組織と人を信じた人材育成改革に挑戦 異動はピンチではなくチャンス

Ambitions編集部

就職人気ランキングで例年上位に食い込む東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)。その新たな人材育成方針づくりに尽力した人物が、堀豪志氏だ。堀氏は2021年に公表された中期経営計画で、人材育成方針の策定を担当した。これまでの段階的な階層別の研修制度を見直し、多種多様な学びの機会を整備。それにより「個」の可能性を伸ばし「組織」としての力を高める、人材育成制度の改革を進めてきた。 既存の仕組みを改めることは簡単ではない。堀氏が改革を推進できた背景には、組織と自身を冷静に分析する視点、そして自分の軸を信じ周囲を巻き込む熱意があった。

堀 豪志

東京海上日動火災保険

新卒で東京海上日動火災保険に入社。広島損害サービス第二課にて自動車事故対応にあたる。東日本大震災発災時に震災応援のため被災地に赴き、保険の意義を再確認する。水戸損害サービス課勤務を経て、2016年より人事企画部へ配属。以降人事戦略の策定、社員の能力開発等を推進。

東京海上日動の「人」に惚れ込んだ14年

手前味噌ですが、東京海上日動で働く人が好きです。優秀で尊敬できる人がとても多い。だからこそ、今の仕事に熱中できていると強く感じています。

私が入社したのも「人」が理由でした。就職活動中にOB訪問でさまざまな企業の人と会いましたが、東京海上日動の先輩はとても生き生きと働いていて魅力を感じたのです。自分自身の学生生活を振り返っても、有難いことに周囲に尊敬できる人が多く、自分も自然と引き上げられるように成長できたと思います。だから、憧れの人がいる東京海上日動に入りたいと思い、入社を決めました。

入社後は自動車事故のお客様対応の部署に配属されましたが、知識や経験がなく、お客様から厳しい言葉をいただくこともありました。そんなときに自分を救ってくれたのは同僚や先輩でした。当時の先輩には常に相談に乗ってもらい、アドバイスを受けながらハードルを乗り越えてきました。

そして当社が持つ組織と人のポテンシャルを再び感じたのは、入社4年目の3月、東日本大震災が起きたときでした。発災後すぐに当時勤務していた広島から東京の災害対策室に応援に行き、千葉県、福島県にも赴きました。経験したことがない規模の災害。全社員がまるで1つの生き物のように、お客様対応や災害対応に取り組む組織の姿に身震いしたことを鮮明に覚えています。

自分は困った人を支える仕事をしていて、保険を通じ社会の役に立っている。仕事の意義を身にしみて感じた瞬間でした。

転職も脳裏に 突然の異動でぶつかった壁

入社後8年間、自動車事故の対応に従事してきた日々。9年目の春、突然人事企画部への異動を言い渡されました。向き合う相手が、保険のエンドユーザーから会社全体の組織や人に変化。会社で働く「人」は変わらず好きでしたが、いざ人事の仕事をしてみると辛いことが多かったのも事実です。

人事で初めに担当した仕事は、機構改革や人材配置の企画立案。聞き手にとっては耳が痛い人員削減について、経営の観点から話さなければならないこともあり、心の整理が難しいときも正直ありました。

当時は転職するしかない、と思うくらいに悩みました。これまで積み上げてきたスキルが生かせない。自分がどのように会社や社会に貢献できるか、その道筋が全く描けない。とにかく過去の経験を振り返りながら自分を見つめ直し、強みや、やりたいことを模索しました。突き詰めて考えるうちに「仕事をする上で、これだけは貫く」という仕事の軸が見えてきました。

自分が成長し、組織をより良くする「2つの軸」

私が大事にしている軸は2つ。まず、自分の思いに正面から向き合うこと。そして、常に熱意を持って仕事をすることです。大きな企業で働いていると「自分が決めなくても、誰かが決めてくれるだろう」と考えてしまうことは否めないと思います。でも、まずは自分の考えや思いを伝えないと、他者の反応を聞いてそこから成長することもできないと感じました。どのような場面でも「自分はどう思うか」を自問することが成長の鍵だと思います。

そして、思いが「熱意」になると、はじめて人を動かせると考えています。熱意が伝播して、組織が変わる。組織をより良くするには、熱意を持ち続けることが大切です。

仕事の軸を見つけたことで吹っ切れました。厳しい人員削減の場面であっても、その裏にある思いや熱意を説明し、最終的には相手に納得してもらえるようになりました。その後は現在の人材開発室に異動し、従業員や組織の成長を後押しするために新たな研修や学習プログラムを企画・導入しました。

新しいことを始めるときにはやはり障壁があります。大企業は人が多いので、組織を動かすことは決して簡単ではありません。しかし、逆に人が多いからこそ仲間を見つけやすいともいえます。自分が何かに課題を感じたとき、同じ思いの人が必ずほかにもいると信じています。そうした仲間を集めて小規模に試し、拡大していくというやり方で、変革に挑戦しています。

異動はチャンス。憧れの人に、自分がなる

プランド・ハップンスタンスという考え方が好きです。キャリアにおける偶然の出来事を前向きに捉え、成長に繋げるという理論。大企業では、思いがけない辞令が出ることがあります。しかしそれをチャンスと捉えて努力すれば、必ず成果が出ると身をもって感じています。人事への異動で見えた景色、学んだこと、出会った人、全てが財産になっていますね。

今目指しているのは、社内外を問わず「声をかけてもらえる人」になることです。これまで私は周りの人に助けられ、周りの人から学んできました。そうした影響力を与える人に、今度は自分がなりたい。影響力のある人の周りには自ずと人が集まります。決して簡単なことではないですが、「まず堀に相談してみよう」「堀に聞いてみよう」と思ってもらえる自分を目指しています。

Q. 大企業で見つけた「夢」は?

A. 大企業に属する多様で魅力的な人たちとさまざまなチームを組み、新たな価値を生み出し続けることができる真のリーダーになること。

(2022年5月20日発売の『Ambitions Vol.01』より転載)

text by Mao Takamura / photographs by Yota Akamatsu

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