大企業こそ難題に挑める環境だ 最高のチームでDXに挑む「ワクワク」を追求

Ambitions編集部

スタートアップ企業で執行役員に上り詰め、上場も経験。そこから転じて歴史ある三菱商事グループへ参画した、異色の経歴を持つ久保長礼氏。CTOとして入社した三菱商事グループのMC Digitalは、多様な領域のDXをシステム開発で推進、支援する会社で、競技プログラミング大会に初出場で優勝するほどの精鋭集団だ。そんな久保長氏の、パワフルなキャリアの源はどこにあるのだろうか。

久保長 礼

三菱商事(MC Digital)

京都大学卒業後、独学でプログラミングを学び、Wantedlyに参画。エンジニアとして求人アプリ「Wantedly Visit」の開発に携わり、執行役員を務める。2019年から三菱商事のグループ会社「MC Digital」にCTOとして入社。三菱商事グループのネットワークを活用したDX推進事業を手がける。

憧れはザッカーバーグ。独学でエンジニアに

私のエンジニア人生の始まり、それはアメリカ西海岸のシリコンバレーに行ったときのことです。グーグルやアップル、フェイスブック(当時)のオフィスを見学しました。フェイスブックを訪れた時、偶然、創業者のマーク・ザッカーバーグを見かけたのです。その姿がとてもかっこよくて、ソフトウェアエンジニアになりたいと強く憧れるようになりました。

数学科で確率論を学んでいたので、周りの友人は大学院に進学する人や、保険業のリスク分析の仕事につく人が多かった。しかし、私はプログラミングの勉強がしたいと思い、大学院へ行くか、友人と起業するかの2択で迷っていました。結局大学院へは進まず、クリエイター向けの作品集をつくるウェブサービスの開発を友人たちと始めましたが、さらに事業を拡大する決断ができずにいました。

そのとき、知人に紹介してもらったのがWantedlyの創業者でした。プログラミングのスキルを向上させるためにアルバイトを始め、求人アプリの開発に携わるようになったのです。

確実な成長のために…… 「なぜ」の追求

当時の社員は5人。小規模なスタートでしたが、毎年目標を立てて目の前の仕事に没頭するうちに、掛け算のようにビジネスが育っていきました。2014年には執行役員となり、2017年には東証マザーズ市場への上場も果たしました。上場企業の経営層として、エンジニアとしてだけでなくマネジメントの知識も身につけていきました。

三菱商事との出会いは、Wantedlyで働き始めて8年が過ぎた頃、知人の紹介でした。そこで聞いたのが、「三菱商事グループでDXを推進する内製化組織をつくりたい」という話です。はじめは仕事のイメージが湧かず、戸惑いもありました。しかし、Alを活用して幅広い業界のDXを手掛けるのは面白そうで、挑戦してみたいと感じました。それで転職したのが、今CTOをつとめている「MC Digital」です。私が1人目の社員。事業計画を立て、どんな組織にしていくか考えながら、ビジネスを具体化していきました。

Wantedly時代から、ビジネスを大きく育てるときに意識しているのは「なぜ」を突き詰めて考えることです。不安だ、困ったと感じたときに、「なぜ不安なのか」「なぜ困っているのか」をとことん考えます。すると、効果的な対応策が浮かんでくるものです。マイナスの要素を丁寧に潰していく作業が、その後の大きな発展に繋がっていくと考えています。

目指すは皆が「ワクワク」開発できる組織

今手掛けているのは、三菱商事グループが関わる幅広い業界のDXを実現するためのシステム開発です。DXとは単なるデジタル化ではなく、デジタル技術を通じて従業員や顧客の体験をより良くするものです。DX戦略を練った結果、既存のやり方を刷新したり、サービス内容そのものを変えるケースもあります。

例えば「配送を効率化したいが、トラックや荷物の発着地、積み替えなど、膨大な組合せがあり最適解が分からない」という課題を解決するため、効率的に荷物を運べるプログラムを開発。その結果トラックの台数が減り、配送計画を立てる労力も軽減しました。ドライバーの労働環境が改善され、トラックから出るCO2の削減にも寄与できました。

食品業界の大規模なDXにも携わっています。これまで、メーカーや小売業者の需要予測にばらつきがあり、在庫を抱えすぎて結局捨ててしまうという課題がありました。そこで、AIを活用した精度の高い需要予測プログラムを開発し、フードロスの削減が可能になったのです。

三菱商事グループの内製化組織だからこそ、産業の垣根を超えた大きな課題を、プログラミングやデータの力で解決できていると感じます。同じように、手掛けるビジネス変革の幅広さに魅力を感じて優秀な人材が集まってくれています。2021年に開かれたプログラミングのコンテストでは、数々のテック企業を抑え、MC Digitalが初出場で全国優勝を果たしました。

共に働く仲間がワクワク開発できる環境を整えることが、CTOとしてのマネジメントです。これまで大企業はシステム開発を外注していたことが多かった。しかし、MC Digitalは内製化組織なので、ビジネスを担う人たちと距離が近く、コミュニケーションを取って開発を進めやすいというメリットがあります。そのメリットを生かし、エンジニアの強みを発揮して最高のプログラムを組めるチームが理想です。

エンジニアのこだわりや強みを理解するためには、自分自身も学び続けなければいけません。共に学び、成長しながらワクワク仕事に向き合える環境づくりを心掛けています。

そして私自身、難しい問題の答えを導き出すときにこそワクワクする気質があります。温暖化やフードロスといった、大きな社会課題にダイレクトに応えつつ、働く人の生産性や働きやすさにも貢献できる大企業の裾野の広さに、とても魅力を感じます。デジタルの世界は日々変化し、複雑化していますが、その中でも間違いなく、企業や産業の競争力を高めることができる。ひとつひとつやるべきことを積み重ね、目の前の課題に新たな解を見出せる企業人でありたいと考えています。

Q. 大企業で見つけた「夢」は?

A. 目の前の目標は、三菱商事の内製化組織としてMC Digitalで成果を残すことです。業種は違っても抱える問題の本質は同じであることが多くあります。私たちは、積み重ねたDX事業の成果を他の産業に展開することで、日本全体の大きな課題に応えていける。そのチャンスに恵まれていることに可能性とやりがいを感じています。

(2022年5月20日発売の『Ambitions Vol.01』より転載)

text by Mao Takamura / pbotographs by Yota Akamatsu

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