アイドル時代に養った「対話力」で、キャリアアドバイザーへ。元メンズアイドル・りゅうせいさん

矢儀田汐理

元アイドルたちの活躍をひも解くと、ビジネスパーソンにも通じるキャリア選択のヒントが隠れているかもしれない──。人材関連サービスを展開するパーソルグループで広報やブランディングを担当する一方、アイドルについて知見をもつ矢儀田汐理氏が、元アイドルのセカンドキャリアを解説する連載の第四回。メンズアイドルグループで活動した後、現在はキャリアアドバイザーとして活躍している、りゅうせいさんに話を聞いた。 保育士からアイドルになり、その後プロデューサーを経てキャリアアドバイザーという、異色の経歴を持つりゅうせいさん。仕事内容は変わっても、いつもアイドル時代に築いたファンとの関係性に支えられてきた。

ファーストキャリアは、子どもの頃からの夢だった「保育士」

──まずは、これまでのキャリアについて教えてください。

専門学校卒業後、保育士として約2年働いていました。その後はアイドルに転身し、約3年間アイドル活動に専念。アイドル引退後は、個人事業主としてアイドルプロデュースを1年間行い、現在は企業に就職してキャリアアドバイザーをしています。

──ファーストキャリアは保育士だったのですね。

保育士になることは、子どもの頃からの夢でした。長年の夢を叶えることができ、とてもうれしかったです。

働いていた職場では、自分は唯一の男性保育士でした。業務面でも人間関係の面でも、大変なことは多々ありましたが、子どもたちと遊ぶ時間は大変楽しく、やりがいのある仕事でした。


──保育士から、なぜアイドルへ?

実は、保育士のほかにも、将来の夢をたくさん持っていました。たとえば、歌手・アイドルや警察官、非現実的なものだとスパイも(笑)。そのなかで唯一諦めきれなかったのが、歌手・アイドルの道でした。

保育士になって2年が経過した頃、たまたま芸能界にいた友人から「アイドルグループを作るから、メンバーにならないか?」と声を掛けてもらい、半ば勢いでアイドルの世界へ飛び込みました。

実力差を埋めるために奮起、努力を重ねて出た芽に自信をもつ

──所属していたアイドルグループについて詳しく教えてください。

3年間メンズアイドルグループに所属していました。自分で言うのは恥ずかしいのですが、王道の“THEキラキラ王子様系”のグループを目指していたため、王子様風の衣装で、歌って踊っていました。

ライブで全国を回ったり、地上波で冠番組を持っていたりと日々充実していました。

──保育士からアイドルへのキャリアチェンジは大変ではありませんでしたか?

グループのメンバーはすでに何らかのかたちで知名度のある人達ばかりでしたが、自分は保育士からぽっと出の新米。自分だけグループのなかで浮いている感覚は、しばらく抱いていました。

特に、メンバーとの差を思い知らされたのは、ファンの方との特典会です。既にファンがいるメンバーしか居ないなかで、自分はゼロからのスタートだったので、はじめは自分の列だけ人が並んでいなかったこともありました。列が途切れ、その場で笑顔を振りまいているだけの時間は、とてもつらかった記憶があります。


──歌やダンスも、アイドルになってから始めたのですか?

そうですね。アイドルになる前は、歌がとても苦手でした。事務所専属のボイストレーナーからもトレーニングを受けていたのですが、それだけでは足りないと思い、自腹を切って、ほかのボイストレーニングにも通っていました。


──陰で努力を重ねていたのですね。トレーニングの成果はいかがでしたか?

自分ではあまり実感がなかったのですが、自主練を行っていることに周囲から気づいてもらえるほどには、上達していたようです。

その努力を認めていただき、次第に歌割りでもいいパートをいただけるようになりました。ライブの動画を客観的に見ても、自分だけが浮いている感覚はなくなり、人気のあるメンバーたちとも肩を並べられているかな?と思えるときもあり自信につながりました。

内気な性格を克服し、グループでは“いじられキャラ”に


──アイドルを経験してみて、ご自身に変化はありましたか?

