
強烈なキャラクターや企画を高速で繰り出し続ける異才、秋山竜次氏。 生まれ育った北九州のディープな土壌が、創造力と表現活動の源になっていると言う。根底にあるのは「笑い」への強い渇望と衝動。進化し続けるクリエイティビティの源泉と、時代の本質を捉える思考回路に迫る。

秋山竜次
芸人・タレント・俳優
1978年生まれ、福岡県出身。お笑いトリオ「ロバート」のボケ&ネタ作り担当として2011年「キングオブコント」優勝。2015年始動の「クリエイターズ・ファイル」で“YOKO FUCHIGAMI”などの憑依キャラが話題を呼ぶ。テレビや舞台に加え、NHK大河ドラマ「光る君へ」ほか、映画、アーティストとの共演など多岐にわたり活躍。
思いが違う。ふるさと北九州の原風景
地元、北九州の企業が全国規模で頑張っているのが誇らしいですね。ゼンリン、TOTO、日産系企業、部品系企業など、北九州の会社はすごい。子どもの頃は身近にあった世界だけど、大人になって、改めて全国的にも北九州は工業が強いということがわかって嬉しくなりました。
北九州は製鉄の街でもありますね。また、あの全国規模の第一交通も小倉が本社とは知らない人も多いと思います。そういう地元自慢を人に言いたくなるんですけど、東京の人は「へえ、そうなんだ」で終わる。それでも「こっちは熱いんだよ!」って感じです。
食も魅力で、ロイヤルホストも今、全国にあるけど、1号店が北九州だという話は語りたくなっちゃいますね。また、九州のファミレスといえば俺らにとってジョイフル。ともに育ってきて、今も実家の近所にあるし、高校3年のときには車の免許を取ってすぐジョイフルのドリンクバーに行きました。今、コマーシャルをやらせてもらっているのも、めちゃくちゃ嬉しいですね。思いが違う。
地元は門司港の近くで、3つの造船所に囲まれていました。家の目の前に動物検疫所があって、月に1回ぐらい動物がやってきて、何十頭ものキリンが来たこともあるんですよ。ブロック塀から首だけが何本も出ている風景が面白くて、幼稚園の時にスケッチ大会を開いたこともあります。ちょっと東京では味わえない景色や思い出が、今ネタの宝庫になっていますね。

「福岡出身芸人」として紹介されますが、福岡市内は正月などに買い物へ行く晴れの場で、福岡市に出る時は一大イベントですね。仕事で福岡に帰ることは多いんですが、親や2人の弟がみんな北九州にいるので、仕事でも、仕事以外でも2、3日空いたら結構北九州に帰っています。みんなで集まって「兄弟だけで焼肉に行こう」という流れになって、僕は酒が飲めないので、たらふく食べて、駐車場で2時間くらい喋って解散。翌日天気が良ければ海に行ったり、車に乗ってうろついたり。
ドライブでは門司港に行くことが多いです。国道199号の海沿いが好きで、アンティークショップに寄ったり、「天ぷらのひろ」というお店で天ぷらを買ったり。素材がいい、揚げたてのお店です。スナック菓子みたいに車の中で天ぷらを開封して食べたりして。
そして和布刈(めかり)に行って、船が行き来している関門海峡の景色を眺めるんです。子どもの頃、祖父と海岸に座っていつも眺めていたんです。「あの旗を見たらどこの国の船かわかるぞ」と教えてくれて、「どこの国の船だろう」と思いを馳せるんです。
この間も豪華客船が通っていて、気になって調べたら、運航開始したばかりの三井の新しい船で、その時間に関門海峡を通るスケジュールになっていたんです。そういった発見がものすごく楽しくて、船を撮って拡大して「どの会社かな」「どんな航路なんだろう」と調べるのが好きなんですよね。
多様な「一手」を繰り出し続ける理由とその戦略

