うんです」
営業職出身の永易氏もこう語った。「私は『お客様ファースト』とは絶対言わないんです。お客様にも言いにくいことも言わないといけない場面もあるからこそ、『お客様フォーカス』と言うようにしています。お客様との関係が深くなるタイミングは、何かまずいことが起きた時。そこでどう振る舞うかによって、その後の関係性が大きく変わる。逃げずにしっかり向き合うことができれば、絶対的な信頼を得ることができます。お客様から得てきた信頼も、PASの強みのひとつです」
質疑応答では、複数の学生から手が挙がった。
「どうすれば個の力を伸ばすことができるか。長所を伸ばすべきか、短所を克服していくべきか」という質問に対して、永易氏は「長所を伸ばすに尽きる」と答えた。
「みんなそれぞれ強みと弱みがある。全員が個の強みを尊重し合うことで、チーム力が高まります。短所はなくすのではなく、受け入れる。そうしないと個が薄れていくと思うんです。リーダーも短所や弱みを晒し、助けを求められるような環境が強いチームを作ります」
ROLAND氏は、長所を伸ばすことはもちろん、自分の長所は短所を補えるほどのものなのかを見極める必要もあると答えた。
「僕の短所はマネジメントや事務作業が苦手で、長所はスポットライトが当たる存在でいられること。今こうしてメディアに出ているのは、これが短所を補えるほどの強みだと判断したからです。冷静に、自分の能力を客観視することが必要だと思います」
学生たちからは他にも様々な問いかけがあり、活発な議論が行われた。
これから社会に出るインターン生。個々でどれだけ強い力を身につけ、その力を武器に強いチームを作っていくことができるか。その答えが、PASの、そして日本の未来にとっての推進力になっていくはずだ。
Ambitions Vol.4
「ビジネス「以外」の話をしよう。」
生成AIの著しい進化を目の当たりにした2023年を経て、2024年。ビジネスの新境地を切り拓くヒントと原動力は、実はビジネス「以外」にあるのではないでしょうか──。すべてのビジネスパーソンに捧げる、「越境」のススメ。
text by Mika Moriya / photographs by Takuya Sogawa / edit by Aki Hayashi