アイドルの仕事を始めてから、人と話すことが楽しくなりました。

以前は内気な性格で、よく人見知りもしていました。しかし、アイドルは一人ひとりが目立たなければなりません。そのおかげもあり、自分を表現することに対する抵抗が小さくなりました。

最初は自分の個性も模索していたのですが、最終的には“いじられキャラ”を確立しました(笑)。正直、最初は嫌だったのですが、いじりを笑いに昇華することでファンの方を楽しませられることに、面白さを見出せるようになりました。

アイドルを始めた当初は「自分には続けられないかも」と思うこともありましたが、未経験だった自分にもファンという大切な存在ができ、歌やダンスも徐々に上達していきました。今振り返ると、とても楽しい日々でしたね。


──活動は充実していたようですが、なぜアイドルを辞められたのでしょうか?

ちょうど事務所との契約更新のタイミングで、グループで今後の方針を話し合った結果、それぞれの道を進むことになりました。

活動を辞めるときにもメンバーとは仲が良かったので、今もたまにご飯に行ったり遊びに行ったりしています。

アイドルのプロデュースにも挑戦 。そしてキャリアアドバイザーへ


──その後、ご自身でアイドルのプロデュースをされたそうですね。

事務所を辞めた後、個人事業主としてアイドルを1組プロデュースしました。

親が会社を経営していたこともあり、その憧れから会社に所属するのではなく、自分の力で何かやってみたいと思っていたんです。今のスキルでできることは何かを考えた結果、アイドルの経験を活かして、プロデューサーの仕事にチャレンジしてみようと思いました。

──プロデュ―サーとして活動してみていかがでしたか?

メンバー集めから楽曲制作、衣装作りまで、すべてに裁量を持ち、自分の表現したい世界観を発信できることは、とても楽しかったです。

ありがたいことに、アイドル時代のファンの方からの応援もあり、自分も含めメンバー全員が生計に困らないほどには、利益を出すこともできました。

ただ、その頃はマネジメント力がなく、自分より若いメンバーを取りまとめることに大変苦労しました。また、メンバーの負担にならないよう、契約期間を1年に設定していたのですが、結局1年でみんな辞めてしまって。それを機会に、「企業に就職しよう」と踏ん切りがつきました。


──今のお仕事はどのように探したのでしょうか?

保育業界とアイドル業界の経験しかなかったので、そもそも世の中にどんな仕事があるかを知るために、転職エージェントに登録しました。担当エージェントの方から「喋りが上手で、多様なキャリアを歩んでいるから、キャリアアドバイザーに向いているのでは」と言っていただいたことがきっかけで、キャリアアドバイザーに絞って仕事を探しました。

自分がプロデュースしたアイドルメンバーに対しても「もっと上手くマネジメントができれば、より良いキャリアを築かせてあげられたのではないか」という負い目を感じていたことと、転職活動中に人事の仕事にも興味をもっていたので、そのステップアップにもつながると感じ、人材会社でスキルを磨きたいと思いました。

キャリアが変わっても支え続けてくれる、アイドル時代のファン


──現在のお仕事内容について教えてください。

美容業界に特化した人材紹介会社でキャリアアドバイザーをしています。

美容業界ということもあり、美的感覚が鋭い方たちと一緒に仕事をすることは、刺激的でとても楽しいです。


──キャリアアドバイザーとして働いてみていかがですか?

おかげさまで、入社して間もないうちから、何度か部内で成績No.1になることができました。

というのも、実はアイドル時代のつながりがあったおかげでもあります。キャリアアドバイザーとして、

「美容業界で転職を考えている人がいたらサポートします!」とInstagramで投稿したところ、自分のファンだった方が連絡をくれたんです。実際に、内定に至ることもありました。アイドル時代のつながりが個人的な集客力になっているのは、強みです。

また、会える距離にいる方には積極的に会いに行ったり、ヲタ活の話など業務に関係ない話も交えながらマメに状況確認の連絡を取るなど、転職希望者の皆さんと仲良くなることを意識して信頼関係を構築するように心がけています。

──プロデューサー時代もそうでしたが、アイドル引退後もファンの方に愛されているのですね。

イベントを開催したら未だに会いに来てくれる方もいるので、本当にありがたい限りです。ファンの方には、とても感謝しています。声を大にしてお伝えしたいです。

キャリアのアドバイスに活きる、アイドル時代に身に付いた「対話力」


──アイドルを経験して良かったことは何でしょうか?