「クリエイターズ・ファイル」をやっていると、「クリエイター」と言われることも多いのですが、僕自身はクリエイターとしての自意識はあまりなくて、ただ「ウケたい」という気持ちだけで動いているんです。いろいろ作っていることが結果的に「クリエイティブだね」と言われるんですけど、本人としては一切意識していない。ただ「面白い」と思いついたことをやり続けているだけなんです。
僕自身、ネタを作るのも、「クリエイターズ・ファイル」も歌も、全部いったん形にするっていうのが大事なんです。結果、ウケるかどうかはやってみないとわからない。だから失敗も多いんですけど、何年も積み重ねてやってきたおかげで、「秋山は面白い」って言ってもらえることもあるし、まったくハマらない人もいる。それでも出し続けている感じですね。
一方、なんでもかんでも同じところには出さない。テレビ・雑誌・YouTube、どこかには出します。でも、自分の嗅覚で「ここでやっても伝わらないな」と思えばそこには出さない。「もうちょっとおいしくしてくれる場所で出そう」などと、出し先は結構考えてます。やたらと消費はしたくないので「ここは温存しておいて、もっといい場所で出す」とか。
ネタは無限。箇条書きのメモの状態で寝かせているものも山ほどあります。ワンフレーズだけ思いついて、それだけで1本ネタを作ることもあります。
ともに作り続けられる、「仲間づくり」と「任せ方」の極意

仲間は重要ですね。自分一人じゃなく、いろんな感覚を持っている人たちと作るのが楽しく、面白いものが出来上がります。
今、テクノロジーやAIが発達しているので、いろいろ生成してくれるようになっていますが、まずは自分でやってみないとわからない。これはめちゃくちゃ大事なことだと思います。一番大事な肝となるところは、自分でやらないと気が済まないんです。
たとえば「梅宮辰夫さんのお面を何バージョンか作る」と作家さんに発注すると、パソコンで合成したすごく無機質なものが上がってくるんですよ。「これだと全然面白くない。マジックで手描きしたほうが面白い」という感覚になります。作家さんにそれを言うと「そんな、手描きでやっていいんですか?」と驚かれるんですが、そっちのほうが味があって、数倍面白かったりするんですよね。パソコン作業に慣れていると、それ以外の発想がなくなってしまうこともあるので、そこでひと手間加えたり、あえてアナログにやったりしたほうが面白くなるんです。
編曲家と組むこともあります。僕は楽器ができないので、鼻歌で録音したものを渡して「こんな感じのメロディなんだけど、90年代っぽく仕上げてほしい」と依頼します。「クリエイターズ・ファイル」も10年続けていて、同じスタイリストさん、メイクさんのチームで100キャラ以上作ってきています。僕はパソコン操作はしませんが、ディレクターさんと一緒に何度も映像を見て「ここを削ろう、ここを生かそう」と徹底的に編集にこだわります。
結局、ずっとやり続けていると「一緒にやりたい」と思ってくれる人が増えたり、仲間が集まってくれたりするんです。5年、10年と続けていくうちに「この人とは仕事がしやすいな」「この人は合わないな」「苦手だけど一回やってみよう」といったことがわかってくる。そのうちにどんどん仲間が固まってきた感じですね。
ロバートのファンからテレビ局のディレクターになった人もいます。ロバートのライブの内容を忘れないようノートに必死に書き留めていた少年を「メモ少年」と名付けたのですが、彼はその後メ〜テレ(名古屋テレビ放送)に入社しました。僕の世界観を理解し尽くしていて、一緒に番組を作ってくれる、いい仲間ですね。
結局「ウケる」かどうかが僕の判断基準なんですよ。僕が出ないほうがウケるなら出ないし、出たほうが伝わると思ったら出る。僕が出るとストレートに伝わることもある一方、自分が出ないで作品だけ監修する場合もあって、その方が「ウケるから」。
作家さんやスタッフが「秋山さんはこう思うだろうな」とわかってくれると、僕もそこを「任せようかな」と思える。任せても「ここがウケると思ってるんじゃないか」って編集してくれたり。それはありがたいですね。
子どもの頃のように、好奇心のまま、面白がって生きているか?
街で同じものを見ていても、子どもの頃から変なことが気になっちゃう。CMの表現や音とか、ちょっと変わった人とか、どうしても気になってじっくり見てしまうんですよ。それがネタになっていく感じです。子どものころから、今になっても変わらない。
北九州で培われた感覚はもうめちゃくちゃでかいです。自分が芸人という職業に就き、続けていくにあたって、北九州出身であることはかなり大きかった。もし東京で生まれていたら、芸人になっても今みたいなことができているかどうかはわからない。北九州独特のジャンクな感じや、独特の強い個性を持った人たちの面白さが、キャラクターを作るときに生きるんですよ。
僕は好奇心のまま生きて、面白いと思うことを大人になってもやり続けて、途中でやめていないだけ。小・中・高校くらいまで同じような好奇心を持って、同じことを面白がってやっていた友達はいっぱいいるんです。だけど大人になるとやめちゃう人が多い。僕はそれをやめずに、まだやり続けているだけです。結局は楽しいからやっているだけです。
「誰かのため」とか、「何かを世に出したい」といったことは実は後付けで、最初はあまり考えていなくて、とにかく自分がやりたいことをやりきりたい。それしかない。結果、楽しんでもらえたら嬉しい。
僕は趣味も特にないし、ゴルフもしないし、ギャンブルもしない。全部あまり興味がないんです。
ただ、ゴルフ自体は興味がないんですが、ゴルフ場を歩いてみるのはちょっと楽しそうだなと思います。ゴルフはしないけど、芝の上を歩きながらトークしてみたい。なんでもちょっと斜めに見てみて、「ネタにしようかな」と思うんです。

