丸井グループの企業文化をつくる、社員の“手挙げ”

Ambitions編集部

2023年、日本のビジネスシーンは人的資本経営「実装」フェーズに突入した。人的資本経営とは、つまるところ何なのか。すべてのビジネスパーソンが自身のイシューとしてこの問題と向き合うため、人的資本経営の課題と本質を探っていくのが特集「人的資本経営の罠」だ。日本における人的資本経営の先進企業の1社、株式会社丸井グループで専務執行役員 CHROを務める石井友夫氏に、同社の取り組みについて聞いた。

石井友夫

株式会社丸井グループ 専務執行役員 CHRO

1983年株式会社丸井入社。2007年株式会社丸井グループ執行役員グループコンプライアンス部長に就任。取締役執行役員総務部長などを経て、2013年取締役執行役員人事部長。2018年に取締役専務執行役員CHO(最高人事責任者)に就任。2021年5月より専務執行役員CHRO。現在、専務執行役員CHRO、総務・人事・監査・ウェルビーイング推進担当。

株式会社丸井グループ

  • 小売事業、フィンテック事業など
  • 従業員数 4435人(連結、2023年3月末時点)
  • 売上高 2178億5400万円(連結、2023年3月期)

危機感から生まれた、企業文化の変革

丸井グループでは「企業文化の変革」を人的資本経営の取り組みの出発点と位置付けている。リーマンショックや、貸金業法の改正といった外的要因により経験した経営危機を通じて強い“危機感”を抱いてきたことが背景にある。

「イノベーションを起こし続けていくには、企業風土や文化そのものを変えなければいけない」と、石井氏は語る。

人的資本経営を支える手挙げの文化

丸井グループが掲げるのは「人の成長=企業の成長」というフィロソフィーと、それを下支えする「手挙げの文化」。以前から手挙げのシステムはあったものの、大きく加速させたのは、2013年の中期経営計画推進会議だった。グループの部長や店長、執行役員が出席して行われる会議だったが、会議の参加者に寝ている人がいたことをきっかけに、参加希望者による手挙げ応募制に変えた。

「意欲の高い人たちが集まるので、会議が活性化したのが第一の効果。そして、今までなんとなく参加していた人たちも、『もっと能動的にならなくては』と発奮して、様々な意見が集まるようになったのです。今では、自分で名乗り出ないと仕事ができないくらい、大きくシフトできました」

さらに、プロジェクトや自己啓発への参加希望などでも手挙げ応募制を導入した。手挙げの制度は、社員の意思を尊重する制度。自己申告による人事異動を通じて自律的に様々な部門で業務経験を積むことによって、ナレッジやスキルの幅を広げることを狙いとしている。

社員自らの「挙手」を重要視し、社としてサポートする。これにより、自律的な社員の育成や組織の活性化に寄与しているという。結果、2023年3月期に自ら手を挙げて何らかの取り組みに参画した社員の割合は85%に達した。

企業価値向上のため、評価制度にも中長期的な視点を導入

「人の成長=企業の成長」を具現化し、イノベーションを下支えするために、評価制度も個人の長期的な成長を重視する形に大幅に変えた。自由に手を挙げて職種変更異動をはじめ、さまざまな取り組みにチャレンジしてもらうためには、目先の成果を過度に気にする必要がない制度が必要という考えに基づく。

社員が中長期的な視点に立って手を挙げ、自分の能力を磨きやすくするための制度として、約2年という時間をかけて社員の納得感を高めるための対話を繰り返し、設計・導入した。

人的資本経営は「企業の成長エンジン」

今では、多くの企業で重要視されているデジタル人材の育成についても、密度の濃いデジタル研修に、定員の何倍も応募者が集まっているという。「自ら『やりたい』と手を挙げる人を増やすことが、人材育成の一番の近道です」と石井氏は話す。

丸井グループにとって人的資本経営とは何なのだろうか。石井氏は「企業の成長エンジンであり源泉」と説明し、今後の展望をこう語った。

「会社が進化していくことで、新たな時代に適応する人材を確保できる。この循環をきちんとつくっていくことを大事にしていきたいですね」

POINT

  • 社員の「手挙げ」を重視
  • 制度を変えて、文化を変える

(2023年9月29日発売の『Ambitions Vol.03』より転載)

text by Mai Terai / edit by Masaki Nishimura / photograph by Yota Akamatsu

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