今、「6%問題」について考える。日本のビジネスパーソンに着火するには?セッションレポート

大久保敬太

2024年11月13日、東京・白金台にある八芳園にて開催された「Ambitions Vol.5 刊行記念パーティー」。本誌のテーマカラーの「赤」にライトアップが施された日本庭園を望む会場に、100人を超えるイノベーターが集まり、新刊を片手に交流を楽しんだ。 本記事では、イベント内で行われたスペシャルセッション「今、6%問題を考える」で語られた識者3名のコメントを届ける。

山本将裕

株式会社RePlayce 代表取締役

大室正志

大室産業医事務所 代表

小西好美

東日本旅客鉄道 マーケティング本部 くらしづくり・地方創生部門新規事業ユニット 副長

藤田健司

三井住友海上火災保険 ビジネスデザイン部部長 三井住友海上キャピタル 投資開発パートナー

(モデレーター)林 亜季

Ambitions 編集長


6%問題とは

米ギャラップ社が発表した2024年のリポートによると、日本のビジネスパーソンのうち「仕事への熱意」がある社員の割合はわずか6%で、145カ国中最下位。


テーマ①「6%」のデータをどう見るか

山本氏の視点

まず、94%はやる気がないにもかかわらず、日本の経済は成り立っている。これは逆にすごいことです。経営者としての視点になりますが、94%の人がそれでもしっかり働いてくれているのが現状であるならば、それはそれでいいのかなと。6%の人たちは自らの意思をもって仕事に取り組みやすい、ということも言えると思いますね。

そのため、無理にこの現状を変えよう、という発想にはなりませんでした。

小西氏の視点

私自身、社内で新規事業に取り組む前は、94%側だったと思います。

しかし今、会社の制度をつかって事業に取り組んでいて、自分がやりたいことに取り組めている。そのことにすごくハマっています。新規事業によって、94%から6%に移ることができる。環境の影響はとても大きいと考えます。

藤田氏の視点

6%という数字は、個人の問題という話ではないと思っています。日本企業の組織的な感覚や、社会的な行動原理があり、そうしたものが足を引っ張っていることの表れだと考えています。

大室氏の視点

日本企業の組織では、自ら行動を示す人は足を引っ張られがちです。それは、日本は嫉妬し、嫉妬される文化だからだと感じます。

つまり「仕事への熱意がない」というデータは、周囲を恐れているということが表れたものだと思います。でも、たとえば日本経済新聞の連載『私の履歴書』などを見てくださいよ。多くの社長の回顧録では、大学時代はひどく遊んでいて、たまたま受かった会社でたまたま運良く海外留学や出世ができて、たまたま社長に就任することになった。必ず「青天の霹靂だった」と言うんですよ。

社長にまで上りつめる人は「たまたま」ではなく、しっかりキャリアを築いてきているはずなのに「たまたま」「青天の霹靂」と言うのは、嫉妬に対する恐れが大きいのです。

ですから、熱意ある人の割合が6%というデータ自体、実際本当にそうなのかな? という見方をしています。大っぴらに「熱意があります!」と振る舞うのではなく、秘めたる熱意や野心を持っている方が少なくないのではないかと思います。

テーマ②日本のビジネスパーソンが仕事に熱意を持てない理由と、その改善策

大室氏の視点

例えば、パリと日本の若者に、とある著名な映画の演出家や監督は誰かと聞くと、日本人の方が答えられると思います。しかし、「あなたはなぜこの映画が好きなのか」というと、パリの若者の方が自分の意見を言える。

日本の若者は、なぜ自分が何かをやりたいのか、何が好きなのか、そういった意見を発言する教育を受けていないんですね。しかし近年、ベンチャー企業の経営者をはじめ自ら手をあげて声を発する人が増えてきたように思いますし、この傾向はより進むと思います。

山本氏の視点

私も長く、既存事業の決まった商品を販売する業務についていましたし、熱意はそれほどなくとも、不満もありませんでした。

それは、会社という狭い世界の「外」があるということを、知らなくてもいいということなんですよね。

自分のいる場所が、狭い場所にある。外に大きな社会がある。それを認識するかしないかが、大きな違いです。私自身、新規事業という一歩を踏み出した瞬間があり、考えが大きく変わりましたから。越境する、という経験は、非常に重要なんだろうな、と思います。

また、自社の事業にも関連するのですが「教育」というのは、非常に大きい。

日本の人は今、勉強しません。そして日本の教育はこれまで「丸暗記」の世界でした。私はNTTドコモで教育の新規事業を立ち上げ、カーブアウトして、VCから資金調達してスタートアップとして事業を展開しています。だからこそ、暗記とは異なる、自らのキャリアを考えるための教育の重要性を訴えたいです。

藤田氏の視点

外の世界を知るということは、非常に大切なキーワードです。企業活動においても、一度外に出て、外の考えや企画を社内で検討する。多くの企業のミッションになっているDXのような変革の活動などにみられることです。