打てる球は全部、打っておいた方がいい
最近、不倫のニュースが多いじゃないですか。正直言って、こんなにいろんな人が不倫がバレて仕事を失う結果になっているのに、それでもまだ不倫をしているのって、本当に残念なことだと思っていて。単純に「抜きゃいいじゃん」と思っていたんです。
テレビ東京の「ゴッドタン」で歌を作るという話が出たとき、「じゃあ、“抜きゃいいじゃん”って曲を作ろう」と思ったんです。「不倫をするくらいなら、自分で欲を処理すればいいじゃん」というメッセージを伝えたいと。これはふざけて言っているようで、でも結構本質的な問題かもしれないと自分では思っていたんです。それで「Are you KENZEN?~僕らの魔法~」という歌ができました。
ある意味、自分の中でもずっとモヤモヤと心に思っていたことだったので、それを出せる機会になった。一石を投じる意味でも、あの場があってよかったんですよね。
そうですね、ビジネス・パーソン? とか、僕はそういう言葉すら使わないのですが、ビジネスパーソンのみなさんも「思いついたら形にしてみる」という姿勢を持ちたいという方は多いのかもしれません。
ビジネスシーンでも発想力や創造力が求められているとしたら、「思いついたらまず世に出してみる、やってみる」といいと思います。外してもいいから出してみないと、当たる可能性すらないのだから。
特に若いときはどんどんアイデアを形にしておいたほうがいいと思う。そこで失敗したら、逆に「この方向性はだめなんだ」とわかるし、経験値が増えるじゃないですか。本当に、打てる球は全部、打っておいたほうがいい。それで積み重ねたものがあるからこそ、今僕はいろんなネタをどんどん形にできているので。
色々と話しましたが、僕の言葉って大体「それっぽく言っているだけ」なんですよ(笑)。でも、それっぽいことをはっきり言いきったり、やりきったりすると、説得力が出たり、周りが解釈してくれたりするんです。
そう、最初から100点を目指さず、60点ぐらいで出してみたらいいんですよ。最初はそれっぽくやっとけばいい。後で帳尻を合わせればいいのだから。
text & edit by Aki Hayashi / photographs by Kohta Nunokawa / stylist : Ai Furusawa / hair and makeup : Yuka Ito

Ambitions FUKUOKA Vol.3
「NEW BUSINESS, NEW FUKUOKA!」
福岡経済の今にフォーカスするビジネスマガジン『Ambitons FUKUOKA』第3弾。天神ビッグバンをはじめとする大規模な都市開発が、いよいよその全貌を見せ始めた2025年、福岡のビジネスシーンは社会実装の時代へと突入しています。特集では、新しい福岡ビジネスの顔となる、新時代のリーダーたち50名超のインタビューを掲載。 その他、ロバート秋山竜次、高島宗一郎 福岡市長、エッセイスト平野紗季子ら、ビジネス「以外」のイノベーターから学ぶブレイクスルーのヒント。西鉄グループの100年先を見据える都市開発&経営ビジョン。アジアへ活路を見出す地場企業の戦略。福岡を訪れた人なら一度は目にしたことのあるユニークな企業広告の裏側。 多様な切り口で2025年の福岡経済を掘り下げます。