さらば青春の光に学ぶ 3人で年商3.7億。最小組織で最大の結果を出す仕事論

Ambitions編集部

大手芸能事務所の松竹芸能から10年前に独立したお笑いコンビ「さらば青春の光」。個人事務所からテレビや単独ライブだけでなく、YouTubeやネット番組など活動の幅を広げている。右肩上がりの成長で2022年の年商は3.7億円、給料も毎年ベースアップと絶好調だ。森田哲矢と東ブクロの働く姿勢は、働きアリとキリギリスのように対照的。ただ、マネジャーとの異例の「ギャラ3等分」で足並みをそろえ、今日も楽しそうに活躍している。 互いのリスペクトも忘れない最小のチームが持つ、ファンを熱狂させ、最大の成果を出し続ける力とは──。正解の見えない時代、個の力が問われ、チームとしてもこれまで以上の成果が求められる中、事業アイデアや新規企画を生み出し、推し進めるべく奮闘するビジネスパーソンにもヒントになるはずだ。90分を超える単独インタビューで探った。(2023年9月29日発売の『Ambitions Vol.03』より転載)

さらば青春の光

2008年結成。11年に「第32回ABCお笑い新人グランプリ」の優秀新人賞を受賞。12年の「キングオブコント」で準優勝に輝き、その後も13年、14年、15年、17年、18年に決勝に進出している。M-1グランプリ2016ファイナリスト。松竹芸能を退所後、13年10月に個人事務所「ザ・森東」を東京・五反田で設立。テレビやラジオ、ネット系のレギュラー番組に多数出演。YouTubeで6つのチャンネルを運営するほか、年に1度の単独ライブツアー、「さらばBAR」やオンラインサロンの運営など活動の幅を広げる。

森田哲矢

1981年8月23日、大阪府出身。ザ・森東の社長。ネタ作りと企画を担う。趣味はフィンランド発祥のスポーツ「モルック」で、世界大会ベスト8に貢献。

東ブクロ

1985年10月6日、大阪府出身。ザ・森東の副社長。趣味はゴルフとフィギュア収集。2017年にネット番組の姓名判断企画で芸名を改名した。

働き森田とキリギリス、4層の「巣作り」で楽しく稼ぐ

“日本一のコント師”を決めるお笑いコンテスト「キングオブコント」決勝の常連だった「さらば青春の光」。活躍の場はいま、“4つの層”からなる。互いに補い合う事業のポートフォリオ(組み合わせ)は、多角的経営とも複業とも言える。2人に働くマインドセットを聞いた。


森田 テレビの仕事はいま増えています。YouTubeも6チャンネル運営し、ネット系番組もあります。あとはライブや営業。大きく分けて4つの仕事の割合が、25%ずつくらいですかね。

絶対やっていこうというのは、年に1度の単独ライブです。準備を含めて3〜4カ月は割いているかな。2017年の当初は80人を集めるのも大変だったのが、動員を毎年増やせていて、2023年は全国6都市で2万人分のチケットを完売。今後も伸びていけばいいなと。

お客さんがお金を払って来て、目の前で笑うか、笑わないか──。芸人の祖業で、評価が明確に目に見えるから、一番やりがいがあります。ほかは「こういう仕事を増やしていこう」とか、あまり思わないです。

テレビ番組に出ているのは、知名度を上げるのと、昔からの憧れ。ただ(キングオブコントやM-1など)賞レースへの出場は、2018年を最後にやめました。全精力を注ぐ割に、優勝できないとリターンが少ない。長い目で見たときに、違う仕事に手を出したり、自由にネタを作ったりしたほうがいいと思ったんです。

その一環で始めたYouTubeへの動画投稿も「テレビで見られないオモロイことをやる」というスタンスで変えてないです。今はモルックのチャンネルを1つ増やそうか、ぐらい。

ネット系の番組は、テレビやYouTubeを見た人たちから声をかけてもらい、それらの人気から呼ばれることがあります。ギャラがテレビの世界と雲泥の差でCMに近いぐらい高く、感謝です。

森田 2023年の年商は2022年(3.7億円と公表)の2倍と言わないまでも、ちょっと上回るんじゃないですか。でも、これだけ働いてもそれぞれの給料は億に到達していない。

一つあるこれからの事業案は養成所ビジネス。一番合法的にお金を取れるセミナー事業です(笑)。ただ、稼ぎは現状で満足してて、仕事のモチベーションの中で実はそれほど占めてるわけじゃないんです。もっとモテたいとか、面白いと言われたいとか。

会社の伸び代はブクロの存在です。僕は働きすぎで疲れてますけど、ブクロは(童話『アリとキリギリス』の)働かない側のキリギリスやと思います。

週末が生きがい 「会社員の気持ちがわかる」

東ブクロ そんな! オファーがあれば仕事しますよ。ただ「やりたくもないですけど」という感じですね。売れたくもないし、忙しくなりたくない。

テレビの世界に憧れて、いまはネットの仕事が多くなっていますが、差はありません。ただ、ライブはお客さんからこちらの様子が全部見えてしまって、一番サボりにくいなと思ってます(笑)。

