
これは、スター社員でもなんでもない、普通のサラリーマンの身の上に起きた出来事。ひとりのビジネスパーソンの「人生を変えた」社内起業という奇跡の物語だ。
「ええ、川島さん。順調に進んでいますわ。二次審査突破も、ほぼ確実でしょう。」
飯島真理は、自信に満ちた声で電話口の川島に報告していた。ネットワーカーズが開発を進める、産業用ロボットの制御システムは、順調に開発が進んでいた。メンバーそれぞれの個性と能力を活かし、飯島は巧みにチームをまとめていた。
「田中さんのアドバイスは的確で、本当に助かっています。特に、ビジネスモデルの収益化プランについては、目から鱗でしたわ。」
飯島の言葉は自信に満ち溢れていた。
彼女が率いるネットワーカーズには、メンターとして、数々のスタートアップを成功に導いた、田中純一がついていた。田中は、豊富な経験と鋭い洞察力で、飯島たちの事業計画に、具体的な戦略と実現可能な収益モデルを組み込んでいった。
「あとは、社内調整です。特に、製造部門と開発部門からの協力を取り付けるのが、最重要課題だ。」
飯島は、田中のアドバイスに従い、社内におけるキーマンとの関係構築にも余念がなかった。
「ええ、そこは抜かりありませんわ。製造部の村田部長とは、先日、ゴルフをご一緒させていただきました。彼の趣味のゴルフクラブの話題で、すっかり打ち解けましたわ。」
飯島は、巧みな話術と計算高い戦略で、社内の人間関係を攻略し、プロジェクトを有利に進めていた。
「川島さん、見ていてください。この新規事業コンテストで結果を出して、私たちも、経営の中枢に食い込んでみせますわ。川島さんも、グローバルコネクトとの大仕事、頑張ってくださいね。まとまることをお祈り申し上げますわ。」
飯島の野心は、単に新規事業を成功させることだけに留まらなかった。彼女は、このプロジェクトを足掛かりに、男社会である富士山電機工業の中で、自らの地位を築き上げようと、虎視眈々と機会を伺っていたのだ。
「ええ、近いうちに。必ずまた、ご報告に伺いますわ。それでは、失礼いたします。」
電話を切り終えた飯島の顔には、冷酷なまでの笑みが浮かんでいた。すべては、彼女の計画通りに進んでいた。