新規事業創出が企業成長の鍵として注目を集めるなか、その手法である「オープンイノベーション」に挑む企業も増えています。しかし、形式的なコラボレーションやマッチングに終わってしまい、事業化にまで至るケースが少ないのも実情です。真の革新をもたらすオープンイノベーションとはいかにあるべきなのでしょうか。 AlphaDriveグループで、オープンイノベーションや協業支援に特化したUNIDGEでCo-CEOを務める土井雄介氏が、その評価と推進の秘訣を解説。 AlphaDriveが培った実践知をオープンイノベーションにも適用し、さらなる「型化」や仕組みで挑むUNIDGE。「協業を科学する」というアプローチをもとに複数企業が手を取り合うための要諦を聞きました。
土井雄介
株式会社UNIDGE Co-CEO
2015年東京工業大学大学院卒業後、トヨタ自動車へ入社。改善支援業務を経験した後、2018年から役員付きの特命担当に就任。2020年1月からAlphaDriveへ出向し、多数の新規事業の制度設計/伴走支援を実施。その後、AlphaDriveの子会社、UNIDGEをCOOとして共同創業し、協業支援事業を推進。2023年8月からCo-CEO。
企業の成長戦略で重要性を増すオープンイノベーション
UNIDGEは、オープンイノベーションを「目的のために組織や立場を超えて価値を発揮していくための戦略」と定義しています。具体的には、自社が今まで交わったことのない要素と接点を作り、協業という手段をもって価値を発揮し、事業を開発することを指します。
過去を振り返ると、日本では企業内の新規事業立ち上げとオープンイノベーションが交互に流行してきました。最近の5年間では、企業内で事業を作る動きが活発化し、新規事業支援会社も台頭。その後は岸田内閣時に推進された「スタートアップ育成5か年計画」の後押しもあり、「オープンイノベーションの推進」が国策としての重要施策に位置づけられています。
現在は、スタートアップの隆盛を背景に、再びオープンイノベーションの流れがやって来ているというのが僕の見立てです。
ここからは「日本流のオープンイノベーション」こそが僕は必要だと考えています。日本には「100年企業」をはじめとする歴史ある企業が多数存在することを強みと捉え、これらの企業とスタートアップ、あるいは老舗企業同士が手を取り合うことが、日本独自の成長戦略になると信じています。
自社内の新規事業開発とは異なるオープンイノベーションの難しさ
近年、大企業によるオープンイノベーションプログラムが増加しており、UNIDGEはその設計や運営の伴走支援も行っています。こういったプログラムでは「評価者」は予算を投じる大企業となり、被評価者は大企業と協業先をワンチームで見た形になります。この点だけにおいても、自社内の新規事業開発とは異なるといえます。
例えば、UNIDGEがプログラムの審査基準の設計に携わる場合、「着想、育成、協業、成長、その後」といった段階的な審査項目を設定し、複数回の審査会で事業案を絞り込むことを大切にしています。
ただ、審査項目には特有の観点もあり、特に「アセット活用」と「他社連携」は踏まえておきたいところです。自社だけでは足りない部分を補完し合うオープンイノベーションでは、自社のアセットを活用する戦略が描かれていることは必須です。また、起案内容や担当者のビジョンとの親和性、自身の起案内容で不足している他社アセットの明確さといった他社連携の観点がなくては、オープンイノベーションは成立しません。
いずれにおいても、コアになるのは「Win-Win」の関係性の構築に尽きるでしょう。
曖昧なコラボレーションは、もう終わりにしよう! 評価者と起案者/推進者が意識したい「オープンイノベーション評価」のポイント
オープンイノベーションで大切なのは、プロジェクト全体として生み出される価値と可能性を評価する視点です。このパートでは、評価者と起案者/推進者が意識すべき重要なポイントをご紹介します。
Manager 評価者
オープンイノベーションの評価者に求められるものは、個々の企業やスタートアップへの評価ではなく、プロジェクト全体としての事業を評価することです。基本的な評価基準は通常の事業評価と同様ですが、複数の企業が関わるオープンイノベーション特有の観点も考慮すべきでしょう。例えば、チームという観点では、協業している両社が同じような行動量や熱量で動けているか。ソリューションの面では、両者の協力があって初めて実現可能なものになっているか。特に重要なのが、アセット活用に対する評価です。ここでは主に2つの観点から判断します。
ポイント① 実現可能性