今はゴルフが生きがいです。月曜から金曜まで会社で仕事に精力を注いで、土日が徐々に近づいて、はっちゃけられる。みんなの気持ちが僕にはよくわかりますよ。逆に休みがないと「楽しみどこにあんねん?」と思うときがあります。

お笑いへのモチベーションは、本当にないです。ゴルフができなくなったら、この仕事を辞めようと思ってるので。

森田 ゴルファーになってくれ! マスターズとかで見たいんですよ。一番面白いお笑いでしょ。ただ、ブクロはこのぐらいのスタンスのほうがいいです。今はスキャンダルだけやらずに生活してくれ、ということだけ言ってます。

「スピードと実行」 ファンをとりこにする企画力の源

賞レースから退いた2018年に始めたYouTubeでは、動画を次々にバズらせるさらば青春の光。「テレビで絶対できない」「時事ネタを不謹慎にいじらせたら天才」「個人事務所の強みをフル活用」......。公式チャンネルに2023年7月末に公開した1本の動画にはファンの推しコメントがあふれ、視聴数は2週間で約250万回に。チャンネル登録者数を100万人に押し上げた。

どの組織もアイデア出しの企画会議は開くが、形にするまでの何が「さらばらしさ」なのか。一つは、少数チームで発想から価値の提供までが、とにかく素早いことだろう。「アジャイル経営」と言える。ネタ作り・企画担当の森田が、自身のアウトプット・インプット術を明かす。


ヒットを次々に生みだす森田哲矢の企画術

アウトプット

  1. 行き当たりばったりでも、スピードとタイムリーさが重要
  2. うだうだと考え続けるなら、実行に移したほうがいい
  3. 思ったほどバズらなくても「3本に1本のヒットでOK」

インプット

  1. 日頃からX(旧Twitter)のトレンド情報をチェック
  2. 企画が行き詰まると、ビジネス系の録画番組を見る(報道ステーション、プロフェッショナル 仕事の流儀、情熱大陸、ガイアの夜明けなど)
  3. スマホを「ネタ帳」代わりに。アイデアはすべてメモ

動画を使った顧客リーチは、どの企業も悩みの種だ。コツはあるのだろうか。

森田 企画のネタは、全方位から誰が見ても設定や本質がちゃんと理解できるような作りにしています。だからライブでは老若男女が来てくれるのかな。見る人に伝わらないのが一番の悪ですから。

YouTubeの動画づくりに限れば、テレビやお茶の間では見づらい内容を視聴者がスマホで1人で見られるような内容にすることが良いのかなと思います。企業が表向きに出すのとは違うメッセージやトーンということでしょうか。

仕事が自然と舞い込む、3つの「やっぱり」

YouTubeに軸足を移し、古巣のテレビ界から敬遠される芸人もいる。大企業を去った転職者に向けられる目線にも似ている。一方でさらば青春の光は、新旧メディアをうまく渡り歩く。仕事が自然と舞い込む背景には、2人が「やっぱり」と口をそろえる姿勢が3つある。


「やっぱり、弱者に見えたほうが応援されやすい」(森田)

森田 業界の人たちから、かわいがられている感覚は別にないですね。ただ、やっぱり弱者に見えたほうが、「困ってんやったら、この仕事あげようか?」と。甲子園の高校野球の試合を見ていても、負けてるほうを応援したくなるじゃないですか。

「やっぱり、楽しそうにしていると人が集まる」(森田)

森田 やっぱり楽しそうにしているところを見せたほうが人とお金が寄ってくるな、と。YouTubeで動画の投稿を始めてから世間がより見えるようになったんですよ。いろんな人が「一緒にやりたい」って声をかけてくれて。

企業でも裁量権次第じゃないですか? 上の世代の人たちって楽しそうじゃないですか。

「やっぱり、ビジネス感を出しすぎてもあかん」(東ブクロ)

東ブクロ ビジネス感が出すぎてもあかんやろなと思います。芸人って、なんかバカにされとかなあかんと思うんですよね。崇められすぎると、絶対やりにくくなると思うので。

五反田で“三人四脚”の経営ハック、マネジャーと給与3等分

松竹芸能所属のお笑い芸人だった2人は、10年前に自ら飛び出して会社経営を「ハック」。東京・五反田の個人事務所「ザ・森東」を拠点に、芸人の働き方の常識を変えている。マネジャーとの“三人四脚”で取り組むザ・森東の経営術を解き明かす。


森田 事務所がある五反田って、地名から連想するイメージの割に、実は土地も家賃もめっちゃ高いし、IT企業もたくさん進出してるんです。

でも「どこ住んでんの?」と聞かれて、目黒や代官山、恵比寿と言うよりも五反田って嫌味がないんですよ。「お前はホンマ相変わらずやな」って。

地元の商店会の人が企画の協力をしてくれたり、お仕事もいただけたり。YouTubeのファンが「聖地巡礼」って訪ねてきてくれることもあります。そのせいで、俺はちょっと夜の街に行きづらくなっていますが(笑)。