しかし、社員に対してそういう時間をつくっている企業は、残念ながら少ないように思えます。一方、資金も人員も潤沢な大企業こそが、従業員の外へ出るチャレンジを受け入れ、育てる時間を持つことができる存在だとも考えます。

大室氏の視点

では、企業はどうすればいいか。

日本では「みんながやっているから」という空気が時に強く働きます。少数ではなかなか動きにくいもの。しかしこの「みんな」とはどの程度の割合なのでしょう? 僕の体感だと、実は15%ほどの人が同じ行動をとると「みんな」に見えてくるものです。

先ほど、「熱意がある人は6%」という話がありましたが、あと9%伸ばせば、空気は変わると考えます。

今はまだ、企業内で自ら新たなことをやろうとする人は孤独を感じることが多いとは思いますが、会社としてあと9%、そういう人材が挑戦できる環境をつくると、「みんなが熱意がある」と言える状況になってきます。数値目標があると、日本企業は強いものです。熱意がある社員15%を目標にしてみませんか。

小西氏の視点

大企業内の新規事業という視点では、リスクをとれることがポイントだと思います。私自身、新規事業に取り組む中で、会社としてリスクをとり、少しずつチャレンジできる環境をつくることで、少しずつ自信が生まれてきた。そういう経験があります。

社内への発信や、制度など、いろいろな形があると思いますが、このような取り組みがもっと広がるといいと思います。

テーマ③個々のビジネスパーソンが自らを奮い立たせ、熱意を持ち仕事に向かうためには

山本氏の視点

よく、ビジネスパーソンの意思を表す言葉として「will」が使われますよね。しかし僕は「can」も結構大事なんじゃないかと思うんですよ。

できることが増えてくると、こんなこともやったり、あんなことも挑戦したりと、行動が重なってくるものです。自分が、まだまだやれることはある。そう思いながらcanの体験を増やしていくことが、挑戦のためには必要だと思います。

小西氏の視点

日本の社会課題のひとつに、総合職のワーキングマザーの多くが、出産後のキャリアを諦めてしまうという問題があります。

制度があっても、優秀な方であっても、育児と仕事を両立できるのか、ついていけるのか、自信がなくなる瞬間があるものです。

チャレンジしている人の「背中を押す」ということを、周囲がもっと行えればいいと感じます。私自身、自分で事業を行うにあたり、背中を押してもらう瞬間がいくつもありました。

チャレンジの機会を与え、後押しすること。特に女性で苦しんでいる人はたくさんいます。そういう方の背中を支えたいです。

大室氏の視点

何をするにも「主語」を意識することが大事だと思います。自分が何かに取り組むことにより自分のキャリアがどうなるのか、それとも会社のための行動なのか、自分がこの場所にいることで、なにが生まれるのか。

自分ではなく会社主語で、会社のためだと思うからつらくなることもあるかもしれません。今、取り組んでいる行動の「主語」を意識することで、気持ちよく頑張ることができる。そのためにも、主語は大切だなと思いますね。

藤田氏の視点

以前、Ambitionsのイントラプレナーに関するセッションに出演したのですが、その時のテーマは「なぜ新規事業家は嫌われるのか」でした(笑)。

で、そういうお話も実際たくさん耳にするのですが、その時に僕がよく話すのは「(嫌われても新規事業を)やった未来」と「(嫌われることを気にして、新たなことを)やらなかった未来」を考えるということ。

そこを意識することが、自身の想いを支えてくれるものになると思います。


Ambitions Vol.5刊行記念パーティーは、セッション後も多くのイノベーターが集い、意見を交換し、熱気あるネットワーキングの場となったた。

Ambitionsは、日本経済を復活に導く企業内のイノベーター(イントラプレナー)に光を当てるメディア活動を、これからも行っていく。

Ambitions Vol.5

ニッポンの新規事業

ビジネスマガジンAmbitions vol.5は、一冊まるごと「新規事業」特集です。 イノベーターというと、起業家ばかり取り上げられてきました。 しかしこの10年ほどの間に、日本企業の中でもじわじわと、イノベーターが活躍する土壌ができてきていたのです。 巻頭では山口周氏をはじめ、ビジネスリーダー15組が登場。それぞれの経験や立場から、新規事業創出の要諦を語ります。 今回の主役は、企業内で新規事業を担う社内起業家(イントラプレナー)50人。企業内の知られざる新規事業や、その哲学を大特集します。 さらに「なぜ社内起業家は嫌われるのか?」など、新規事業をめぐる3つのトークを展開。 第二特集では、新規事業にまつわる5つの「問い」を紐解きます。 「企業内の新規事業からは、小粒なビジネスしか生まれないのか?」「日本企業からイノベーターが育たない。 人材・組織の課題は何か?」など、新規事業に関わる疑問を徹底解説します。 イノベーター必携の一冊。そろそろ新しいこと、してみませんか?

text by Keita Okubo

#新規事業#人的資本経営

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