自社を含めた各企業のアセットには技術、販路、データ、人材など様々なものがありますが、それらが「本当にオープンイノベーションで使える状態」にあるかを見極めましょう。技術ならば基礎研究レベルなのか、実用化レベルなのか。データならば具体的にどのデータを使用するのか、そのデータへのアクセス権限や使用の承認に関する意思決定プロセスが明確になっているか。アセットの成熟度と、それを活用するための具体的なスキームが整っているかを評価する観点が重要です。
ポイント② 独自性
各企業のアセットに独自性があるか、魅力的なのか否かを見極めましょう。「AIに詳しい人材がいる」だけでは独自性が低いかもしれません。「音声認識AI分野で日本トップ3に入る研究者がいる」というレベルならば独自性が高いといえるでしょう。
評価者は、各企業が持つアセットの質と、それらを組み合わせることで生まれる相乗効果を見極める必要があります。同時に、そのプロジェクトが市場にもたらす価値や、競合他社との差別化要因も考慮に入れます。
Innovator 起案者/推進者
オープンイノベーションの成功には、協業相手とワンチームになり、Win-Winの関係を築くことが不可欠です。例えば、大企業側は自社課題の解決や生産性向上、スタートアップ側は新しい事例獲得や事業拡大の機会など、互いにインセンティブがある状態でなくてはなりません。しかし、この点は見落とされがちで、多くの課題が生じています。前提としては「協業相手は評価対象ではなく、協業によって生まれる事業そのものを評価すること」が大切です。大企業側の目線であれば、自社から見た他社を評価するのではなく、単に優れたスタートアップを探すのでもなく、両者が協力することで生まれる価値に焦点を当てる必要があります。ワンチームとしての活動を評価する際は、次の観点を意識しましょう。
ポイント①活動のバランスを適切に保つ
まずは「活動のバランス」で、大企業側だけが動いていたり、スタートアップ側だけが奔走していたりする場合、それでは真の協業とはいえません。仮に事業が進んでいるように見えても、片側からの搾取構造に陥ってしまっているかもしれません。
ポイント② 相互に足りない部分を補えているか
自社だけでも実現可能な事業にならないこと。協業の意義は互いの強みを生かし、単独では成し得ないことの実現にあります。受発注関係ではなく、対等なパートナーシップを築き、チームとしての最適な役割分担を考えましょう。一例ですが、大企業側はスタートアップの時間的制約を、スタートアップ側は大企業の意思決定プロセスの複雑さを、それぞれの特性として尊重することが求められます。まずは、大企業側はスタートアップの特性や文化を、スタートアップ側は大企業の構造や意思決定プロセスを、相互に理解し合うことから始めましょう。実際にUNIDGEが支援させていただく場合は、相互理解を促すための取り組みを実施することも多いですね。
UNIDGE(ユニッジ)とは
AlphaDriveグループであるUNIDGEは「協業を科学し、成功確率を上げる」を掲げ、主に大企業とスタートアップの協業による新規事業開発やオープンイノベーション支援に伴走。支援したオープンイノベーションプログラムは、事業化を実現したコーセーや、継続支援中のリコーなどの実績を持つ。Co-CEOの土井雄介がトヨタ自動車からの出向者であることをはじめ、多様な「越境」人材がメンバーにそろうのも特徴。
text by Kento Hasegawa / edit by Yoko Sueyoshi
Ambitions Vol.5
「ニッポンの新規事業」
ビジネスマガジンAmbitions vol.5は、一冊まるごと「新規事業」特集です。 イノベーターというと、起業家ばかり取り上げられてきました。 しかしこの10年ほどの間に、日本企業の中でもじわじわと、イノベーターが活躍する土壌ができてきていたのです。 巻頭では山口周氏をはじめ、ビジネスリーダー15組が登場。それぞれの経験や立場から、新規事業創出の要諦を語ります。 今回の主役は、企業内で新規事業を担う社内起業家(イントラプレナー)50人。企業内の知られざる新規事業や、その哲学を大特集します。 さらに「なぜ社内起業家は嫌われるのか?」など、新規事業をめぐる3つのトークを展開。 第二特集では、新規事業にまつわる5つの「問い」を紐解きます。 「企業内の新規事業からは、小粒なビジネスしか生まれないのか?」「日本企業からイノベーターが育たない。 人材・組織の課題は何か?」など、新規事業に関わる疑問を徹底解説します。 イノベーター必携の一冊。そろそろ新しいこと、してみませんか?