「更年期」という言葉を変えたい 自分ごとから生まれるアクションで熱量を伝播する

Ambitions編集部

累計販売枚数が11万枚超、最大150mlの吸水が可能な超吸収型サニタリーショーツを開発し展開するBe-A Japanの山本未奈子さん。これまでナプキンやタンポンなどがメインだった生理用品の分野に、優れた吸水力で交換しなくても穿き心地良く1日を過ごせるショーツを投入し、フェムテック市場を切り拓いている。常に熱量を持って仕事をしてきた山本さんだが現在、更年期障害の症状に悩みながら日々を過ごしている。更年期をきっかけに「心の火は消えてもいい。またつくので待てばいい」と考えるようになった山本さん。背景にある思いとは。

山本未奈子

株式会社V Holdings 代表取締役Co-CEO、MNC New York株式会社 代表取締役CEO、株式会社Be-A Japan 取締役

12歳から大学卒業までをイギリスで過ごす。UCL(ロンドン大学)を卒業後、帰国し商社と外資系証券会社に勤務。32歳の時ニューヨークの美容学校Atelier Esthetique Institute of Esthetics へ入学し、首席で卒業。同校で教鞭を執る。拠点を日本に移し、2009年にMNC New York株式会社を設立。2022年5⽉、株式会社V Holdingsを髙橋くみと共に設⽴。フェムテックブランド「Bé-A」などを運営。

「肌の悩みを解決したい」 社会課題解決の原点

超吸収型サニタリーショーツ「Bé-A〈ベア〉」シリーズを展開するBe-A Japanは2022年6月、世界初(2022年11月現在、Be-A Japan調べ)となる経血量を測定できる吸水ショーツを、独自技術で高導電性の銀繊維を開発するミツフジ(京都府精華町)と共同開発すると発表した。導電性を持つ糸をショーツに採用し、ウェアラブルデバイスを搭載することで、スマートフォンのアプリで経血量を毎日確認できるという。

こうした商品を展開し、新たな市場を切り拓いているのが、Bé-Aを立ち上げた山本未奈子さんだ。山本さんは33歳の時に「肌の悩みを解決したい」との問題意識から化粧品会社を創業した。その後、女性の8割がサニタリー期間に悩みを抱えている点に着目し、2017年に吸水ショーツを開発。社会課題解決について模索を続ける中で、2020年のいわゆる「フェムテック元年」の波に乗る形で開発した商品の認知を広げていった。

離婚、出産、更年期…… 経験をもとにした説得力

しかし、その道のりは順風満帆とは言えなかった。山本さんは、3人の子どもの出産・育児、離婚、卵巣の腫瘍、そして最近では更年期障害と、さまざまな困難と常に向き合い続けてきた。そんな山本さんの原動力は、これまでのリアルな「人生経験」だ。

「生理や更年期などの悩みは誰にも言いづらいなと感じていました。例えば、私の子どもがナプキンを学校に持っていく時、ポーチに入れた上で服の袖にそのポーチを隠しているのを見て『私が小さい時と何も変わっていない。生理現象なのになぜそれを隠さないといけないのか。教育が行き届いていないのではないか』ということに気が付きました」

「更年期」「老年期」という言葉を変えたい

山本さんは生理や出産、更年期などについて様々な課題があることに誰もが気付き始めていると感じている。フェムテック市場や女性のヘルスケア市場の盛り上がりもその裏付けとみており、自身が抱える問題は「誰にでも共通する悩み」だと捉えて課題解決に取り組んでいる。

「更年期、その後の老年期は長いです。人生100年時代と言われますが、閉経して更年期が終わると、場合によっては残りの人生50年近くが老年期となってしまいます。その時にサポートできる商品や情報が現状は少ないです」

日本産科婦人科学会は、更年期についてめまい、動悸、頭痛、肩こりなどの身体症状のほか、気分の落ち込み、意欲の低下などの精神症状が現れ、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を更年期障害と説明する。自身が直面した更年期の問題は誰しもに共通する悩み……。山本氏はこれまで以上に情報発信や教育に取り組むとともに、「更年期」「老年期」といった名称を変えたいと話す。

人には自分に合った熱量の上げ方がある

フェムテック市場で社会課題の解決を進めてきた山本さんは、どのように自身のモチベーション、熱量を上げてきたのか。そして、ビジネスパーソンが熱量を上げて仕事に取り組むためにはどうすればいいのか、聞いてみた。

「人によって得手不得手や好み、熱量の上げ方も違います。何よりも自分を知ることが一番大切です。自分がやっていて心地よくないことは続かないので、続けられることを見つけます。私は自分のことをオープンに話すのが心地良いですが、積極的に話すことを好まない人もいますし、その人なりのコミュニケーションの取り方があると思います」

山本さんは起業家の立場で意識的に高い熱量で発信していくことで、それを100人、さらに1000人に伝播していきたいと話す。それが結果的に、長い年月をかけて世の中を変えていくきっかけにつながると信じ、アクションを続けている。

「みんな心に火はつきますが、実際に行動するかは別です。私は着火するとすぐ行動します。行動を起こすことはすごく大事です。日頃から辛そうだなとか嫌だなと思うことでも、実際に行動に移すと必ず何かの糧になります。着火した瞬間の行動を私はイメージします」

無理に着火はしない、でも着火を逃さない

こうした考え方は、山本さんの更年期の経験が大きく影響している。最近まで、すべてのことに対して無関心となり、何に対しても興味が持てなくなった時期があったという山本さん。

「私どうなるんだろう、何のために生きているんだろうと思った日がありました」

苦しさを経験した今だからこそ、伝えられることがある。

「無理に火をつけようと焦る必要はありませんが『着火できる機会を逃すな』ということだと思います。例えば、転職、引っ越しなど、人生の節目となるタイミングで行動に移すのがすごく大切です」

着火についての考え方は、山本さんの思い描くビジョンに裏付けられている。そのビジョンをビジネス、そして毎日の生活で遂行していくことで、山本さんの熱量に共感する人は増え続けている。

「着火後に熱狂が生まれたら、機会を逃さず、その熱狂に乗ります。私の熱量をとにかくいろいろな人に伝えることで、同じく現状にもやもやした思いを抱く人の共感を増やしたいです」

【私の着火法】

「着火できる機会を逃すな。着火後に熱狂が生まれたら、その熱狂に乗れ」

(2023年1月20日発売の『Ambitions Vol.02』より転載)

text & edit by Masaki Nishimura / photograph by Takuya Sogawa

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