成果を生むポジティビティは、「ネガティブの許容」で養われる

Ambitions編集部

仕事でミスをしたり、同僚や上司とけんかになったりと、ネガティブな気持ちになりがちなビジネスシーンは多い。そんなときでも、ものごとをポジティブに捉え、ビジネスの障壁を突破できる人は、どのような心持ちで日々を過ごしているのだろうか。そのヒントを得るため、パーソナリティ心理学、発達心理学の専門家であり、早稲田大学文学学術院文化構想学部教授の小塩真司氏に、心理学的な知見から「ポジティブとは何か」について聞いた。

小塩真司

早稲田大学文学学術院文化構想学部 教授

名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程 修了、博士(教育心理学)。その後、中部大学人文学部講師、助教授、准教授、2012年に早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授。2014年から現職。専門はパーソナリティ心理学と発達心理学。

“明るいあの人”がポジティブだとは限らない

──そもそも、心理学的に「ポジティブな人」とはどんな人のことを指すのでしょうか。

その質問に答えるためには、「ポジティブな人」を心理学的知見から捉え直す必要があります。少しややこしいですが、「ポジティブに見える人」と「ポジティブな結果を生み出す人」は、心理学的には全く別の存在とみなされます。

「ポジティブに見える人」は、外交性が高く、よく笑い、よくしゃべり、活動的な傾向があります。併せて楽観性が高く、難しい挑戦でも「なんとかなる」と突っ込んでいく性質があります。ただし、挑戦した結果、成功するとは限りません。「なんとでもなる」と思い込みすぎて、非現実的な戦略のもとに行動してしまうこともあります。また、失敗をしても反省せずに、また同じ過ちを繰り返すことも考えられます。

──なるほど、いくらポジティブに見えても、それが仕事に活かされるとは限らないわけですね。

その通りです。心理学的に、生きる上で役に立つといわれているのは、後者の「ポジティブな結果を生み出す」特性(ポジティブ特性)を持った人です。具体的なポジティブ特性は、勤勉性や情動的知能(自分や他人の感情を正確に理解し、適切に対応する力)といった性質や能力を指します。

ポジティブ特性を持っている人は、必ずしも「ポジティブに見える人」ばかりではありません。冷淡だったり、相手を自分の思い通りにコントロールしようとしたりする人もいます。ある特性を共通して持っているというよりは、勤勉性が高ければ成績が良い、知能が高いと学歴が良いなど、様々な特性がポジティブな結果につながるケースがあるということです。

ものごとの「ネガティブな側面」も見よう

──ものごとをポジティブに捉え、結果を出すには何が必要なのでしょうか。

一度「ポジティブになる」ことから離れて、ものごとを多面的に捉えてみましょう。結果を出すための道はたくさん存在します。ですから、あらゆる視点からのアプローチを考え、そのなかから最適な道を選ぶことがポジティブな結果につながると思います。無理やりポジティブになろう、と考えるとそれだけ視野が狭まってしまいます。

常にポジティブに考える必要はなく、ときにはネガティブな思考も許容しながら、広い視野でものごとを捉えることが重要です。

──どうすればものごとを多面的に捉えることができるのでしょうか。

方法はいくつかありますが、「原因帰属の3次元モデル」は有効なフレームワークです。何かについて検討するとき、その原因を自分に求めるか否か(内的・外的)、偶然か否か(安定・不安定)、コントロール可能か否か、それぞれの立場で考えるのが「原因帰属の3次元モデル」です。このフレームワークを繰り返し用いることで、ひとつの考えにとらわれず、多面的にものごとを捉える癖がつけられます。

地道な経験の積み重ねが、“ポジティブの循環”を生む

──ポジティブな結果を残せると自信がついて振る舞いが変わり、結果的に「ポジティブに見える人」に近づく気もします。

それはありますね。結果を出す→自信がつく→さらに結果を出す、と繰り返すうちに、理想的なポジティブパーソンに変化していくと思います。ただし注意が必要なのは、理想的なポジティブパーソンには一朝一夕ではなれないということです。

今、世の中にはいろいろな情報があふれていて、短時間で学べることが増えました。おかげでものごとの本質に近づくスピードは上がっていると思います。その環境からか、最近は考え方さえ変えればすぐにポジティブな結果に到達できると考え、「結局何をすればいいのか?」とすぐに結論を求める傾向があるように感じます。

しかし本当にポジティブな結果を出すには、ダイエットのように継続が必要です。ポジティブとネガティブを行ったり来たりしながらものごとを多面的に捉え、結果を出すことで、少しずつ理想のポジティブパーソンに近づいていくのです。

研究によると、経験を積み重ねるほど自然に考え方はポジティブな方向に寄っていくことがわかっています。日本の場合、自尊感情の平均値が最も高いのは70代です。「自分はこれを成し遂げた」「こうしてお金を稼いだ」といった経験に裏付けられた自信は少しのことでは揺らがず、それが積み重なるほどに人をポジティブな性格に変えてくれるのです。

最初は微々たる変化でも、投資における複利のように、コツコツ続けることで大きな差を生み出します。短期的な成果を安易に求めず、日々の積み重ねを意識することで、理想のポジティブパーソンへと近づけます。

(2023年9月29日発売の『Ambitions Vol.03』より転載)

text by Hikaru Taneishi / photograph by Yota Akamatsu / edit by Mao Takamura

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