マネジャーは所属事務所の社員給料という事例が多いなか、芸能界では異例の「3人の給与を3等分」している。


森田 3等分のほうがマネジャーが仕事を頑張れる。「こいつが1億を稼いだら、自分も1億を稼げる」と運命共同体になるためです。逆に大組織で働く芸人のマネジャーは「やりがいどこにあるんやろ?」と思います。

3人の給料は僕が決めて、賃上げも毎年30%ぐらいしています。3人のやり方が珍しがられて仕事をいただくこともあります。もし大組織に今もいたら、先輩芸人と愚痴を言い合って終わってるかもしれませんね。

「ブクロは存在」「森田はしつこさ」 互いの強みを語る

今の幸福度を聞いたところ、マネジャーと共に「100点」と口をそろえた。3人に互いの強みを語ってもらった。

森田 ブクロはスターで、存在そのものですよね。スキャンダルも起こしてるスターに何を言っても、何をやっても、みんなが笑ってくれる。うらやましいです。

あとは運がめちゃくちゃ強い。キングオブコント決勝に初めて進出したとき「自分の人生でそういうこともあるんだ」って思いました。それが2年、3年と続き、テレビの仕事が増えたのも全部コイツの運じゃないかなと。

俺は今まで、運がずっとなかったんです。トントンかマイナスの人生でした。こいつの天性の運が、さらば青春の光の運だと思います。

東ブクロ 良くも悪くも、森田はしつこいところがあります。「ウケたんやったら、もうえぇやんけ」と僕が思っても、舞台の出番直前で内容を変えてくるんです。

YouTube動画も「うまくいってるんやったら、その流れに乗るよ」と、こちらから企画に意見は何も言わないです。

助かっているところはあります。「さらばと言えばこんなネタ」とお客さんに思ってもらえるような企画も、森田のしつこさがないと、多分ここまで支持されていないと思います。

森田 ありがとう。「ありがとう」と記事に書いといてください(笑)。

マネジャーのヤマネさんはコミュニケーションのお化け。一番マネジャーに向いています。あとは家族を養うという使命感が今の俺たちの忙しさにつながっている(笑)。

東ブクロ ヤマネさんはどこの現場でもキャップと半パンで行ける。でも、仕事相手になめられても、全部負けては帰ってこない。スーツ姿でヘコヘコしてると、今の森東はないと思います。

森田 さすがに「スーツ着てこいよ」と思う現場もありますよ。

ヤマネ (笑)。森田は「面白ければ何でもOK」という軸が絶対にブレない。不満も「何かおもろい企画に変われへんかな」って全部変換するんですよね。みんなWin-Winになるんです。

ブクロは、森田が突き進んでいく笑いに乗っかる力がハンパない。ずっとついてきている。結局は2人でちゃんと走れており、起きたことすべてを全員で笑いにできているのが、ザ・森東の良いバランスだと思います。

「俺らなんて、こんなもん」と思えるか

東ブクロ 僕は森田に何か思っても別に言わないですね。森田にすねられたら、ややこしいところがあるので。気持ち良くやってくれたら、それでいいんじゃないですか。

森田 こっちのセリフやねん全部。僕も割と「黙っとけるタイプ」です。出すならメディアで、裏では出さない。体調を壊すほどの我慢はあかんけど、うまくいくんやったらいいや、と。

なんで幸福度が100点かというと、自分をあんまり高く見積もってないからです。「俺らなんて、こんなもん」「今なんて、めっちゃいいやん」って。

企業や大組織で働く人たちの不満は全部はわからないですが、「不満ならもう1回、自分の能力を見つめ直したら?」「本当に能力があるなら、その使い方をあなたがミスってるってことでしょう?」と思います。

あとは「自分を評価してくれるところに行けばいいやん」と。俺も松竹時代はイキってたんやなと、いま振り返って思います。

東ブクロ 結局、個々のタレント力でしかないかな、と。大企業に入ったからこそできる仕事もあるけど、それだけで一生はやっていけないでしょう。

松竹を辞めてから僕も気づきました。タレント力がないから、これまで売れてなかったんです。会社に「これは譲れない」とか、今はあんまりないです。全部、自分次第ですから。

森田 僕らはこうして独立して楽しくやれています。ただ大組織の人達には、それがかなわないけど、うらやましいと思ったり、行動しづらかったりする人たちもいますよね。そんなときに「アイツら見てたら簡単そうやな」って、組織の外でも内でも、行動しやすい世の中になればとは思います。

text by Hidefumi Nogami / photographs by Kaori Nishida / edit by Miho Matsuura / stylist : Hiroko Okuda / hair and makeup : Manami Takenaka 衣装協力:アーバンリサーチ iD

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