時代と共に人的資本経営を「高度化」していく

Ambitions編集部

2023年、日本のビジネスシーンは人的資本経営「実装」フェーズに突入した。人的資本経営とは、つまるところ何なのか。すべてのビジネスパーソンが自身のイシューとしてこの問題と向き合うため、人的資本経営の課題と本質を探っていくのが特集「人的資本経営の罠」だ。日本における人的資本経営の先進企業の1社、アサヒグループホールディングスで取締役 EVP 兼 CHROを務める谷村圭造氏に、同社の取り組みについて聞いた。

谷村圭造

アサヒグループホールディングス株式会社 取締役 EVP 兼 CHRO

1989年アサヒビール株式会社入社。2017年アサヒグループホールディングス株式会社執行役員人事部門ゼネラルマネジャーに就任。2018年からは執行役員グローカルタレントマネジメント担当として、グローバル人事を担当。2019年取締役兼執行役員、2020年よりCHRO(最高人事責任者)を兼任。現在、取締役 EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント) 兼 CHRO。

アサヒグループホールディングス株式会社

  • 酒類事業、飲料事業、食品事業など
  • 従業員数 2万9920人(連結、2022年時点)
  • 売上高 2兆5111億800万円(連結、2022年12月期)

経営と人材が補い合い、人的資本を「高度化」

「人的資本の高度化」を掲げるアサヒグループホールディングス。アサヒグループHDでは定性的な効果だけでなく、定量的に質を上げる取り組みをこれまでも「高度化」と定義し、様々な事業や活動の軸として、約30年にわたり継続してきた。近年、新たに高度化の対象となったのが「人的資本」だといえる。谷村氏は「人的資本の高度化」をこう説明する。

「人的資本の高度化とは、社員と会社が共に成長する環境をつくることです。“成長”とは単なる昇進やスキルアップではなく、一人ひとりのウェルビーイングやエンゲージメントが高まる状態を意味しています。経営と人材が相補関係にあって、持続的な成長を続ける形が理想です」

グローバル時代、能力を発揮できる場づくり

「高度化」という言葉を使い始めた当時は国内向けの事業が中心だったが、近年、グローバル化などを背景に、会社を取り巻く状況は大きく変化している。それを受けて2021年、アサヒグループHDは海外を含めた組織全体で、人材戦略とグループ理念を橋渡しするピープルステートメントを策定。年齢・職種・国籍・性別を問わないフラットなチームでの協働を実現した。

「先日、海外のメンバーと一緒に、セーフティ&ウェルビーイングのワークショップを実施しました。そこでは、参加者が互いを尊重し合い、非常に有意義なディスカッションができました」

理念を中心に、各人が自分の能力・エネルギーを発揮して協働する場をつくる。谷村氏は「まだまだ道半ば」と話すが、こうした取り組みも皮切りに「人的資本の高度化」を進めたい考えだ。

社員と会社の成長を「見える化」する

社員と会社の成長は、目に見える形にすることも重要だ。現在アサヒグループHDでは「女性経営者の割合」「グローバルリーダーの数」といった自社の施策ごとのKPI(重要業績評価指標)を設定し、その上で組織へのエンゲージメントが向上しているかを組み合わせて見ていくことができる、共通言語としての価値基準をつくろうとしている。

「アサヒグループHDは成長への道筋をつけている、ということを示したいです。そのために、数字(KPI)だけでも、エンゲージメントだけでもいけない。数字とエンゲージメントの間にどんな相関があるのか、『本当にそうなのか?』という問いかけも含めた、ロジックやストーリーを社内外に伝えていきたいと考えています」

POINT

  • グローバル規模での協働を可能とするフラットな組織づくり
  • 「KPI × エンゲージメント」で社員と会社の成長を把握

(2023年9月29日発売の『Ambitions Vol.03』より転載)

text by Mai Terai / edit by Masaki Nishimura

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