【元NewsPicks社長×地元企業3代目トップ対談】都市部の優秀人材が、地方を目指す理由

Presented by XLOCAL

大久保敬太

地方にこそ、可能性がある──。かつてNewsPicksの社長として全国のビジネス動向を追ってきた坂本大典氏は、地方ビジネスに特化したハイキャリア人材サービス「チイキズカン」を立ち上げた。ミナミホールディングス社長・江上喜朗氏は、地方からビジネスを変革し、斜陽業界でV字回復を実現した。地方ビジネスに懸ける2人の経営者対談から、そのポテンシャルを掘り下げる。

坂本大典

株式会社XLOCAL 代表取締役

同志社大学在学中、インターンとして創業直後の株式会社ユーザベースに参画「SPEEDA」「NewsPicks」の事業立ち上げに従事し、2019年に株式会社ニューズピックスの代表取締役社長に就任。2022年に退職し、翌年株式会社チイキズカン(現・XLOCAL)を創業。

江上喜朗

ミナミホールディングス株式会社 代表取締役社長

福岡を代表する自動車教習所「南福岡自動車学校」3代目社長。30歳で事業を受け継ぐと、業績のV字回復を実現。また、自動車学校のイメージキャラクターである「かめライダー」としても活動しており、年間30回以上の講演を行う。


チイキズカン

地方の企業が、都市部のプロ人材を採用するためのダイレクトスカウトサービス。複業で年収換算1000万円以上(※)の求人だけを掲載。成長や変革を目指す地方企業と、高いスキルを持つプロ人材のマッチングを行う。

※年間業務時間を2000時間として換算した場合の年収

ミナミホールディングス

福岡県で60年以上続く自動車学校を祖業とするグループ企業。オンライン学科受講のプラットフォームやAI教習システムの開発・提供、海外での教習サービス展開、CVCなど、テクノロジーを活用して経営・組織の変革を推し進めている。


都市部の優秀人材が、地方を求めている?

──まず、お二人が展開している事業について教えてください。

坂本氏 私は2022年末にニューズピックスを退職し、いまは生まれ故郷の愛媛県に住んでいます。前職を辞めてから3カ月ほど日本各地をめぐっていたのですが、地方の企業に多くの可能性を感じました。日本が世界と戦える産業は、食・モノづくり・観光の分野です。地方が面白くなれば、日本のグローバル化はもっと進むと考えます。

地方には面白い経営者がたくさんいます。しかしイノベーションを起こす商品やサービスはなかなか出てきません。理由は、経営者の右腕となる存在に多様性がないからだと考えます。そこで地方の企業と都市部のプロ人材を複業でつなぐ「チイキズカン」を立ち上げました。

昨年、サービスをローンチしましたが、地方の仕事を求める人の多さを実感しています。例えば、有名企業の経営層が地方の町工場やスタートアップに複業でジョインするという事例も、すでに出始めています。

江上氏 私は、これまで斜陽産業と呼ばれる教習所事業の変革や、AIなどを活用した新規事業の開発などに取り組んできました。さまざまな人を外部から招聘してきましたが、外部の優秀な人材が経営に与える影響の強さを実感しているところです。

また私自身も出資している会社にモニタリング・ボードとして参画することがありますが、むしろ自分の勉強になることのほうが多いです。

坂本氏 経営者で複業したいという人は多いんですよ。同じ環境でずっと仕事をしていると、新しい情報に触れる機会が少なくなって、成長の源泉もなくなっていきます。新しい環境に身を置いた瞬間に、インプットが増えていきます。

「複業」は組織を変えられるか 鍵は「内部人材」としての活動

──これからの人材戦略のあり方について、どのようにお考えでしょうか。

坂本氏 若い世代が減っていくなかで、いままでと同じやり方をしていたら、人が採れなくなるのは明確です。正社員採用は売り手市場ですが、地方の複業採用となると買い手市場。地方を目指す優秀な人材は多いのです。

近い未来、同じ時期に集団で面接を受けて会社に入る人は減り、複業で関係性を築いたのちに正採用に移るというように、採用のあり方も変わると考えています。

江上氏 当社でも社員の複業を許可しています。有効な施策だと思う一方で、組織の変革を担う「経営層」での外部人材の採用には、課題も感じています。いくら優秀な人だとしても、外から来た人にいきなりロジカルなことを言われたところで組織は動きません。同じ釜の飯を食べて、一緒に泥にまみれながらやっていかないと、変わらないなと感じています。

坂本氏 おっしゃる通りです。「チイキズカン」では、社外取締役として採用された人はほとんどいません。私たちが推奨しているのは、限られた時間でもしっかりコミットする「内部人材」になってもらうことです。内部人材とは組織図に名前があり、時には名刺も持ち、「御社」ではなく「当社」として向き合ういわば同僚です。その為にも、プロジェクトが開始するときには現地まで足を運んでもらい、しっかりと関係性を築いた上で開始することを重視しています。

また、複業人材にはフルタイムの若手を1人つけることもお勧めしています。複業人材のパフォーマンスを最大化するのと同時に、自社の若手の成長機会を得ることができます。

世界を狙うポテンシャルが、福岡にはある

──経営者のお二人は、福岡からどのような未来を描いていますか。

江上氏 私はこれまで教習所業界の変革に取り組んできましたが、同じようにテクノロジーに課題のある業界は地方に多く残っています。地方の中小企業と先端技術をつなぐことが日本経済の底上げにつながると思うので、そういった業種業態の改革に挑戦していきたいです。

坂本氏 私が2008年にスタートアップにインターンとして入ったとき、リーマン・ショックの冬の時代があるなかで、誰もスタートアップに見向きもしませんでした。それでも、絶対来ると思っていました。いま、あのときと同じような“におい”を地方に感じています。私が地方にコミットしているのは、本気で「地方こそ日本の未来」だと思っているからなんです。そのなかで、福岡は特にポテンシャルが高い。福岡に誇りを持った経営者もたくさんいます。そういう方たちを人材の面でサポートし、共に世界を目指したいです。

※本記事では「副業」の表記を「複業」に統一しています

text by Satoshi Kokubu / photoglaphs by Shogo Higashino / edit by Keita Okubo




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