アイドルを経験したことで、コミュニケーション力が高まったと思います。

ファンの方と接する際、「どうしたら相手に良い印象を与えられるか」「嫌な思いをさせないか」を常に考えていました。そのおかげもあり、言葉の選び方には自然に気を付けられるようになったと思います。

特に、キャリアアドバイザーは、自分の一言が相手の将来に大きな影響を与える仕事です。アイドルやプロデューサー時代に、対話力を鍛えたことは、今に活きていますね。


──ちなみに、りゅうせいさんご自身、現在はアイドルヲタクだそうですね。

自分がアイドル時代に苦労した経験がある分、まだ歓声の少ないアイドルを見ると自分と重なり、頑張ってほしいなという気持ちが強くなりますね(笑)。

現在は、男性アイドルヲタクこと、あくにゃんのYouTubeチャンネル「あくにゃんちゃんねる!」でも、ヲタ活の様子を発信しています。

あくにゃん自身もアイドル経験者であり、「自分が叶えられなかった夢を、代わりに推しに託している」と聞いて、ハッとしました。それからよりヲタ活に熱が入るようになりました。余談になるのですが、自分がファンの立場になってみて、改めてファンの気持ちが理解できました。

アイドルのファンだと、同じ推しのファン同士が交流を避ける「同担拒否」があるのですが、自分は保育士のバックグラウンドもあってか「自分のファン同士、みんな仲良くしてほしい」というマインドでした。しかし、いざ自分がヲタ活をしてみると周りに同担拒否をしている方も多く、当時のファンの気持ちが理解できるようになりました。「みんな仲良く」マインドを押し付けて申し訳なかったと、この場を借りてお伝えしたいです (笑) 。

ちなみに、自分自身は同担からでも推しの情報が欲しいタイプなので、むしろ“同担歓迎”です(笑)。

幅広いスキルを習得し、より自由度の高い働き方を目指す

──これまでお話を伺い、りゅうせいさんは、誰かをサポート・応援することに楽しさを見出しているように感じました。

確かに、献身的な部分があることは自分の強みかもしれません。

たとえば、YouTubeチャンネルでも元々メインだった2人のチャンネルに後から自分が加わったので、元のチャンネルの空気感は崩さずに場を盛り上げられるよう、とても意識していますね。ただ、そのなかでも自分の“色”は出していきたいので、試行錯誤しています。


──今後の目標はありますか?

キャリアアドバイザーの次のステップとして、将来的には人事の仕事にも挑戦したいと思っています。

またもう一つ、キャリアアドバイザーとして働くうちに、マーケティングにも興味を持つようになりました。マーケティングを極めることで、いつか推しのアイドルの認知度アップにも貢献できたらと思っています。

将来的にはフリーランスとして自由度の高い働き方をしていきたいので、今のうちに、さまざまなスキルを身に付けていきたいと考えています。

りゅうせいさんとあくにゃんさんによる、最新ミュージックビデオが公開中


【取材を振り返って】

りゅうせいさんは人当たりが柔らかく、インタビューからも、人柄の良さを感じました。ファンの方に愛され続けているのも納得です。それは、アイドル時代、さらには保育士時代から意識していた、「相手の気持ちを考えるコミュニケーション」が体に染みついているからであるような気がします。プロデューサーやキャリアアドバイザーの仕事を通じ、その能力はさらに磨き抜かれているのではないでしょうか。

また、新しい環境へ躊躇なく飛び込む姿勢も印象的です。そこに馴染むための努力や工夫を厭わないことで、未経験の場でも活躍されているのではないかと思います。

「勢い」でキャリアチェンジをしてきたと話していましたが、その反面、将来のビジョンを明確に描いているようです。自分の夢に真っすぐでありながら、現実的な視点を持ち合わせていることは、自分らしいキャリアを着実に歩むためのポイントかもしれません。

text by shiori yagita

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